「盗んだ犯人へ。お前んちわかったから今から行くから」――。
今から二年前の2022年秋。SNS「X」(旧Twitter)において、そんな書き込みをしていた男が11月14日、警視庁暴力団対策課により住居侵入容疑で仲間ら4人とともに逮捕された。
逮捕された男はX上で「Z李」を名乗り、起業家や著名人のスキャンダルの暴露やホストの悪行を公開するなどして支持を集め、アカウントのフォロワー数は90万人を超えるほどの影響力を持っていた。
Z李とは何者なのか
警視庁担当記者がZ李こと田記正規(43)容疑者について説明する。
「Z李は田記らを中心とした複数名の総称で、2018年ごろから同名でアカウントを運営していました。田記は元々横浜でスカウトマンをしていたと言われ、歌舞伎町のスカウトマンの生態を描いた漫画『新宿スワン』のモデルともなった人物です。
『新宿疎開』と称する公営ギャンブルのオンラインサロンを仲間らと開設するとともに、芸能や広告代理店業務、輸出入貿易などを手掛ける複数の会社の運営にも携わっているようです」
SNSの世界で影響力を持った田記ら「Z李」は、フォロワーから「ボス」などと呼ばれ、アカウントに寄せられた詐欺被害者らの手助けをするなど“義賊”としての一面も持っていたようだ。
メディアに語っていた活動の一端
23年3月、Z李は集英社オンラインのインタビューで、自身のSNSにさまざまな相談がDMで寄せられていることについて触れ、その活動の一端を次のように語っている。
〈人探しやトラブルシューターなんて聞えはいいけど、実際、最初は金目的だった。でも、『本当に相手が悪いやつだな』って案件以外はやらないようにしていたし、弁護士が取る手数料よりは全然少ない。もちろん非弁行為に抵触するから積極的に話には参加しないけど(以下略)〉
そして、ターゲットとなった相手を追い詰めるときの状況としてこんなことも話していた。
〈そりゃ囲んで脅かすときだってあったけど、こっちもいろいろ考えてやってたからね。いつだって警察に走られる前提でやってたし。このへんはでも、あまり話したくないかな〉
※〈〉内は原文ママ
そう語っていたZ李らが今回、建造物侵入容疑で逮捕されたのは、皮肉にも窃盗被害にあったメンバーのバイクを取り戻すために、仲間らと犯人の居宅に押し掛けたことだった。
“義賊”として、支持者のトラブル解決に暗躍していたZ李らにとって、自身に害を及ぼした相手は「本当に悪いやつ」だったのだろう。
「この時、Z李らは『あと1時間で着く』などとアカウントで実況中継を行い、約20人の男らが犯人のマンションを取り囲む様子も配信していました。
Z李らの到着時、バイク窃盗犯は不在でしたが、彼らは自宅にいた女児にカギを開けさせ、マンションに侵入。今回の逮捕容疑となりました」(前出の記者)
2年前の事件で逮捕の背景
この侵入事件から今回の逮捕まで約2年の時間を要している。これは「ある事情」があったからだという。
「被害届が提出されたのは昨年の12月。バイク窃盗犯にも後ろめたさがあったことや仕返しを恐れて被害届の提出まで時間を要したようです。
今回、警察は20署共同捜査本部を立ち上げており、『トクリュウ』対策の一環として、Z李らが誰とどんな組織とつながっているのか? の実態解明に重点を置いていると見られます」(同前)
捜査当局は長らく、Z李の動きににらみを利かせていたともいわれる。被害者が被害届の提出をためらう中で、結果的に逮捕している点には捜査当局の執念がにじみ、今回の逮捕を起点にトクリュウの実態解明につなげる思惑がすけてみえる。
SNSの世界で“義賊”として持てはやされていた「Z李」。ナゾに包まれていた彼らの全貌は明らかになるのだろうか……。