今のテーマは、「仕事をいかに面白くしていくか?」

『大人のおしゃれ手帖』の読者と同世代の内野さん。コンスタントに映画やドラマに出演し、舞台にも取り組み、 56歳の今も、演じることへの熱は衰えを知らないように見えます。

「舞台は幕が上がれば、映像で言えば“ワンシーン・ワンカットの長回し”。そのなかで揺れもありつつ、他の役者さんとお客さんとのセッションを楽しみながら最後までもっていく。映像のようにNGが出たらもう1回、というのは一切できません。言い訳の効かない世界で、役者の志やタフな精神など、様々なものが試されます。だから、そういう場を自分自身から奪ってはいけない、そんな気持ちがどこかにあるんです。1年に1本は必ずやりたいなという思いはあります」

今秋には、井上ひさし作の舞台『芭蕉通夜舟』で一人芝居に挑みました。

「役所広司さんにも‟なんでそんな難しいことばっかりやるの?”って(笑)。でもそんな格好いいことじゃないんですよ、ビビっているんです。‟できるかな?”と思う自分と、‟いやいやいや、できるかな?じゃなくてやれよ!”と言う自分がいて。どんなことでも弱気では絶対に勝てないですよね。勝ちに行く気迫がないと、成功するものも成功しない。次の作品は成功したい!という思いが奇跡を生むし、新しい出会いを呼び込むだろうと思っています」

ある脚本家が「50代になった途端にみんなが自分のことを大御所と言い始める」と言ったそうですが、内野さんにそれは当てはまりません。

「若い時はただがむしゃらでしたが、キャリアを積んでいくと、‟内野さんはこう”と期待されるところがあります。でも僕はそこにとどまっていたくない、期待以上のものをやってみたい!と思っているふしがあります。ギリギリの状態からもう一歩上に行きたい。ちょっと格好いい言い方になりますが、でも余裕でこなせるものより、あたふたと冷や汗をかきながらやっているもののほうがいい。観ている側も、自分の枠から飛び越えようとする、限界を超えてがんばる人のほうが、最高!セクシーだよ!って思うのではないでしょうか」

俳優には定年がありません。内野さんは、年齢をどう意識しているのでしょうか。

「どうでしょう? ただ体というのは正直で、この年齢になるとどこかしらが故障したりします。すると、それをカバーするための工夫やアイデアが生まれます。このままいくと“ケガするかも”という感覚もわかるようになります。そうした‟小さな信号”の認知機能は若い時より優れてくる。もし、故障してしまっても、メンテナンス力が上がったり」

そうしてこの先を見据えつつも、‟理想”や‟こうあるべき”という枠はないと言います。

「最近、あるお笑い芸人の方のドキュメンタリーを観たんです。その芸人さんが、ウケなくなったお決まりの芸を止めたとき、その師匠にあたる人に”なんで今日はやらないの? やるべきだよ。お前たちがお客さんより先に飽きちゃっただけでしょ”と言われるんです。そして改めて真剣にその芸を披露したら、またウケたんですって。それだな!と。お笑いLIVEでも舞台でも、毎日やっていると自分が飽きてルーティーンワークになることがある。いつの間にか形骸化し、面白さを自分で忘れてしまうんです。それがあかんのかなと。演じることも同じだよなぁと、そんなことを思ったんですよね」

PROFILE:内野聖陽(うちの・せいよう)
1968年生まれ、神奈川県出身。1993年俳優デビュー。近年の出演作に『とんび』、『真田丸』、『きのう何食べた?』シリーズ、『ブラックペアン』シリーズ、等のテレビドラマ、『家路』、『罪の余白』、『海難1890』、『初恋』、『ホムンクルス』、『鋼の錬金術師』シリーズ、『春画先生』、『八犬伝』等の映画がある。

映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』

●監督:上田慎一郎
●脚本:上田慎一郎 岩下悠子
●出演:内野聖陽 岡田将生 川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖美 真矢ミキ 皆川猿時 神野三鈴 吹越満 小澤征悦 
●11月22日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

©2024 アングリースクワッド製作委員会

撮影/鈴木千佳 スタイリスト/中川原寛(CaNN) ヘアメイク/佐藤裕子(スタジオAD) 取材・文/浅見祥子