日本医療労働組合連合会(日本医労連)は11日、医療従事者のための保育施設「院内保育所」で働く保育士の待遇改善などを、厚生労働省とこども家庭庁に要請。同日、都内で会見を開き、「院内保育所」についての2023年度の実態調査結果を発表した。
「医療従事者支え、重要な役割はたす」
院内保育所は、病院で勤務する医師や看護師のために設置されている保育所で、労働時間など、働き方が不規則な医療従事者が、子育てをしながらでも働き続けられるよう、整備されている。
日本医労連の佐々木悦子中央執行委員長は、その存在意義について次のように説明する。
「たとえばコロナ禍では、通常の保育園では休園する園もあったなかで、院内保育所では、24時間昼夜を問わず働く医療従事者のために開園し続けるなど、これまでには重要な役割をはたしてきました」
企業への委託進むものの…「今後廃止・撤退の可能性」
そんな院内保育所だが、調査結果によると、施設の設置主体は約9割が病院であるのに対し、その運営主体は病院が44.5%、企業が35.6%となっている。
2012年度の調査では院内保育所の運営主体は、病院が6割程度を占めており、年々企業への委託が進んでいるという。
一方、2023年度の調査では、8割以上の施設で定員が埋まっていないことが判明。
佐々木委員長は会見で、「企業委託の場合、利用者数や儲けが少なくなっていけば、廃止・撤退の議論が出てきてしまう可能性がある」と危惧した。
保育士の処遇改善、院内保育所は対象外
上述したように、院内保育所は看護師や医師として働く人のための保育施設であることから、長時間や夜間、土日の保育も行われている。
調査結果によると、閉園後の延長保育を実施している施設のうち、5割の施設が「お迎えがあるまで」園児を預かっているといい、さらに「13時間以上」の保育時間を提供する施設も昨年度より増加。
この点について、医労連による調査結果の報告書では「医療従事者の働き方が過酷を極めていると同時に、医療現場の状況が、子どもの在園時間を伸ばし、保育士の労働時間を延長することにつながっている」と推察している。
そこに追い打ちをかけるように、院内保育の現場を苦しめているのが賃金水準の低さの問題だ。
保育業界全体で見れば、政府は保育士数確保のため、保育士等の処遇改善加算を開始。認可保育園で働く保育士の賃金は2022年の2月以降、月額平均で9000円引き上げられた。
しかし、実態調査に回答した施設のうち93%以上がそうであるように、院内保育所の多くは認可外であり、処遇改善加算の対象にはなっていない。
実際、調査結果によると、院内保育所の保育士の初任給は平均17万5511円で、単純な比較はできないものの、厚労省が発表している「20歳~24歳」の保育士の平均賃金22万4900円とは大きな差が生じている。
認可外の運営を選択する施設が多い要因として、院内保育所を認可保育園にしてしまうと、保育時間の制限が生じるなど、医療従事者のニーズに応じることができなくなることなどが挙げられるという。
「医療全体に大きな影響を及ぼしかねない」
こうした院内保育所で働く保育士の労働環境について、佐々木委員長は「状況が改善しなければ、医療全体に大きな影響を及ぼしかねない」と指摘する。
「ほかと比べて賃金が低ければ、職員を集められません。そして、職員が不足すれば当然、安心・安全の保育を提供することはできなくなります。
さらに、職員不足で子どもを預けられない、院内保育所の運営が難しいとなれば、子育て中の医師や看護師の働く人の数も減ってしまい、そのまま医療の分野でも、病床数の減少や、病棟の閉鎖につながっていくのではないでしょうか」
「負担押し付け」の実態の改善を要求
この日、会見に出席した院内保育所の当事者からは、ほかにも以下のような意見があがった。
・「委託の場合、保育士は契約社員として雇用されるケースが多く、不安定さから辞めてしまう人が少なくない」
・「処遇改善がなければ、保育士のモチベーションにつながらず、保育の質が良くならない」
また、この日調査結果の概要を報告した日本医労連の齋藤由美子委員も次のように訴えた。
「厚労省はこれまで、医療従事者の確保のため、子どもを持つ医師や看護師が働けるよう、院内保育所に、柔軟な運用を求めてきました。
その結果、多くの院内保育所が、緊急事態宣言時でも休園せず奮闘してきました。それにもかかわらず、保育士の処遇改善がなく、院内保育所は負担が押し付けられた状態になっています。
医療従事者が安心して働き続けられるためにも、院内保育所の処遇改善を求めます」