米国の社会年金保障制度は非常に手厚く、OASDI(Old-age Survivors and Disability Insurance)という退職・遺族・障害保険制度は、一定の要件を満たすことを条件に、国籍問わず受給資格が得られます。そんな米国の年金制度をめぐり、日本の国税当局と米国在住の日本人の間で争われた税制問題があります。国際税務のプロフェッショナルが日米の税金問題をわかりやすく解説します。
年金制度をめぐり国税当局と訴訟
年金制度をめぐり国税当局と訴訟に発展した事例を紹介したいと思います。
長年米国で働いていた日本人が米国の退職年金を受給していました。そして妻は「米国の退職年金を受給する権利を有する者」の妻として米国の「家族年金」を受け取っていました。
「家族年金」とは、退職年金を受給する夫を持つ妻が65歳になると、夫が受給していた年金額の50%が自動的に妻に支給されるというものです。
夫が亡くなると同時に、退職年金と妻の家族年金の支給は終了します。そして夫に先立たれた妻は、米国の「遺族年金」を受給することになります。
遺族年金は、子の年齢や障害の有無によって支給額は異なりますが、一定の要件を満たすこと(婚姻期間が9ヵ月以上あること)などを条件に、残された家族に支払われます。
この遺族年金は、生命保険のように一時金として受け取ることはできず、基本的に年金形式で受給されますが、死亡時には255ドル(およそ3万5,000円)ほどが支給されます。
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争点は、日本の相続税法の落とし穴
この訴訟において問題の発端になったのは、日本の相続税法の「契約に基づかず、被相続人の死亡により取得する定期金」は相続財産だとみなすという条文(第3条第1項6号)があることによります。
日本の国税不服審判所は、米国の遺族年金の形態が上記の条文に該当するとして、妻が受給する遺族年金を相続税の課税対象であると判断しました。
日本の相続税法には、船員保険法の規定による遺族年金や、国民年金法の規定による遺族基礎年金等において、それらを非課税対象とする条文が存在します。
しかし、「米国の遺族年金には相続税が課されない」という条文は日本の相続税法において存在しないことから、課税対象とする判決が下されたのです。
つまりは日本で働いていた場合、本来非課税とされる遺族年金を、海外に移住し働いた者に限り課税対象にするというものです。
この判決は上告されましたが、そもそも米国は年金に対して一律非課税であることを考えると、はたして年金に課税する国を先進国といえるだろうか、と疑問が浮かびます。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾