少数与党となり、政策遂行に遅延のリスク

今後、自民党と公明党の両党は連立相手を探すことになります。

ただし、連立相手の最有力候補と考えられている国民民主党(28議席)と日本維新の会(38議席)のいずれも昨日27日の時点では自民・公明との連立を否定しています。

両党は、自民党の一部議員による政治資金収支報告書への不記載問題や「新2,000万円問題」(→自民党本部が非公認とした衆院候補の党支部に、公認支部向けと同額の2,000万円を支給していた問題)を厳しく批判して党勢を拡大しました。

また、来年夏には、さらなる党勢拡大の機会となりうる第27回参議院議員選挙(現任の任期満了日:2025年7月28日)を控えます。

合わせて、国民民主党の玉木雄一郎代表にとっては、今年初めのガソリン税の一部を減税する「トリガー条項」の凍結解除をめぐる自民・公明との協議で党内外からの信頼を失った苦い経験も思い出されます。

(株価にとってはポジティブとみられる)過半数を得る連立政権樹立の目は完全になくなったわけではないものの、自民党と公明党は衆議院の過半数を得る連立相手を見出せず、少数与党として政策ごとに他党と協議をし、閣外協力を得る不安定な政権運営を迫られる可能性があります。

(2020年の特別定額給付金の支給対象など)自公政権の枠組みでさえもそうでしたが、少数与党でも多数の連立政権樹立の場合でも、予算や立法のプロセス、ならびにそれらの執行にはいままで以上の時間を要するとみられます。

日本の政治やその基盤は、少なくとも今後数ヵ月の間、場合によっては数年単位で不安定になる恐れがあるでしょう。

また、国際政治についても、欧州と中東の2地域で戦争が続き、覇権国家である米国の軍事や財政支出の能力に疑問が生じるなかで、日本の不安定な政治基盤が極東の一部の国々に勢いを与える可能性も考えられます。

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財政に頼らない政策や企業改革は「積極化」する可能性

目先の話をすれば、補正予算に関する野党への協力模索を含め、日本株市場はいくぶん不安定な状況に置かれる可能性があります。

米国での新政権の誕生は、資本市場の動きを通じてのみならず、新たな外交・通商・経済・産業政策が日本の経済全般や企業の競争環境にも影響を与えますから、不確実性をもたらす材料です。

ただし、日本の株式市場の投資家にとってより重要である中長期的な株価の動向を考えると、①経済政策の観点では、企業統治改革(持ち合いの解消や株主還元の積極化を含む)、資産運用立国、労働市場の流動化、(ライドシェア解禁に象徴される)国内の各種規制の緩和、海外人材の受け入れ積極化など、財政の関与が小さく、なおかつ国内外の投資家が好む政策は継続され、むしろ積極化する可能性があるでしょう。

政権基盤が弱くなるほど、(財政均衡を志向する)財務省や(国際投資家の意向をくむ)米国の新政権の影響力が増すため、こうした(財政に頼らない)現実的な政策は(新たな政権基盤が自民・公明・維新・国民の枠組みである限り)これまでに考えられていたよりも早く進むかもしれません。

また、そうした経済政策の方向性に加え、中長期的な株価は、②企業のファンダメンタルズを反映します。

日本企業の収益性向上に向けた取り組みは始まったばかりです。日本企業は、過当競争の解消や株主還元の積極化などにより、他国に比べ、マージン(利益)やROE・ROIC(株主資本利益率・投下資本利益率)といった資本効率を引き上げる余地が大きいと考えられます。



[図表3]日米株式のマージン(利益率、実績値、水準、1株ベース)

加えて、そうした日本企業の「内からの改革」のみならず、米国やアジアの有力企業は日本を設備投資や研究開発の拠点として選択する例も広がっています。限られた経済政策や積極的な企業改革が日本企業のファンダメンタルズや株価を押し上げていく状況にはまったく変わりがないと考えられます。

日本株式市場の投資家は、経済政策や企業の統治改革といった中長期の方向性をしっかりと見据えて、投資行動を決定すべきでしょう。