三菱UFJ銀行は先月22日、支店の貸金庫から顧客の現金や貴金属を盗んだとして、貸金庫の管理を担当していた行員(店頭の業務責任者)を同月14日付で懲戒解雇したと発表した。
発表によれば、元行員は2020年4月〜24年10月の4年半にわたり、東京都の練馬支店(旧江古田支店を含む)、玉川支店の2支店で貸金庫を無断で開け、顧客の資産を繰り返し盗んでいたとされ、10月末に貸金庫を使っている顧客からの指摘によって発覚したという。
盗まれた資産は顧客約60人分、被害総額は十数億円に上るとしている。
貸金庫の“鍵”どう管理されている?
貸金庫とは重要書類や貴金属、思い出の品を盗難や災害から守るため、銀行が金庫を貸し出すサービスだ。貸金庫の鍵や貸金庫に預けた物の管理は、一体どのように行われているのか。
メガバンクでの勤務経験もある椎名英之弁護士は、「直接貸金庫に関わる業務を行ったことはないため、詳細まではわからない」と前置きしつつ、一般的な管理方法について次のように説明する。
「銀行では貸金庫を開けるための鍵を、通常、貸金庫の管理責任者である役職者が保管しています。
保管方法は金融機関によって異なると思いますが、私の知っている方法では、貸金庫の鍵を封筒に入れた後、利用者が銀行届出印で封筒に押印し、封印した上で保管されています。封印を開披(かいひ)した場合、形跡が残るようになっているのです」
封筒の封印が保たれているかを確認することで、貸金庫が開けられた可能性を点検・確認することができる仕組みだといい、点検作業だとしても銀行側が顧客に黙って金庫を開けることは考えられないという。
なぜ4年半も発覚しなかったのか
これはあくまで椎名弁護士が知っている管理方法のひとつではあるが、三菱UFJ銀行も事件公表の中で「貸金庫は、お客さまに無断で開扉することができないよう、厳格な管理ルールを定めており、第三者による定期チェックの仕組みも導入しておりましたが、未然防止に至りませんでした」と釈明した。
椎名弁護士は、今回の事態の背景には「定期的に行われていた検査が杜撰(ずさん)なもので実質的には機能していなかったか、定期点検では見破ることができないほど巧妙な方法により封印の開披やその隠ぺい工作があったのではないか」と推測する。
なぜ、4年半もの長期間にわたり複数の店舗での不正行為が発覚しなかったのか。
三菱UFJ銀行はその原因と今後の対策について、編集部の取材に「長期にわたり事件が発覚しなかったことも含めて真因分析を行い、再発防止に向けた取り組みを行ってまいります」と回答した。
事件の舞台となった玉川支店(弁護士JP編集部)
元行員はどんな罪に問われる?
安全だと思っていた貸金庫で起きた“まさか”の事態は、銀行の信用を揺るがす大事件だ。三菱UFJ銀行はすでに警察にも相談し、事実関係の調査を進めるとともに、監督官庁などに報告を行っているという。
現時点では、元行員が逮捕や書類送検されたという報道はないが、椎名弁護士は元行員の行為は「窃盗罪」が成立する可能性があると指摘する。
「窃盗罪の法定刑は『10年以下の懲役または50万円以下の罰金』とされていますが、本件のようなケースでは、1回の窃取行為ごとに1個の犯罪が成立し、『併合罪』といって刑が加重されます。懲役刑は最長で『15年』、罰金刑については最大で『50万円×窃取行為の回数』となります。
被害金額が莫大であり、被害者数も多いことなどから、元行員が起訴された場合には重い刑罰が科される可能性が高いでしょう」(椎名弁護士)
また、「当然のことながら、元行員は被害者に対し民事上の損害賠償責任を負います」と続ける。
しかし、十数億円にも上るとされる被害金額を元行員が個人で賠償できるとは考え難い。
これについて椎名弁護士は、「三菱UFJ銀行が使用者責任に基づき損害賠償を行うことになると考えられます」と説明。事実、三菱UFJ銀行は事件発覚の公表の中で、「被害が確認されたお客さまには、改めて深くお詫び申し上げるとともに、今後、真摯に補償を実施してまいります」と言及している。
とはいえ、元行員が一銭も払わなくてよいかといえば、そうは問屋が卸さないだろう。
「三菱UFJ銀行は、被害者に対する損害賠償を行った後、元行員に対し、本来であれば元行員が支払うべきであった損害賠償金について、その支払いを求めることになるのではないでしょうか」(椎名弁護士)
三菱UFJ銀行は元行員への訴訟提起の可能性について「現時点でのコメントは差し控えさせていただきます」と述べた。まずは銀行、そして銀行で働く人々への信頼回復のため、事件の真相解明が急がれる。