「気に入らない党員のカジュアル除名横行」除籍・解雇になった共産党員が党を提訴 代理人「結社の自由にも限度ある」

11月12日、作家・漫画評論家の神谷貴行氏が、自身を除籍・解雇した共産党と同党の福岡県委員会に対し、地位の確認と損害賠償を求める民事訴訟を提起。同日、都内で会見した。

かつては推薦候補として市長選にも立候補

神谷氏は1988年に共産党に入党し、2006年からは同党の職員として勤務しつつ、共産党福岡市議団の事務局長などの役職を歴任。

2018年には共産党の推薦候補として、福岡市長選にも立候補していた。また「2018ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に選ばれた「ご飯論法」の考案者の一人としても知られている。

そんな神谷氏だが、昨年2月に同じく元共産党員の松竹信幸氏が、自身の出版した書籍が原因で除名処分を受けたことを受け、福岡県委員会の総会で、松竹氏の処分見直しを提案。

しかし、提案は否決され、神谷氏は自身のブログ記事で総会の内容を公開し、決定には従うことをあわせて記載した。

この記事について、県委員会は内容が党規約に違反すると主張し、記事の削除を求めたが、神谷氏は応じなかった。すると、県委員会は今年の8月に神谷氏の除籍を決定。この処分に連動する形で、党職員の仕事も解雇となった。

神谷氏側は今回の訴訟において、この除籍と解雇が無効であることを訴えるとともに、除籍、解雇を決定する過程で、共産党側が厳しい調査を実施したり、神谷氏の権利を制限したと主張。

こうした厳しい調査や権利の制限はパワハラ、あるいは人格権の侵害にあたるとして損害賠償も求めている。

「カジュアル除名が横行」

会見で神谷氏は、今回の訴訟の意義について、次のようにコメントした。

「この訴訟には、私の生活と尊厳がかかっています。

生活の面では、月々約27万円の党職員としての給料がなくなり、尊厳の面でも、長年党員として、市議団での質問づくりといった作業に携わってきたにもかかわらず、すべて取り上げられてしまいました。

同時に、私自身の問題だけでなく、より広い意義もあると思います。

本来、除籍は除名と比べニュートラルな意味合いのものであり、年齢や国籍の条件を満たしていなかった、といった場合に使われる措置です。

また、過去に共産党が出したマニュアルでは、規約違反が認められる場合には、除籍ではなく除名としてきちんと処分するよう、記載しています。

しかし、『その人が党からいなくなる』という効果で見ると、除籍と除名は同じ効力を持っています。

党幹部は気に入らない党員を追放するために除籍を濫用しており、こうした“カジュアル除名”とも言える行為が横行しているということを、知ってほしいです」

「ルールを作る側がルールを守っていなかった」

神谷氏側の代理人で労働問題に詳しい松尾浩順弁護士は「本件のポイントは2つある」と解説する。

「1つ目のポイントは、神谷さんの話にもあった通り、除名と除籍の違いです。

除名の手続きは、それなりにしっかりとした手続きが必要になりますが、神谷さんの場合は、非常に安易な手続きを経て、除籍となりました。

さらに、除籍=解雇そのものになっていることから、安易な手続きで解雇できてしまう仕組みになっており、問題があると考えます。

そして2つ目はパワハラです。現在、国を挙げて『ハラスメントを防止していこう』としているなかで、共産党でもこれまで当然、ハラスメント対策を掲げてきました。

しかし、本件はまさにルールを決める側が、ルールを守っていなかったという事案です。はたして、このままの状態で共産党にルールを作るだけの権限があってよいのか。こうしたことも問われる裁判になると思います」

「何をやってもいいと考えているのでは」

また、同じく神谷氏側の代理人の平裕介弁護士は「共産党は過去の判決を理由に、『政党であれば何をやってもいい』と考えているのでは」と指摘する。

平弁護士が言う判決とは、共産党幹部の除名の当否が争われたいわゆる「共産党袴田事件」のこと。最高裁が1988年12月に下した判決では、下記の判断が示されている。

・「政党が党員に対して行った処分は、一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権が及ばない」
・「政党が党員に対してした処分の当否は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り適正な手続きに則って処分の判断がされたか否かによって決すべき」

「通常、事業者などが労働者を解雇する場合、それなりの手続きを踏むかと思います。共産党も本来、そうした手続きを重視してきた政党ではないでしょうか。

しかし、神谷さんの場合、ずさんな手続きしか経ておらず、除籍の手続きでも、共産党では『最後に協議をすること』と定めているのに、その協議も実施されませんでした。

こうした共産党の態度の背景には、『結社の自由があるから』『最高裁の判決があるから』という発想があるのではと推察しています。

当然、今回の裁判でも、共産党側が『司法審査の対象とならない』と主張してくることが考えられますが、本件では除籍を理由に解雇にもつながっていることから、司法審査の対象であると考えています。

そして、個人の表現の自由や、労働基本権、パワハラを受けない人格権を守るためにも、『政党だから、結社の自由があるから』という理屈には限度があるということを、訴訟で明らかにしていきたいです」(平弁護士)