カラフルな色味の外壁や生い茂るツタ、不思議な絵に大小さまざまな置物……街を歩いていると、ときどき周囲とは一風変わった“ド派手な家”を見かけたことはありませんか? 土地家屋調査士で心理カウンセラーの資格を持つ平田真義氏が、実体験をもとにそのような家に住む人の「意外な素顔」を紹介します。同氏の著書『住んでる人の性格は家と土地が教えてくれる』(自由国民社)より詳しくみていきましょう。

「ド派手な外壁」の家から出てきた、「ド派手な服装」の女性

派手な外壁の家が「景観を損なう」として周辺住民から訴えられた事件が、ずいぶん前にありました。

関東のとある県で、私はその事件を思い出すような家の前に立っていました。依頼者さんと隣接した土地に建つ家のうちの1軒です。これからご挨拶をしなければいけないのですが、しばし考え込んでしまいました。こういう家のプロファイリングはどうしたものかと。

その家の外壁は、所狭しとペイントされています。デフォルメされた動物や昆虫、植物、よくわからない模様。それが、赤、黄、緑、青と彩りも豊かに描かれています。ただの落書きには見えず、どちらかと言えばお上手です。派手な外壁ではあるものの、不思議と見ていて嫌な感じはしませんでした。

インターフォンを押して出てきたその人物に、私はまたビックリしました。真っ赤なセーター、真っ赤なパンツ、派手なメイクの70代くらいの女性です。

測量の件でお邪魔した旨を手短にお伝えすると、「そういったことでしたらいいですよ」と、よく通る声ではきはきと答えてくれました。

この派手な外壁の家を含め隣接するお宅へのご挨拶をすべてすませたら、測量作業に入ります。作業を行っていると、小学生らしき子どもたちが6〜7人、次々とペイントされた家に入っていくのが見えました。

「あのお宅は絵画教室をやっているのですよ」依頼者さんのその言葉に、私は「なるほど!」と合点がいった気がしました。

言われてみれば、派手な外壁も立派なキャンバスに見えてきますし、家主の女性の全身赤ずくめの出で立ちもアーティストらしくて素敵だなと思えてきます。まったく現金なものですが、エキセントリックな人でなくてよかった、などと思ってしまいました。

その日は土曜日だったので、お子さんたちはきっと絵画教室の生徒さんだったのでしょう。

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2度目の訪問で明らかになった、住人の「意外な素顔」

後日、境界立会いをお願いするために、再びあのペイントの家に伺いました。その日は日曜日で、家主の女性の希望によるものでした。

「相変わらず派手なお宅だなあ」とまじまじと外壁を眺めながらインターフォンを押すと、ドアが開き、家主の女性が出てきました。

その姿を見て、私はまた驚いてしまいました。前回と打って変わって、比べものにならないくらい地味な女性がそこにはいたのです。

面食らいながらもご挨拶をすると、「こちらこそ……よろしくお願いします」と、丁寧な、でも消え入るような声で答えられました。

前回訪問したときはハキハキと滑舌のよい受け答えをしてくれたのに、今日はずいぶんおとなしいイメージだなあ、と思いました。まさか別人なのでは? と思わず疑いたくなる変わりようなのです。

説明した境界に納得していただけたので、立会い自体はすぐに終わりました。

このままお礼を言って立ち去ればそれで終わり。この派手なペイントの家に訪れることはもうないはずです。しかし、私は自分の中で湧き上がってしまったいくつかの疑問を、どうしてもそのままにできませんでした。

“あれはね……、絵の先生用の衣装なの”

「あの外壁のペイント、とても見事ですね。あのような絵を描かれたのは何か理由があるのですか?」

「えっ?」

思いがけない質問をされて困惑したのか、女性は口ごもってしまいました。不躾だったかな、と思ったのですが、恥ずかしそうに、小さな声でこう答えてくれました。

「ええと、あれはね……、子どもたちの興味を引くためにしたんです」

「そうだったのですね。確かにとても可愛い絵ですものね」

「まあ、ありがとう。あの絵のおかげで、絵画教室の生徒さんが一気に増えたの」

女性ははにかみながら、嬉しそうに言いました。

もう少し深くお尋ねしてもよいような雰囲気を感じたので、私は思い切って服装についても尋ねてみました。

「今日のお召し物も素敵ですが、先日の鮮やかな色のお洋服とは随分雰囲気が違いますね」

私はあの服装も、絵画教室と何か関係があるとにらんでいたのです。

「あれはね……、絵の先生用の衣装なの」

「衣装?」

「絵の仕事をするときは、あれを着ないとどうも調子が出なくてね」

想像以上の興味深い答えに、私は嬉しくなりました。

心理学を学び、人の心とは本当に奥が深く、学びが尽きないと思うことばかりです。あの真っ赤な服装は、きっとメイクも含めて、いわゆるコスプレのようなものだったのでしょう。

「でも、今日みたいな格好のほうが実は落ち着くのよね」

女性はまた少し恥ずかしそうに笑いました。