「舌打ちをこらえるのに必死」“駅そば店員”が頭を悩ませる迷惑客。券売機に行列をつくるサラリーマンには「後ろ見て」

 移動の合間を縫って食事がとれる駅そばは勤め人にとって誠に重宝な存在だ。特に、近年減ってきているホーム店は移動手段(=電車)のすぐ横で営業しているのだから、究極のファストフードと言えるかもしれない。

 ただ、「駅そば=早い」というイメージが先行し誤解を生み、誤った利用をしているお客も少なくない。

◆部活帰りの腹をすかせた学生4人組が来店しパニック状態

 昼のピークタイムを過ぎた土曜午後3時過ぎ。筆者が厨房後ろの事務所で退勤支度をしていると、もう1人の店員のお客の注文を読み上げる声が聞こえてきた。

「ざるうどん2倍盛り、豚肉、煮玉子トッピング」「ざるうどん2倍盛り・煮玉子2個トッピング」「中華そば大盛り・ちくわ天付き」「チャーシューメン大盛り・山菜・煮玉子付き」

 どれも手のかかる注文ばかりで、客席を見るとスポーツ部の練習帰りらしき男子学生4人が大きな荷物を抱えてカウンターの一角を占めている。その後も来店が続き、客席はあっという間に満席に。

 まだ不慣れな新人のワンオペだったこともあって、結局最後の学生の注文を提供し終えるまで10分以上が経過していた。煮玉子などは仕込みが底をついたのではないだろうか。

 アイドルタイムだからと油断した店側が悪いのは百も承知だが、部活帰りの腹をすかせた学生4人が欲望のまま注文した際の作業マニュアルなどない。どちら側も運が悪かったとしか言いようがない。そして最も不運だったのはその直後に来店した「かき揚げそば」のお客だろう。

◆“みんな一緒”にこだわるサラリーマン客

 

 駅そばの売りである「安い・早い・うまい」のうち、最もシビアに要求されるのが「早い」だ。筆者が働いている店舗では「食券を受け取ってから1分以内で提供」というルールが一応ある。しかし、冒頭のように、お客の来店の流れによっては不可能なケースも少なくない。

 たとえば、これはサラリーマンに多いのだが、複数で来店し最後の1人が食券を購入し終えるまで券売機の前を離れないという行為だ。券売機の前に行列ができるし、注文も立て込むので購入した順から店員に食券を渡してもらいたい。

 全員隣り合った席にこだわるのもサラリーマンに多い特徴だ。カウンターだけの店舗で忙しい時間帯に4人分の席をつくるのはまず不可能と思っていただきたい。

 

 行列をつくるといえば、券売機の前に長い時間居続けるのもできればやめてもらいたいところだ。お年寄りや外国人旅行者など券売機の操作に不慣れそうなお客には店員が出向いて操作方法を教えるようにしているのだが、それも限界がある。

 とにかく券売機の前で考え込んでしまったら、一度後ろを振り返ってもらいたい。自分の後ろがドラクエ状態で列をつくっているということもよくあるからだ。

◆まさかの「犬を連れて」ご来店


 駅そばのなかでも筆者が働いているホーム店となると、食事済ませるまで電車1本単位で動いているお客も少なくない。中華そばを一口も食べないまま電車に飛び乗っていってしまったお客などがいるのもそのためだ。

「電車に乗るのに急いでいるから」という事情と駅そばの敷居の低さゆえか、マナー違反が頻発するのもホーム店の特徴といえる。

「食べ終えた丼をわずか30センチのところにある返却口に運ばない」「カウンターの上や床に食べ散らかしを残したまま」「食後の丼やコップに口を拭ったナプキンや爪楊枝を入れる」といった行為だ。

 お客の手前、平然を装って対処しているが、内心は舌打ちをこらえるのに必死である。このようなマナー違反は一見のお客よりも常連に多く、食券購入から電車に乗るまでルーティン化しているのだろう。

 また、これはマナー違反という範疇にすら入らないと思うが、筆者は一度、犬を連れて来店したお客に遭遇したことがある。

 旅行に来たのであろう南米系と思しき家族連れだ。犬は大型だが介護をする犬種ではない。ホーム店は半分外みたいなものだからOKだとでも思ったのだろうか。犬はNGだと注意するや、交互にホームで犬の見張りをし、何度も店に出入りしながらそばを食べていた。

◆急ぐあまり応援グッズを忘れるファンも

 急いでいるお客が多いだけに、忘れ物も多いという点もホーム店の特徴といえるだろう。最も多いのが傘で、スマホ、上着、メガネなどが続く。中には家から持ってきた弁当や旅先で購入したお土産も見かけたこともある。

 筆者が最も驚いた忘れ物が、明らかに某球団のファンと思しき男性が忘れた野球キャップだ。当日はその球団にとって大一番の試合が行われる予定で、彼もその足で球場に向かったはず。最も忘れてはいけないモノを忘れてしまった彼の心中察するに余りある。

 わざと忘れ物をするわけでないので仕方がないという向きもあるが、雨が止んで使わなくなったビニール傘やカウンターの下に隠すように置かれた缶チューハイの空き缶などは明らかにわざと思わざるを得ないときもある。

 いくら駅そばは敷居が低いといっても、ゴミ捨て場ではないのだ。

<文/ボニー・アイドル>

【ボニー・アイドル】

ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol