12月4日、自民党の野田聖子議員や立憲民主党の辻元清美議員など超党派女性議員らが、「選択的夫婦別姓」実現に向けた意見交換を実施した。
勉強会には与野党8党の女性議員が参加
野田議員や辻元議員など与野党8党の女性議員らは「クオータ制を実現するための勉強会」を隔月で実施している。今回は一般社団法人「あすには」代表の井田奈穂氏が、10月に国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)が公表した選択的夫婦別姓に関する日本政府への改善勧告について総括を行い、法改正に向けた議員らへの要望を述べた。
なお、クオータ制とは、国会における女性議員の比率を引き上げるため、候補者や議席の一定数を女性に割り当てる制度(人数割当制)のこと。夫婦別姓と直接的な関係はないが、勉強会に参加している女性議員らの大半は選択的夫婦別姓の実現も求めていることから、今回は井田氏がゲストスピーカーとして招かれた。
「女性に対する社会的圧力」「家父長制」の問題が国連で指摘される
CEDAWが現状の夫婦同姓制度について日本政府に改善勧告を行ったのは、今回で4回目。最初の勧告が出されたのは2003年だが、10月にCEDAWが開催した日本政府審査でも政府は従来の答弁を繰り返すなど、改善に向けた取り組みを行ってこなかった、と井田氏は指摘する。
今回、CEDAWは夫婦同姓を定める民法750条の改正に関して日本政府が「何の措置も取ってこなかった」と指摘したうえで、選択的夫婦別姓を導入するように勧告している。
また、CEDAWのヤミラ・ゴンザレス・フェレール委員は日本政府審査にて、日本では新たに婚姻する夫婦のうち約95%において女性の側が改姓している実態に関して、女性に対する社会的圧力の存在や、改姓が女性のアイデンティティ・職業・雇用などに与える負の影響を指摘した。
同じくCEDAWのバンダナ・ラナ委員も、日本のメディアの取材を受けた際に、「家父長制的な固定観念が行政・法的手続きに反映されている」と語っている。
井田氏は、現状の制度では女性に対する社会的圧力が原因で「氏名を維持する法的権利」が実質的に女性のみ守られていない状況にあり、国連女性差別撤廃条約に違反している、と指摘。「2025年通常国会で、参院選前までに法改正を達成してください」と、議員らに要望した。
辻元議員「課題は自民党」
毎日新聞のアンケートによると、10月の衆院選に当選した議員のうち65%が選択的夫婦別姓制度の導入に賛成している。また、大幅に議席を増やした立憲民主党と国民民主党は、賛成がそれぞれ9割を超える。
辻元議員は会の冒頭で「ほぼ全ての党が足並みをそろえているが、課題は自民党」と指摘。
井田氏の要望に対しては「法律を作るときに、自分たちの思いが100%通るということは少ない」と述べたうえで、審議や修正協議などを経ながら成立を目指すことが必要だと語った。
また、「まずは閣法(内閣提出法律案)のために、自民党のなかでがんばっていただきたい」と野田議員に期待をかけた。
辻元議員(12月4日都内/弁護士JP編集部)
野田議員「時代が変わった」
会の冒頭で、野田議員は自身のことを「初当選からずっと選択的夫婦別姓を推進している、化石のような存在」と表現。
また、衆院選の結果、自民党が30年ぶりの「少数与党」になった状況であるからこそ、従来よりも選択的夫婦別姓制度を成立させやすい状況になっていると指摘した。
野田議員によると、自民党には夫婦別姓について関心を持たない議員が多く、反対・賛成問わず積極的な議論は起こっていない。そのため、世論の動向によっては、自民党が夫婦別姓賛成に傾く可能性も高いという。
そして、先の衆院選では、夫婦別姓への反対意見を積極的に表明している議員が多数落選した。
「かつてに比べて、夫婦別姓に反対する意見は国民の意見から乖離(かいり)していることが、選挙結果にもあらわれた。
少し前までは『反対しておけば票が増える』と考える議員もいた。時代が変わった、と思っている」(野田議員)
2日に開かれた衆議院本会議では、石破茂首相が選択的夫婦別姓について「国民の意見が分かれている。しっかりと議論し、より幅広い国民の理解を得る必要がある」と語り、まだ議論を要する段階であるとの認識を示した。
野田議員は石破首相について「本心では賛成派だろう」とコメント。辻元議員も、先日、選択的夫婦別姓に関する自民党の党議拘束を外すよう、石破首相に要望してきたという。「石破さんを信じたい」と、辻元・野田両議員は口をそろえた。
野田議員(12月4日都内/弁護士JP編集部)
「子の姓」の扱いが争点となってはいるが…
現行法では、生まれてきた子の姓は戸籍筆頭者のものに統一される。
選択的夫婦別姓に関する法案については、別姓夫婦の子の姓(氏)を「夫婦の婚姻の際にあらかじめ定めておく」か「子の出生の際に父母の協議で定める」かが、争点の一つとなっている。前者の場合には兄弟姉妹で姓が統一されるが、後者の場合には兄弟姉妹が異なる姓を持つ(例:兄が父の姓、弟が母の姓)可能性があるためだ。
1996年の法制審議会の答申案では前者の制度が、2001年の公明党案や2022年に最新版が提出された野党案では後者の制度が採用されている。
しかし、井田氏は「子の姓の振り分け」は本質的ではなく副次的な問題に過ぎないと指摘。また、現行法でも、「子の氏の変更届」を提出することで兄弟姉妹によって異なる姓を振り分けることが可能であるという。
「夫婦別姓を導入している海外でも、子の姓の振り分けが社会問題となっている国はない。
まずは現行法と子の名付け方が同じ、法制審議会のお墨付きのついた答申案で、法改正を早期決着してほしい」(井田氏)
辻元議員も、子どもの姓についてはそれほど大きな問題ではない、とコメントした。
公明党や共産党も選択的夫婦別姓に賛成
野田議員や日本維新の会の石井苗子(みつこ)議員は、反対派らの多くは「選択的夫婦別姓になると、同姓が例外になり別姓が基本になる」といった誤解を抱いている問題を指摘。石井議員は「『選択的同姓制度』と表現した方が理解を得られやすい」と提案した。
公明党の佐々木さやか議員は、同党が一貫して選択的夫婦別姓に賛成の立場であり続けていると述べたうえで、勉強会と同日に行われた参議院本会議にて、公明党・代表代行の竹谷とし子議員が「選択的夫婦別姓制度の早期導入について総理の決意を伺います」と踏み込んだ質問を行ったことに触れた。
なお、竹谷議員の質問に対して石破首相は「国民の理解が形成されることが重要」「国会で議論していくことが重要」などと返答している。
日本共産党の岩渕友議員は、世論でも経済界でも選択的夫婦別姓に賛成する声が強くなっていることを指摘したうえで、「色々と言わずに、スパッとやってしまうべきだ」とコメントした。