親族が亡くなると、本人との続柄次第では「相続」が発生します。配偶者がいない「おひとりさま」が生前に多大な借金を抱えていた場合、相続人はどうすればよいのでしょうか。そこで本記事では、弁護士の菊間千乃氏による著書『おひとりさま・おふたりさまの相続・終活相談』(新日本法規出版株式会社)から一部抜粋して、「相続放棄」の注意点について、具体例とともに解説します。

おひとりさまの借金を相続したくないときはどうしたらいいの?

Q. おひとりさまの兄は、少し浪費癖があり消費者金融から借入れがあるようでした。先日その兄が亡くなり、居住していたアパートで遺品の整理をしていたところ、残高が20万円ほどある預金通帳が見つかりました。大家さんからはすぐに滞納家賃12万円を支払ってほしいと言われています。消費者金融からの借金は大きな金額かもしれないので相続放棄しようと思いますが、問題ないでしょうか?

A.資産と負債を可能な限り調査した上で、負債が多ければ自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述を行うことが考えられます。

◆相続放棄の手続

人が亡くなると、その人の法定相続人が遺産を相続するところ、遺産にはプラスの財産だけではなくマイナスの財産も含まれます。そのため、身内が亡くなった場合には、自分が相続人であるか、亡くなった被相続人に負債があるかを、できるだけ早く把握しておく必要があります。

何もしないままでいると借金の額にかかわらず(1円でも1億円でも)、全て相続することとなります。

ご質問のケースのように被相続人の負債が多く、相続放棄をしたいとなった場合には、相続人は自分のために相続が開始したことを知った時から3か月以内(熟慮期間)に、家庭裁判所で相続放棄の申述手続をとる必要があります。法律で定められた要式で行う必要がありますので、単に、他の共同相続人に遺産はいらない旨の書面を差し出しただけでは「相続放棄」の申述をしたことにはなりません。

相続放棄は他に相続人がいる場合でも単独で行うことができます。相続放棄の申述に対する受理の判断がなされると、受理通知が裁判所から送付されます。

◆熟慮期間の伸長と熟慮期間に間に合わなかった場合の対処

3か月の熟慮期間の経過までに相続放棄をするかどうかの判断ができない場合には、熟慮期間の伸長の申立てを行うことができます。家庭裁判所において伸長が必要との判断がなされると熟慮期間が伸びることになりますので、その経過までに申述をすることになります。

また、熟慮期間を形式的に経過してしまった場合には絶対に受理がなされないのかというと、相続の開始を知った時の起算点の判断や、3か月の間に申述ができなかったことについて正当な理由があるかの判断を家庭裁判所において行い、受理がなされる場合があります。

もっとも、相続放棄の申述の受理の判断は最終的な判断ではなく、債権者は、相続人の相続放棄が有効ではない旨を主張して相続放棄の効果を争うことができます。相続放棄が法定の要件や趣旨を満たして有効となるかは、受理の後に行われる債権者と相続人の間の訴訟の結果次第です。

相続人側からすれば相続放棄が有効となるためには申述という要式行為が必要ですので、仮に相続放棄が認められない可能性があり後に債権者から争われる余地があったとしても相続放棄の申述は行っておくということも、一つの方法だと思います。

菊間 千乃
弁護士法人松尾綜合法律事務所
代表社員弁護士公認不正検査士