法務大臣が“法律の専門家”ばかりではないワケ 「職種限定はむしろリスク」戦前は“軍の暴走”招く要因にも

11日に発足した第2次石破内閣で、10月の衆院選で落選した牧原秀樹前法務大臣に代わり、新たに鈴木馨祐氏が法務大臣に就任した。

前任の牧原氏が日米両国で弁護士として従事した経験を持つ「法曹有資格者」だったのに対して、鈴木氏は法学部出身であるものの、“法律の専門家”ではない。

歴代の法務大臣には法曹資格を持つ人も持たない人もいるが、法の整備などを所轄する法務省において、トップが法曹有資格者であることのメリットはあるのか。反対に資格がなくても大きなデメリットはないのだろうか。

法務大臣は“地味”なポスト?

「法務大臣は死刑のはんこを押したときだけニュースになる地味な役職だ」(NHK政治マガジン2022年11月15日)

当時、法務大臣だった葉梨康弘氏が、この失言によって更迭されたことを覚えている人も少なくないだろう。

また2010年には、同様に現役の法務大臣だった柳田稔氏が「法相はいいですよ。(答弁は)二つだけ覚えておけばいい。『個別事案についてはお答えを差し控えます』。分からなかったら、これを言う。これでだいぶ切り抜けてきた。あとは『法と証拠に基づいて適切にやっている』」(朝日新聞デジタル2010年11月16日)と失言し、辞任に追い込まれている。

このような当事者の発言にみられるように、法務大臣には少なからず“地味”といったイメージがあるようだが、それはなぜか。元国会議員秘書で、現在は議員法務に注力する三葛敦志弁護士は「たしかに、法務大臣自身が大きくリードして社会を動かすという場面はあまりないのかもしれません」と言う。

「法務大臣は、死刑執行命令や、検察に対する指揮権という重要な権限を持っています。そして、『六法』と言われる民法や刑法、会社法といった法改正には所管大臣として関わります。

しかし、大臣の“鶴の一声”のみでどうにかなるものではなく、たとえば法改正について法制審議会などにおける専門家や関係者の意見が重視され、大臣自身がイニシアティブを持つような強い影響力をおよぼすことは多くないと思われるかもしれません。

一方で、財務大臣や経済産業大臣、外務大臣はマスメディアなどから“花形”と呼ばれることがあります。いずれも、注目されたり目立つ機会が多いポストですが、やはり世の中を動かす中心になるテーマというのは、財政であり、産業であり、外交であるとみられているということでしょう」

なお“地味”と言われることとの関係は定かではないが、「法務大臣経験者は総理大臣になれない」というジンクスも、まことしやかにささやかれているようだ。

法務大臣が「法律の専門家」である必要はない

冒頭で紹介したように、これまで法務大臣の任には、法曹有資格者である人もそうでない人も就いてきたが、そこに大きなメリット、デメリットはあるのだろうか。三葛弁護士は、「法曹資格の有無によって、法務委員会などにおける議論の深め方は違ってくる」とした上で、次のように続ける。

「ただし一般企業に置き換えて考えると、社長が必ずしもその企業のすべてに精通しているわけではありません。極論を言えば、トップは “決定”と “責任を取る”ことが仕事ですし、経営と現場のたたき上げ感覚はだいぶ違うという価値判断もあると思います。

法務大臣が法曹資格を持っていた場合、属人的にこだわりを持って対処することはあっても、基本的には機関のトップとしての判断が求められる役割であるため、特に法律の専門家であることが必要不可欠とまでは言えないでしょう」

大臣就任に条件を付すことの問題点

さらに三葛弁護士は、「むしろ法務大臣を法曹有資格者に限定するように条件を付すことのほうがリスクを感じる」とも指摘する。

「帝国憲法下の内閣には軍部大臣(陸軍大臣、海軍大臣)のポストがありましたが、これらに就任できるのは現役将官のみであるとしたいわゆる『軍部大臣現役武官制』が存在していました。

これによって、軍部の意向に反したため内閣成立が阻止されるということもありましたし、その後も、軍部大臣現役武官制は政権をコントロールする手段として利用され、政治に対する軍部の影響力が強くなった側面もあります。

こうした歴史を踏まえると、一般論としても、ある特定の職業(ギルド)や資格・身分を有することを大臣就任の要件にすることは、議院内閣制や総理大臣の権限・権能を前提とする現在の権力システムにはそぐわないと考えられます」