トンネル工事に従事し、じん肺になった患者が11月14日、トンネル建設事業者(ゼネコン)を相手に損害賠償を求め、札幌、東京、新潟、福井、松山、熊本の各地裁で一斉に提訴した。
今回、訴訟に参加したのは50歳から85歳までの50人で、計16億4450万円を請求。同日、全国トンネルじん肺根絶弁護団らが都内で会見し、じん肺被害者救済のため、1年以内の解決を訴えた。
一度罹患すると、肺が元の状態に戻ることはない
じん肺とは、土ぼこりや金属など、大量の粉じんを長期間吸い込むことで、肺組織が壊れてしまう病気で、世界最古の職業病とも呼ばれている。
初期には息切れやせき、たんの症状が出始め、そのうち気管支炎や肺がん、気胸などを引き起こす恐れがあるという。
一度罹患(りかん)してしまうと、肺が元の状態に戻ることはなく、工事現場などでの粉じんを伴う作業をやめた後も、病気は進行する。
さらに、じん肺そのものに有効な治療方法はなく、最悪の場合、死に至る可能性もあるとのことだ。
「最後のじん肺患者による裁判になれば」
トンネルじん肺根絶原告団や弁護団では、これまでトンネルじん肺の問題について「謝れ・償え・なくせじん肺」をスローガンに掲げ、全国で訴訟を提起。第7陣訴訟までで、2581人の和解が成立している。
小野寺利孝弁護団長は「継続的な活動により、スローガンに掲げた目標の9合目くらいまでは達成している」としつつ、次のようにコメントした。
「われわれはこれまで、訴訟や国会への働きかけを軸に、さまざまな活動を27年間にわたり、展開してきました。
その結果、厚労省を中心に、じん肺対策が大きく前進しており、かつて3桁だったトンネルじん肺の患者数は1桁、あるいは10人を少し上回る数にまで減ってきています。
ところが、最近ではリニアや新幹線のトンネル掘削工事などが進められていることから、トンネル建設に携わる人の数が増加していて、その中で、じん肺患者になってしまう人の数も増えだしています。
そうした中で、トンネルじん肺の救済法を制定し、補償のための基金を整備することで、訴訟を経ずに救済できるようにするという最後の課題が、いまだに実現できていません。
救済法を成立させることで、この第8陣訴訟が、最後のじん肺患者による権利救済の裁判になればと思っています」(小野寺弁護団長)
原告団と弁護団、全国トンネルじん肺根絶闘争本部はこの日、連名で声明を発表。訴訟の意義について以下のように強調した。
「現在も、原告および家族は、トンネルじん肺救済法の成立に向けて与野党の国会議員に要請を続けている。
原告らの早期救済を図るとともに、トンネルじん肺救済法の超党派の議員立法成立に向けてアピールするためにも第8陣訴訟を提訴した」
また、原告団の石田直道事務局長は今回の裁判について「1年以内の解決を目指していきたい」と述べた。
「活動を始めた当初と違い、ゼネコン側の責任は明らかになり、謝罪も勝ち取っています。現在の訴訟で争っているのは、職歴の有無や期間など小さい範囲のみです。
それでも、訴訟という形になると、どうしても手続き上、時間がかかってしまいます。
救済法を制定し、厚労省で一元的に管理するようになれば、半年くらいで補償を受けられるようになると思いますので、ぜひそこは実現してほしいです」(石田事務局長)
「提訴前に亡くなった人もいる。1日も早い和解成立を」
会見に参加した、原告団の代表を務める73歳の広沢裕俊さんは自身の経験を踏まえ、以下のようにコメントした。
「私は約35年間、新幹線やダム、高速道路などの現場で働き続け、2010年に引退しました。そして引退から約10年後にじん肺に罹患したことが判明し、その後続発性気管支炎も確認されたことから、療養に専念することになりました。
不治の病であるじん肺になると、どのような最期を迎えるのか、多少は知っていましたので、罹患がわかった時、『とうとう自分もかかってしまったのか』と思ったのを、今でも覚えています。
その後、救済を受けるには訴訟を起こす必要があると知り、約1年前から今日まで準備を進めてきました。しかし、家族のことや自分の体調を考えると、訴訟というのは大きな負担です。
さらに、今回の原告団には、提訴に至る前に亡くなってしまった人もいます。
このような無念の仲間を今後増やさずに済むよう、そして、今もなお工事現場で働く後輩のためにも、1日も早い全員の和解成立と、裁判を経ない救済制度創設が果たされるよう強く訴えていきたいです」