米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じ、日本銀行がマイナス金利を解除して利上げを実施され、さらには米大統領選挙も行われた2024年。不確実な時代に備え、リスク回避のための「選択肢」を広げておくことも必要不可欠であると、くにうみAI証券株式会社(元IS証券株式会社)の髙橋文行氏はいいます。投資環境の激変に柔軟に対応できる、自由で小回りの利く機敏性が高いファンドでの運用も、その選択肢の一つかもしれません。本記事で詳しく見ていきましょう。
ニッチ戦略とは? 過当競争を回避し機敏に資金配分
「人の行く裏に道あり花の山」―。千利休が詠んだ句とされ、「美しい花を見たいなら人とは違う裏道を行ったほうがよい」という意味だ。
相場格言としても有名であり、「他人と同じことをやっていては大きな成功は得られず、他人とは反対のことをやったほうがうまくいくことが多い」という。
金融の世界では、群集心理に流されず、金持ちになりたければ「孤独」に耐えろといわれている。特に大勢が一方向に偏り過ぎた時期などでは、この格言を思い出し、勇気を持って独自のポートフォリオ・ポジションを構築することも重要だ。
2024年に、日米主要株価が過去最高値を更新し、金融市場が一般大衆向けの戦略で混雑した地合いになっているなか、規模が大きく著名なファンドが市場を広範に席巻している。寄らば大樹の陰や付和雷同という、人気が高く行列ができるところへ行けば、当面は安心・安全かもしれない。
しかし、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は2024年2月24日、投資会社バークシャー・ハザウェイが公表した毎年恒例「株主への手紙」のなかで、米国内外の株式相場の高騰は「カジノ的」だと警鐘を鳴らした。
また、魅力的な新規投資機会は乏しく、バークシャーの投資待機資金は2023年10-12月期に過去最高の1,676億ドルに積み上がったことを明らかにした。
2024年は、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに転じた。一方、日本銀行はマイナス金利政策を解除し、利上げを実施した。日米の金融政策が転換局面を迎える影響のみならず、政治の一大イベントである、米大統領選挙も行われた。
金融市場では、金利・為替・株価などの急激な変化に加え、経済政策や貿易政策などの変更といった不確実性が高まると想定されている。こうした状況下では、リスク回避のための選択肢を広げておくことも一考だろう。
投資環境の激変に柔軟に対応して、新たな価値を見出し、生き残る道を模索するため、自由で小回りの利く機敏性が高いファンドでの運用も選択肢のひとつだ。
氷河期に絶滅した恐竜のようにならないためにも、市場が急変する局面では、逆に小規模で俊敏性が高いニッチ戦略重視型ヘッジ・ファンドが有利に働くかもしれない。
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ライバルとの競争を避けつつ機敏に資金を配分しリターン創出
投資・運用におけるニッチ戦略とは、大手が参入するには規模が小さすぎるなど、他社との競合が起きにくい特定の市場の間隙(ニッチ)を狙って投資を行い、銘柄を選別し、優位なシェアを獲得し、収益につなげる戦略だ。
他社がすでに参入している市場とすみ分けを行う意味で、市場でトップ・シェアを持つリーダー・大手企業とは戦わない。
差別化戦略が競争優位性を得るために競合他社との違いをアピールしてリーダー・大手企業と戦いシェアを獲得するのとは違い、ニッチ戦略では大手競合他社が存在せず、独占的な地位を築くことができる。
このためニッチ市場では、高い価格を設定しても、投資家が競合他社に流れることが起こりにくく、収益を独占し、高い利益率を上げることができる。ニッチ市場で成功すれば、当該分野での先駆者となれ、世間や投資家からの注目度が上がり、知名度向上が新規投資家の獲得にもつながる。
もっともニッチ市場は小規模で限定的なことが多く、新たな分野の開拓により、投資家に受容されないこともあるため、市場が収益化できるほど成長せず、投資に見合った利益が回収できないリスクもある。
またニッチ市場であっても市場構造の変化に伴い、競合他社が参入してくる可能性もある。競争が起きて独占的な地位が崩れ、高収益を維持するために差別化戦略が必要になる場合もある。
ただ、規模が小さくても、高度な金融技術やデリバティブ(金融派生商品)などを活用し、アービトラージ(裁定取引)、オプション、CAT債(大災害債)、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)など多岐にわたり分散投資を行うことが有効なことも多い。
過当競争を回避し、リスク管理を徹底し、下振れボラティリティーを最小限に抑制しつつ、機敏な資金配分により、市場や他の大手ファンドとの低い相関を目指しながら、リターンを追求することが可能だ。
髙橋 文行
池田 祐美
くにうみAI証券株式会社
オルタナティブ・インベストメントプロダクト部