企業が新規出店をする際、立地戦略は非常に重要です。なかには駅からも遠く、これまで同じ場所で数々のお店が潰れてしまった土地をうまく活用している企業もあるようで……。戦略広報コンサルタントの井上岳久氏が、著書である『集客が劇的に変わる! クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BAD プレイスでも儲かる理由』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、一見立地が悪いとみなされる場所で集客できる理由を解説します。
パチンコ台が置き捨てられた店舗にピンときた理由
埼玉県八潮市にオープンしたクレーンゲーム専門店
そもそも八潮市自体が、つくばエクスプレスが開通するまでは鉄道駅がなく、草加駅からバスでないと行けないような陸の孤島でした。商圏範囲を考えたら、通常ならビジネスの見込みは薄い地域。そこに3,300m2の超大型店を出したのです。周囲からはもちろん「そんなところに店を出して大丈夫なのか」と心配されたといいます。
物件は草加駅からも八潮駅からもバスで10分以上かかる不便な場所です。もとはボーリング場が潰れ、有名スーパーが潰れ、ホームセンターが2社潰れ、パチンコ店も倒産して廃墟になっていた場所です。私も初めて出向いたときは、草加駅からタクシーで行きました。車内でドライバーさんに聞くと、「あんなところにそんな施設あったかなあ」と、はなはだ心もとない返事。
やがて思い出したようで、「パチンコ店があったあそこか、もう潰れたのかなあ」と。「また今度何かできるの?」と聞いてくるので、「ゲームセンターができるんですよ」と答えたら、「まあ、すぐ潰れるんじゃねえの?」と不吉な予言をされた覚えがあります。
クレーンゲーム専門店の社長が下見に行ったときは、パチンコ台がずらっと残されたままの状態が3年ほど続いていました。それを借り受け、中も外もリニューアルしてクレーンゲーム専門のゲームセンターにつくりなおしたのです。
「ふつうは借りないですよ。パチンコ台を破棄処分するだけで、3千万円かかってしまいますから。だけど、ここでやったら爆発的な店ができると思ったんです。その分、家賃は安くしてもらいました。通常の倉庫を借りるより安い条件です。誰も借り手がいなくて、地主さんも困っていた物件だったので」通常の経営者なら絶対に敬遠するであろうこの土地。しかし社長は、そこを見たとき、ピンときたのです。
第1条件は「家族が車で来られること」
何がよかったのかといえば、社長の基準は箱(建物)が大きくて、駐車場があること。ふつうなら駅から近いとか、商圏内に人口が何万人いるとかにこだわります。もちろん、それらにも注目しますが、それ以上に箱が大きくて、駐車場がたくさんあること、すなわち家族が車で来られることが第1で、その条件に適っていたのです。
こうした物件は、ありそうで意外にないといいます。もしそうした土地があれば、多くの事業者は駐車場よりも施設を大きくしようとするからです。大手デベロッパーがすべて買い上げ、大きな倉庫をつくって貸してしまうからです。
店舗より駐車場の大きさが重要
「私のなかでは、この物件はハイリスクではなかったんですよ。人口密度があって広い面積で駐車場をもっていて、という物件自体がなかなか存在しないんです。倉庫であれば、建物はすごく大きいんですけど、駐車面積は小さくします。地主からすると事務所と倉庫を建てて貸したほうが儲かる。たとえば1万坪の倉庫であれば、駐車場は1千坪くらいあれば十分だけど、私がほしいのはその真逆なんです。駐車場がデカくて、店舗は1千坪くらいでいい。しかも八潮の物件は、入口までが細い道でつながっていて、大型のトレーラーが入らないんです。店舗が道路から見えないので、スーパーマーケットなどにも向かない。だから使い道がない」いままで培ってきた出店への独自理論が当てはまった最適な物件で、クレーンゲームの専門店に最適なことを確信しました。
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「唯一無二」のブランディング
満を持してオープンした店舗には448台のクレーンゲームを置きました。「もっと多くの種類の景品をとりたい」という声にも応えて、景品アイテム数は5千点にのぼりました。設置したクレーンゲームのうち、約半数はおもちゃ・フィギュア、スクイーズ(やわらかくて触り心地のいい景品)、お菓子・食べ物(近隣に飲食店が少ないので、おなかが空いたら食べられるように)、時計・アクセサリー、生活雑貨に外国人客を意識した日本雑貨(箸や扇子、万華鏡など)、など景品業者が用意した景品を。
残り半数は、農産物を入れた採れ立てキャッチャーや、カレーキャッチャー、エブリディ名物の宝石キャッチャー、面白キャッチャー、五右衛門などのエブリディ独自キャラクターのTシャツや缶バッヂ、エコバッグなどが入っているエブリディオリジナルキャッチャーを設置しました。
クレーンゲーム初心者でも楽しめるための「100円で8回キャッチャー」や、ズバリ「10円キャッチャー」は、その後、大手のゲームセンターがマネをするようになりました。