2024年8月30日、「いつかは来る日」とわかっていながら、その知らせはやはり心に突き刺さりました。上野動物園で暮らしていたパンダのペア、リーリー(オス)とシンシン(メス)が中国へ返還されることが発表されたのです。9月28日に観覧が終了するまで、最後の姿を見ようと多くの人々が列を作りました。
そう、いつか後悔するかもしれないから、見られるうちに見ておきましょう。お出かけ前の予習から、当日行列に並ぶときの暇つぶしにも役立つこの記事を、皆様にお届けします。
◆①パンダがいるのは西園「パンダのもり」
山手線の内側にありながら、上野動物園は意外と広大です。園内は東園と西園の2つのエリアに分かれており、パンダは西園「パンダのもり」エリアで暮らしています。西園には、弁天門と池之端門があり、パンダ目当てなら弁天門(JR上野駅不忍口から徒歩約5分)が最寄りです。弁天門には、平日でも早い時間から開園待ちの行列ができることがあります。
ガチ勢は、上野でパンダを見ると決めたら、オンラインでチケットを買い(あるいは年パスを所有)、開園数十分前から弁天門で待機します。
「あるある失敗例」もご紹介しておきましょう。「正式っぽいので、正門から入園。園内マップを確認したところ、パンダのいない東園に入ってしまったと判明するも、ホッキョクグマやゾウに興奮し、うきうきで観覧。その後、西園を目指し、意外と時間のかかる連絡通路を渡って、パンダのもりについたころにはそこそこ疲労している。『100分待ち』の案内を見て絶望……」
以前は、東園と西園をつなぐモノレールがあったのですが、廃止となりました。パンダ目当てなのに正門経由で東園に入ってしまったら、いそっぷ橋という連絡通路を渡り、西園まで歩かなければなりません。
◆②屋外放飼場A~Dと室内展示室1~3
パンダたちが暮らす「パンダのもり」には、屋外放飼場A~Dと室内展示室1~3が設けられています。このほか、一般公開されていないエリアもあります。
筆者が数年観察したところ、パンダの健康状態や環境改善などの目的で、飼育場所が変更されることがあるようです。例えば、数日しかないメスの発情期にオスを同居させたり(普段は別居)、出産後は母と子を同居させたり、双子を同居させ、成長したら別居させたりといった感じです。
動物園は動物ファーストなので、健康・体調管理優先で公開が中止されることもあります。東京動物園協会の運営する「東京ズーネット」で、パンダ観覧に関する丁寧な案内が公開されているので、最新情報を収集してから出かけることをおすすめします。
◆③平日でも数十分の待ち時間は覚悟しよう
なんといっても人気のパンダ。平日でも30分以上の行列ができることがほとんどです。団体客や修学旅行客がいると、さらに長くなることもあります。開園直後は比較的スムーズに見学できる傾向があるので、「絶対見たい」という日は、この時間帯が良さそうです。
ちなみに、リーリーとシンシン返還が発表される前は、2頭の子である双子のシャオシャオ(オス)とレイレイ(メス)に観覧の行列ができていましたが、リーリーとシンシンは待ち時間ゼロのときもけっこうあったんですよ。
◆④行列に並ぶのもエンタメの一つ
「パンダのもり」では、スタッフの誘導に従って列を作って並びます。退屈ではありますが、かなり良い角度でパンダを見られることがあるんです。「キャー!」「かわいい」のような声が聞こえたら、おそらく屋外放飼場Dにパンダが出てきています。みんなの視線の先を見てみましょう。
この屋外放飼場Dは、ガラス窓も天井もある開放的な飼育場。やぐら状の構造物があり、パンダが登って遊ぶためのものです。ガラスへの写り込みもなく、自然光が差し込む絶好の環境なので、自然な姿を撮影できることがあります。望遠レンズをセットして並んでいると、いいことがあるかも。
これは2024年10月某日(平日)の例です。「40分待ち」の案内を確認後、シャオシャオの観覧列で40分弱待ち、観覧後、レイレイの観覧列で約20分待ちました。行列中、屋外放飼場Dにシャオシャオが突然登場。屋外放飼場Dは室内展示室3とつながっていて、パンダは自由に行き来できるのです。
自分の順番が来たら、スタッフの指示に従い、パンダの観察・撮影ができます。この日は、3エリアが設けられ、1エリアあたり1分滞在という決まり。最初に室内展示室3に案内されると、さっきまで屋外放飼場Dにいたシャオシャオも室内展示室3に来てラッキー。ここで1エリアが終了。その後、角度を変えたところに誘導され、シャオシャオを1分観覧し2エリアが終了。
屋外放飼場C(現在空っぽ)を通り過ぎた先の室内展示場1に向かい、レイレイの観覧列ができています。レイレイは、室内展示場1と屋外放飼場Bの間を走って行ったり来たり。私たちは20分並んで室内展示場1に入ったのに、レイレイは屋外放飼場に出てしまい、空っぽの室内1分何も見えなくとも終了です。
◆⑤パンダガチ勢がすごすぎる!
パンダには熱心なファン、いわゆるガチ勢がいます。超望遠レンズを装着した一眼レフカメラを何台か持っている人、パンダデザインの服やバッグで全身キメキメの人、パンダが生まれたときと同じ体重の限定ぬいぐるみを抱いている人など、思い思いのスタイルで、みんな楽しそうです。
そして、1日に何度も並ぶ人、毎日通う人も意外といます。そういう人の熱気を感じられるのもパンダならではです。
◆⑥パンダの個体識別にチャレンジ
パンダはみんな同じ顔? そんなことはありません。目の周りの黒い部分(アイパッチ)の形一つとっても、1頭1頭異なります。また、顔立ちや体つき、竹や笹の食べ方、しぐさや動きのクセなどもさまざまです。
特に、シャオシャオとレイレイは双子のパンダで、幼い頃はそっくりで見分けがつきませんでした。そのため、シャオシャオには背中に緑色の印がつけられていました(無害なアニマルマーカーを使用)。もう印は消えかけていますが、今は別居しており、それぞれの展示場に名前が掲示されているので見分けられなくても大丈夫。でも、個体識別ができると親しみがわくんですよね。
「シャオシャオは鼻先がしっかりしていて力強い感じ」
「レイレイは顔のパーツが中心に寄っている」
のように観察し、自分なりの見分けポイントを探してみてください。
◆⑦並んでいるうちにパンダ基礎知識を予習
オカピ、コビトカバと並び世界三大珍獣に数えられるパンダ。見た目も生態もユニークで、おもしろいエピソードや謎も少なくありません。事前に知識を得ておくことをおすすめします。
*最初に「パンダ」と呼ばれたのはレッサーパンダ。その後、誰もが知る白黒のジャイアントパンダが発見され、現代では「パンダ」と言えば一般的にジャイアントパンダを指すようになった。「パンダのもり」では、レッサーパンダも飼育されているのでこちらも必見。
*忘れがちだが、パンダはクマの仲間。肉食性の消化機能をもち、タケやササを十分に消化できないので、大量に食べなければならない。生息地では、食べ物をめぐる競争や敵を避けるため、あまり人気のないタケ・ササを主食とすることを選んだ。
*日本に初めてパンダがやってきたのは1972年。日中友好を記念して贈られたカンカン(オス)とランラン(メス)。
*来園後間もなくカンカンが風邪を引き、飼育チームは上野の街で人間用の漢方薬を入手。パンダを劇的に回復させた漢方薬は、今も「天心堂診療所」で数百円で買える。
*交尾後、受精卵はすぐに着床せず、しばらく子宮内を浮遊する。これを着床遅延(ちゃくしょうちえん)と呼ぶ。これにより、妊娠期間が変わり、最適な時期に出産・子育てができる。
*関節の可動域が広く、股関節が柔軟で、腰から背中までをぐにゃっと曲げることができる。そのため、おしりから腰のあたりを地面にべったりつけて座る「パンダ座り」も得意。
*体の白黒模様の理由は、いまだに謎。雪の中で目立たない、目の位置が外敵から分かりにくい、まぶしさを防ぐ、黒い色により保温できるなどの効果があるのではないかという説がある。
*指の数は前も後ろも5本ずつだが、親指側の手首の骨が大きくなってできたこぶがあり「第6の指」とも呼ばれる。このこぶと指を使い、竹を上手に握る。
=====
何十分並んだって、パンダは見られるうちに見ておかないと後悔します。リーリーとシンシンはいなくなりましたが、幸いなことに、2頭が残した双子のパンダたちはまだ上野で暮らしています。
ちょっとだけでも予習をしておくと、目に入ってくる情報がぐっと濃厚になります。開園時間や観覧方法、内容などは変更される可能性があるため、サイトやSNSで最新情報を確認し、今すぐ出かけましょう!
<TEXT/木村悦子>
【木村悦子】
フリーの編集者・ライター。出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」を創業。実用書やガイドブックの企画・編集を行う傍らで、Webライターとしても活動。飲食・日本文化・占い・農業など、あらゆることに興味があるが、生き物が大好きすぎて本も書く。『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』、『ラッコBOOK』を執筆。