公益通報を行った結果、会社から不利益な取り扱いを受けたとして、勤務先に損害賠償を求めている女性3人らが11月7日、都内で会見。それぞれが受けた被害の実態について語った。
法律上は「通報を理由にした減給などを禁止」
この日会見に参加したのは獨協医科大学埼玉医療センターで働く言語聴覚士の女性Aさんと、その代理人の河野冬樹弁護士、そして勤務先を相手に本人訴訟を起こしたBさんとCさんだ。
公益通報とは、事業者による違法行為について、労働者らが、企業内部の通報窓口や行政機関、報道機関などに通報することをいう。
そして、公益通報者保護法では、事業者による、公益通報を理由にした通報者の解雇は無効になると規定。さらに、降格や減給などの不利益な取扱いについても禁止している。
ただ、警察関係者の犯罪について内部告発した鹿児島県警の元幹部が、内部文書を漏洩したとして逮捕されたケースや、兵庫県の職員が知事のパワハラなどについて内部通報を行った後、懲戒処分を受けたりしたケースもあり、十分に機能しているとは言い難い。そこで現在、法改正を含めた制度の見直しが議論されている。
この日会見を行った3人も、それぞれ勤務先の不正や、ハラスメントについて通報したがその後、不利益な取り扱いを受けたと主張した。
内部通報後にパワハラや業務外し… 当事者が被害の実態語る
Aさんは勤務先での、診療報酬の不正請求について内部通報を行った結果、誹謗中傷やパワハラを受けていたとしている。
この事件についてAさんは損害賠償を求め、勤務先や上司らを提訴。
2020年の一審(さいたま地裁越谷支部)では勤務先に50万円の支払いを命じる判決が下され、今年7月の二審東京高裁判決でも維持されたが、被告側が上告しており、現在も争いが続いている。
人材派遣会社「パーソルテンプスタッフ」の派遣社員として働いていたBさんは、派遣先のNTTデータでのセクハラや契約違反について内部通報・公益通報した結果、報復的な解雇が行われたと主張。
裁判ではセクハラや解雇について争い、一部の行為はセクハラと認められたものの、違法とまでは認められず請求棄却となっており、現在は中央労働委員会にて再審査中だ。
また、ENEOSで働くCさんも内部通報を行った結果、担当業務が「グループ内庶務」に限定されるなど、不利益取り扱いを受けたと主張している。
「保護法の“建前”実際にはなかなか機能せず」
Aさんの代理人である河野冬樹弁護士は会見で、「公益通報者保護法には問題があると感じる」と話した。
「保護法では通報者について、通報を理由に、不利益な取り扱いをしてはならないという風に定めており、本来通報によって、被害が生じるというのは起こるはずの無いことです。
ただし、当然、事業者側は『通報されたから不利益な取り扱いをした』などと認めるはずがありません。
たとえばAさんの場合であれば、被告側は仕事のあら探しを行い、不利益な取り扱いの理由については、通報が原因ではなく、あら探しの結果出てきた、書類の細かいミスなどが理由と主張してきたわけです。
Aさんの裁判では、幸いなことに、被告側の主張がある程度否定されて、こちらの主張が認められました。
しかし、この通報を理由に不利益な取り扱いをしてはならないという法の“建前”は、立証責任の問題から、なかなか機能していないというのが実態ではないでしょうか」
消費者庁が法改正を議論も「空文化の恐れ」指摘
公益通報者保護法を管轄する消費者庁では、今年5月から有識者会議を設置。法改正にむけた議論を進めており、報道によると、公益通報を理由とした解雇や減給などの処分に対し、罰則を設けることが検討されているとのことだ。
この動きについて、河野弁護士は「ちょっと皮肉な見方ですが」と前置きしつつ、次のように懸念を示した。
「先ほどの話と重複するところでもありますが、正直、検察が不利益な取り扱いの理由が“通報”にあると、どうやって検察は証明するのだろうかと思います。
民事でも、あまり証明が認められたケースがありませんから、無罪判決を嫌う検察のことを考えると、『立証できない』として、起訴をためらう可能性があるのではと思ってしまいます。
そして、その結果、法律も空文化してしまうのがオチじゃないでしょうか」
企業の不正を発見し、通報者を守るための法律だが、“保護”をどう担保していくのかは丁寧な議論が必要といえそうだ。