秋になると京都に行きたくなるのは私だけでしょうか。今回も京都にある、デザート店を取材しました。京都や大阪では、数年前からカウンタースタイルのアシェットデセール専門店が次々と生まれていますが、その中でも特にデザート好きを唸らせると話題のお店です。
SNSを見ると敷居が高そうな、完成度の高い美しいデザートの写真が並んでいます。その世界観から「こだわりが強い職人」が営んでいる印象を受けますが、安心してください。カウンタースタイルをあえて選ぶということは、お喋りが大好きなのです。京都のデザート店「Harmonika(ハーモニカ)」と、芸術的なデセール3皿を紹介します。
2022年の間借り営業スタートを経て、2024年2月に移転オープンした「Harmonika(ハーモニカ)」。
「Harmonika(ハーモニカ)」のオープンは2022年。フレンチレストランで料理人をしていた松本シェフが、祇園にある履き物屋さんの一角を間借りして始めたデザートのお店です。あまりにも見つけにくい場所にも関わらず、料理人ならではの感性で生み出される芸術的な一皿が話題に。デザート通の心をがっしりと掴む存在になりました。
そして今年2月、待望の移転。場所は、京阪電車の「祇園四条」駅または「清水五条」駅から歩いて10分ほどのところにあります。
移転はしたものの「見つけにくい」は変わらないようで、とあるマンションの奥なのでうっかり通りすぎてしまいそうになります。通路の奥に進むと会員制バーのような雰囲気の看板が見えてきます。
綺麗なカウンターテーブル8席に、テーブル席が2卓。満席時でもすべて一人で対応するのだとか。メニューは、季節のフルーツを使ったアシェットデセールのアラカルト。取材に訪れた11月下旬は無花果、柿、葡萄、洋梨などがメニュー表に書かれていました。
この距離の近さ!
「注文をいただいてからフルーツを切り始めるので、鮮度は良いですよ!同じ素材でも切ってみたら状態や味のバランス感が違うので、分量とか組み合わせるものなどは日々変わりますね。同じメニューに見えても微妙に違うと思いますよ。今日は何が食べたいですか?」
と、明るく導いてくれる松本シェフ。初対面でもグッと距離を縮めてくるけど、嫌な印象が一切ないコミュニケーションスキルは、一種の才能です。「お前はカウンタースタイルに向いているよ」と、過去働いたお店の上司にも言われたそうです。一人で行っても、いやむしろ「Harmonika(ハーモニカ)」は一人で行って松本シェフと話すことを楽しむお店なのかもしれません。
(広告の後にも続きます)
メインのフルーツには手を加えず、素材のポテンシャルを引き立たせる構成の一皿
まず作ってもらったのは「洋梨」メインの一皿。
薄くスライスした洋梨で作られた薔薇が美しいです!この内側には、国産のヨーグルトをベースにクリーム状にした酸味のあるクレームダンジュ。そして、柚子で作ったコンフィチュールのソース、賽の目切りにした和歌山産みかんが入っています。
その周りに、国産のクラフトジンで作ったシャーベット。泡のソースにはライチの香りを移していて、最後に目の前でライムの果皮を削り、全体的に「爽やか」な仕立てです。
元料理人の松本シェフが考えるデザート構成は、パティシエとどんな違いがあるのだろう?と気になり、聞いてみました。
「パティシエは基本、持ち帰り前提のケーキを作る方が多いですよね。だからフルーツなども、一度ピューレやムースに加工して、生クリームやバター、砂糖と合わせます。その『加工』をして美味しさを引き出して表現するのが、パティシエさんたちの技術なのだと思います」
「自分は、旬のフルーツはできるだけそのまま出していて。洋梨を美味しく食べてもらうために、周りにどんな味、食感、香りがあればいいのかなっていう考え方をします」
主役のフルーツは手を加えずに、その良さを引き立たせるために脇役となる素材を存在させるのだとか。それぞれを単体で口に含んでも意味がなく、すべてが合わさってはじめて成り立つ、まるで一つの「劇」のようです。ただ、色々な味や香りはするものの、何も考えなくてもシンプルに美味しい。これが「Harmonika(ハーモニカ)」の魅力です。
「常連のお客様、多いですね。一週間連続で来てくれる方とか、海外の方だったら日本に来る度に必ず寄ってくれるとか。外国語はまったくできないんですけど、なんとか会話できています(笑)。大事なのはコミュニケーションを取りたいっていう気持ちなので。次に来てくれた時には相手の国の言葉で迎えてあげたいな、という想いで、中国語や韓国語、イタリア語にスペイン語…挨拶は覚えるようにしています」