その演技はまさに変幻自在。映画でもドラマでも舞台でも、硬軟いずれの役柄もその人そのものとして作品のなかに存在させる、熟練にして凄腕の俳優、内野聖陽さん。最新主演作は、一大旋風を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』で一躍注目を浴びた上田慎一郎監督とタッグを組んだ映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』。台本づくりから参加したという映画のこと、60代を見据えた今、俳優として思うこと。内野さんに聞きました。
‟セッション”を延々繰り返した台本づくり
生真面目な税務署員と天才詐欺師がまさかのタッグを結成。巨大企業の社長である‟脱税王”に未納の10億円を納税させよ!――そんな奇想天外なエンタメ作『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』で、税務署員の熊沢を演じた内野聖陽さん。始まりは、‟カメ止め”の上田監督からの熱烈なオファーを受けたことでした。
「上田監督はいつもしっかりとリハーサルをされる方のようで、今回も入念な打ち合わせをしたいと。僕もリハーサルをすべきところはしたほうがいいと思うタイプでしたし、監督のやりたいようにやったほうがいいかなと。台本の打ち合わせでは、天才詐欺師の氷室を演じる岡田(将生)君とも、役としての会話の調子など、延々とセッションしました」
脚本の基となったのは韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』。全16話のドラマを2時間ほどに収めるため、試行錯誤を繰り返したそう。
「最初のうちは情報量が多すぎて、てんこ盛りになっていまして。僕はその台本を読む最初の‟観客”として、疑問が浮かんだ箇所すべてに付箋を貼り、打ち合わせでひとつひとつクリアにしていきました。一所懸命考えてきている彼には申し訳ないけれど、作品をよくするためと心を鬼にして、突っ込みをたくさん入れさせていただきました。ところが上田監督は次の稿ではそのすべてを手直しして、どんどん台本の精度を上げていくんです。必ず前回以上のものを盛り込み、あるいはそぎ落として。これほどの熱心さで台本の質を上げる人ってあまり見たことがありませんでした。ゴールが見えない……と心が折れそうになったこともありましたが、彼の熱意に負けて、もうとことん付き合うよ!という感じで。現場に入った頃には、監督のいちばんの理解者は僕じゃないかと思うくらいでしたね(笑)」
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荒唐無稽な物語、そのフィクションをどう乗り越えるか?
ことなかれ主義の税務署員である熊沢(内野さん)は、使命感に燃える部下に焚きつけられ、脱税疑惑のある巨大企業の社長、橘に接触。しかし追い詰めるどころか、でっち上げの言いがかりをつけられ処分対象に。熊沢はまさかの出会いを果たした、詐欺師の氷室と組んで橘への復讐を決意。公務員と天才詐欺師がタッグを組み、ありえないミッションが始まります。
「公務員が詐欺に加担して復讐、なんて荒唐無稽な物語だけれど、そのフィクションをどう乗り越えるか?が課題でした。詐欺という嘘をリアルに持っていく、そのためには巨悪・橘が大黒柱でなければ成立しません。誰が演じるのだろう?と思っていたら、小澤(征悦)さんで。何度も共演させていただいていますが、ビシッと決めるところは決めてくれる人なので、よかった!と」
曲者ぞろいの詐欺師が集結したドリームチームによる、騙し合いを描く痛快なエンタメ作に仕上がった本作。「面白かった」と素直に感想を伝えると……。
「面白いと言っていただけるとホッとします。映画の後半、チームワークで非現実的のようにも思える詐欺というゲームが展開していく、そのスピード感がこの映画のいちばんの面白さだと思います」