「子どもたちを守るため」ハラスメントや“補助金の不正受給工作”に抗議 厚木市の保育士がストライキを実行

11月20日、神奈川県・厚木市の保育園に勤める保育士6名が、ハラスメントや助成金の不正受給などに対する抗議と、賃上げを要求するためのストライキを実行した。

保育士の退職が相次ぐ、園長に不正行為を強要…

ストライキが実行されたのは、長崎県にある「社会福祉法人くじら(以下「法人」)が運営する、厚木市内の「関口フェルマータ小規模保育園」(以下「関口園」)。

ストライキの背景には、関口園に限らず法人が神奈川県内で運営している複数の保育園で発生している、以下のような問題があるという。

(1)関口園および、同じく厚木市内で法人が運営する「妻田フェルマータ小規模保育園」(以下「妻田園」)で、園長や保育士の退職が相次いでいる。

労働組合「総合サポートユニオン」によると、2019年4月から現在(2024年11月)までの間に、両園で合計36名の職員と7名の園長が退職。

(2)2023年、妻田園で園長が退職して園長不在の状態になったため、園長を偽装する工作に、関口園の園長(以下「A園長」)が加担させられる。

具体的には、法人の関係者であるB氏を妻田園の園長として名義上のみ新たに就任させたうえで、そのB偽装園長の名義で検便や給食の検食を提出するように、A園長が強要された。

この偽装工作により、法人は不正に補助金を得ていた。また、B偽装園長には法人から賃金が支払われていた。

(3)妻田園には、国が定める「配置基準」を上回る数の保育士が配置されていた。

法人が運営する「鶴嶺フェルマータ保育園」(茅ヶ崎市)のC園長と、法人の「エリアマネージャー補佐」の役職を担うD氏(B偽装園長の夫)は、配置基準を超えた保育士は余剰であると規定し、契約を打ち切るために「ぬるま湯」の関係を「ぶっ壊す」よう、一時的に妻田園でも業務を行っていたA園長に強く求めた。なお、これらの表現はA園長宛てのメールで使用されている。

具体的には、余剰と規定された特定の保育士を保育業務に介入させず、「自分は不必要な保育士である」と自認させるように仕向けることが、A園長に強要された。

(2)と(3)が原因で、A園長は精神疾患を発症し、2か月の休職を余儀なくされた。

(4)C園長は、意見を言った保育士に対して、揚げ足を取るかのような一方的な指導を調査もなしに出すなどの、ハラスメントを行っていた。

問題の改善を求めてストライキを実行

法人が神奈川県内で運営する保育園のうち、労働組合が存在するのは関口園のみ。現在は9名が加入しており、内訳は園長(A園長)が1名、保育士が6名、調理師が1名。

今年3月、初の団体交渉が申し入れられる。同月、厚木市役所による監査が妻田園と関口園に入った。交渉や監査により、B偽装園長が賃金を返金、法人も厚木市に運営費を返金、法人と組合とで合意が約束され休職していたA園長が復職するなどの結果が生じた。

一方、違法行為を主導したC園長とD氏は戒告処分および注意処分のみで済まされた。また、関口園以外の園ではハラスメントによる保育士の退職が続いている。組合はこれらの問題を改善するために交渉を続けてきたが、法人側が要求に応じないため、ストライキに踏み切ったという。

さらに、他の園では賃上げが実施されたものの、関口園でのみ賃上げがなされなかった。この対応について、総合サポートユニオンの池田一慶氏は「組合差別である」と指摘する。

「子どもに迷惑をかけない」ストライキ

11月11日に提出された、法人の理事長宛ての「ストライキ通告書」には、以下の要求事項が記載されている。

(1)園児を呼び捨てにするなど、C園長の不適切保育をやめさせてください。

(2)C園長の職員に対するハラスメントをやめさせてください。

(3)園長在籍偽装やそれに伴う助成金の不正取得に至った経緯とその原因を明らかにし、再発防止策を協議で策定してください。

(4)組合員の賃金を上げてください。

また、園の保護者らも、助成金の不正受給や園長・保育士の相次ぐ退職について保護者らに説明・謝罪を求める要請書を、法人宛てに提出している。

ストライキに参加したのは、組合員のうち保育士6名。20日の13時から終日まで実行された。

なお、当日、関口園では、災害など不測の事態に保護者が園まで迎えに行き子どもを引き取る「引き渡し」の訓練が行われていた。つまり、午後からは、園内に子どもは不在だった。

ストライキと同日に開かれた会見で、組合員の保育士は「保護者や子どもに迷惑をかけたくない」と、意図を語った。今後、再びストライキを実行するかは未定であるという。

保育士に対するハラスメントは子どもにも悪影響

2000年、待機児童の解消などのために保育園の「設置主体制限」が撤廃され、それまでは原則として市区町村や社会福祉法人に限られていたところ、株式会社やNPO法人による保育園の設置が可能となった。その結果、保育士の低賃金化や人手不足が進む要因にもなったとする声もある。

組合員の保育士によると、国の定める配置基準の人数は「ギリギリ」のものであり、一人でも休職や退職をすると保育所の現場は混乱し、適切かつ安全な保育ができなくなるという。したがって、ハラスメントによって同僚が退職させられると、園に残った保育士の負担も多大なものとなる。

さらに、保育士の退職は預けられている子どもたちにも影響を生じさせる。1歳や2歳の子どもは、自分を担当する保育士が変更されると、強く不安を感じるためだ。関口園に子どもを預けているがストライキに賛同し、会見にも参加した保護者のXさんは、「子どもに対する精神的虐待」と表現する。

「保育園では、各食材について、子どもに飲食させていいかどうか、親に許可が取られる。しかし、以前には、許可していない牛乳を飲まされる事態があった。もしアレルギーがあった場合には、命にも関わる事故が起こっていた。ハラスメントによって保育士が次々と退職し、現場が混乱していることが原因」(Xさん)

ストライキに賛同する保護者らが作成したプラカードには「子どもたちを守るためのストライキ」と書かれている。保護者のYさんは、ストライキに賛同した理由を「園で起きている問題は子どもたちにも影響がある」と語った。

「法人はまだ保護者に対して謝罪を行っていない。また、保育士らが応答を求めても、弁護士を立てて『また後日』と言い続ける。弁護士を通じてではなく、理事長本人が直接、謝罪してほしい」(Yさん)

組合員の保育士は「ストライキによって、反抗がしたいわけではない。安心して働ける職場にするため、私たちの声を聴いてほしい」と語った。

ユニオンの池田氏は、保育に限らず介護の現場でも同様の問題が全国で発生していることを指摘。

「営利企業の参入により、保育・介護にかけるお金が削られている。国の制度が、問題の遠因」(池田氏)

20日には、厚木市長および市の保育課に宛てた要請書が、総合サポートユニオンと介護保育ユニオンの連名のもの、および保護者らによるものの2通、提出された。法人に対する厳しい指導、市が把握している事実関係や今後の対応に関する説明、ハラスメントや離職を防ぐ対策、保護者らに対する窓口対応などを求める内容となっている。