親から子への「定期預金の名義変更」は贈与税・相続税の対象となる?

定期預金の名義が子であっても、実質的な所有者が親である場合には、親の財産に属することになるので、相続税の対象になります。以下の条文を確認しましょう。

①民法549条:贈与は、当事者の一方が財産を無償で与える意思を示し、相手が受諾することで効力が生じる。

②民法550条:書面によらない贈与は、各当事者が撤回できるが、履行の終わった部分はこの限りではない。

③相続税法1条の4:贈与により財産を取得した者は贈与税を納める義務がある。特に、一時居住者でない個人や特定の条件に該当する場合。

④相続税法基本通達:贈与による財産取得の時期は、書面によるものは契約の効力発生時、書面によらないものは履行時。

国税庁の事例:名義にかかわらず、被相続人が資金を拠出した財産は相続税の課税対象となる。

これらの法律や通達を参考に、定期預金の名義変更が贈与税の対象となる場合を考察します。

定期預金の名義変更が贈与税の対象となる理由

親から子への定期預金の名義変更がされ、贈与として取り扱われて贈与税の対象となるのは、以下の場合です。

親と子が書面によるか否かにかかわらず贈与契約を結んだ後、親から子への定期預金の名義変更がされ、その名義変更後、子が親から定期預金の通帳や証書、届出印を受け取って管理し、定期預金を運用している場合には、贈与として取り扱われ贈与税の対象となります。

名義預金とは?

定期預金の口座の名義人と実際に管理している人が異なる預金のことを名義預金と言います。例えば、祖父が孫名義の口座を作り、実際には祖父が管理しているケースがこれにあたります。この場合、名義は孫ですが、実質的には祖父の財産と見なされます。

名義預金が認められるかは、以下の基準から判断されます。

①定期預金のお金を出した人は誰か

②定期預金の管理・運用をしている人は誰か

③定期預金から生ずる利益を得ている人は誰か

④定期預金の名義人がその名義を有することになった経緯

⑤被相続人と当該定期預金の名義人との関係

⑥被相続人と当該定期預金の管理・運用をする人との関係

上記の①~⑥を総合して、名義預金かどうかが判断されるといえます。被相続人が名義預金を生前贈与したといえるためには、上記の②~⑥が重要になります。

①については、定期預金の資金を拠出している人の財産と認められることになります。

②については、定期預金の名義人が預金の通帳や証書、届出印を管理し、預金を解約したりして他の用途に使用している場合には、生前贈与の可能性があります。

③については、定期預金の名義人が預金から発生する利息を口座に入金していれば、生前贈与の可能性があります。

④については、定期預金の名義人が被相続人から贈与を受けて名義変更をしたのであれば、生前贈与の可能性があります。

⑤については、被相続人と当該定期預金の名義人との関係が贈与者と受贈者の関係であれば、生前贈与の可能性があります。

⑥については、当該定期預金の管理・運用をしている人が被相続人から贈与を受けた人であれば、生前贈与の可能性があります。

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定期預金の名義変更で節税可能?

定期預金の名義変更で節税が可能なのかどうかについて見ていきましょう。

贈与税の非課税枠に関しては上述しましたが、下記のように生前贈与を行えば、相続財産を減らすことができ相続税の節税になります。

(1)1年間の贈与が贈与税の基礎控除額を下回る110万円以下

(2)一定の直系親族間で贈与を受けた財産の価額の合計額が2,500万円以下

(3)夫婦間贈与の特例により2,000万円以下での振込み入金

(4)結婚・子育て資金の一括贈与により1,000万円以下での振込み入金

(5)教育資金の一括贈与により1,500万円以下での振込み入金

しかし、この方法でも贈与と認められず名義預金として扱われる可能性もあります。そのため、生前贈与と認められるには以下の点に注意する必要があります。

①上述した(1)~(3)については贈与者と受贈者との間で贈与契約をした後、定期預金の名義を贈与者から受贈者に変更することが必要です。(4)(5)については金融機関等と一定の契約を結んだ上、定期預金の名義を贈与者から受贈者に変更することが必要です。

②贈与者が受贈者の定期預金の口座に非課税枠の金額を振込み入金することが必要です。

③受贈者が贈与者から定期預金の通帳や証書、届出印を受け取り管理することが必要です。

④受贈者の贈与税が非課税となるためには、上述した(2)については相続時精算課税選択届出書と贈与税の申告書を提出することが必要です。(3)については贈与税申告書を税務署に提出すること、(4)(5)については非課税申告書を金融機関等を経由して税務署に提出することが必要です。

⑤上述した(1)については、受贈者が「相続や遺贈によって遺産を取得した人」に当たれば、相続開始前3年以内の贈与として相続税の対象になるので、節税のためには相続人以外の人に贈与することが必要です。

節税するコツ

上述した条件をまとめると、節税するためのコツは、以下のような贈与税の非課税枠を利用することです。

①相続人以外の人に110万円以下の基礎控除による非課税枠

②相続時精算課税による非課税枠

③夫婦間贈与の特例による非課税枠

④直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税枠

⑤直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税枠