すしざんまいがマレーシアの「Sushi Zanmai」に逆転敗訴 2審知財高裁が「商標権侵害にならない」と判断したワケ

すしざんまい(株式会社喜代村)が店名の使用をめぐって“逆転敗訴”した――。10月、知財高裁が出したこの判決が大きな話題となった。

訴訟の相手方は、マレーシアですし店「Sushi Zanmai」を展開する企業のグループ会社で、同店へ日本の食材を輸出している企業。同社は日本向けウェブサイトでマレーシアの「Sushi Zanmai」を紹介しており、すしざんまいがその差し止めを求めて提訴したところ、1審の東京地裁は今年3月、「誤認混同を生ずるおそれがある」などとしてサイトからの削除や約600万円の損害賠償を命じていた。

なぜ知財高裁は1審判決を覆し、すしざんまいが逆転敗訴することとなったのだろうか。

マレーシアの「Sushi Zanmai」存在自体は“合法”

10月の報道を受けて、日本のすしざんまいとはまったく関係のない企業がマレーシアで「Sushi Zanmai」というすし店を営業していることに違法性はないのか、疑問に感じた人もいるかもしれない。

これについて、商標権に詳しい岡村太一弁理士(ブランデザイン特許事務所代表、ゆるカワ商標ラジオ運営)は「商標権には属地主義(その国の範囲内でのみ保護されること)が採用されているため、日本の商標権は日本での使用行為にしか及ばず、マレーシアでまったく別の会社が『Shushi Zanmai』というすし店を営業すること自体に法的問題はありません」と説明する。

では、すしざんまいは何を訴えていたのか。今回の訴訟で大きな争点となったのは、「商標の出所表示機能および品質保証機能を害するか」だ。

「商標法が防ごうとしているのは『出所の混同(誤認)』で、これにより会社の信用を守ろうとしています。消費者の立場からすれば、同じロゴや名前がついていれば当然、同じ会社が商品やサービスを提供しているだろう(出所表示機能)、あの味だろう(品質保証機能)と期待をします。しかし、実際にはまったく別の会社が運営していれば、その機能が害されることになります。

仮に消費者が誤認した状態で店を訪れ、おいしくなかったり、場合によっては食中毒が起きてしまったりしても、本家は責任を取れませんし、企業イメージに傷がつく可能性もあります。今回、すしざんまいは企業の信用を守るために訴えを起こしたのではないでしょうか」(岡村弁理士)

2審で逆転敗訴のワケ

1審では「商標の出所表示機能および品質保証機能を害する」と認められたにもかかわらず、すしざんまいはなぜ、2審で逆転敗訴したのか。

「2審の知財高裁はまず、日本向けウェブサイトに『Sushi Zanmai』が掲載された目的が、マレーシアの本件すし店の広告目的ではなく、あくまで食品輸出に関する広告であると認定しました。その上で、本件すし店の『役務に関する広告』に該当せず、商標権侵害にならないとしました。

そして、仮に『本件すし店に関する広告』が目的だったとしても、日本の商標権の効力が及ばない外国の飲食店を日本に向けて広告することは、日本国内の商標権の出所表示機能を害さないとも判断されています」(岡村弁理士)

前述のように、商標権には属地主義が採用されているため、世界中に情報が発信されるインターネット空間においてどのように扱うかは非常に難しい問題だ。

世界知的所有権機関(WIPO)は「インターネット上における標識の使用を特定国における使用と認めるか否かについては、『商業的効果(commercial effect)』の有無によって判断する」などとした共同勧告(インターネット上の各国商標権の抵触問題を解決するための国際的ガイドライン)を採択しており、今回、裁判所はこれをもとに『商業的効果を有しない』とも判断したという。

「共同勧告が採択されて20年以上たちますが、日本の商標権侵害訴訟でこれが引用されたケースはおそらく初めてで、今後の裁判にも影響を与える可能性があります」(岡村弁理士)

残された課題

今回の判決は今後、商標権を取り巻く環境に変化をもたらし得るのだろうか。

「たとえば、海外には日本の有名店の“パクリ”のようなお店もありますが、現地に行かなければサービスを受けられないようなものに関しては、日本向けのウェブサイトなどでパクリ店が堂々と宣伝しても法的にはセーフとなるかもしれません。

それでも『こんなのあるんだ』と笑って終わりならまだいいのかもしれませんが、たとえば当該のお店を紹介するサイトから詐欺広告に誘導されるなど、日本にある“本家”の信用が低下するようなことになると、日本の出所表示機能を害するともいい得ると思います」(岡村弁理士)

日本企業が海外での商標権を守るためには、現地で出願・登録するしかない。ただし、各国で出願するには時間もお金もかかる上、その国での実態がなければ、登録できないまたは登録が取り消しになる制度を有する国も少なくない。

今回、すしざんまいは敗訴となったが、これが話題となったことで、奇しくもマレーシアの「Shushi Zanmai」とは無関係であることが広く知られることとなった。

インターネットで世界中に情報が発信される今、自社の商標権をいかに守るのか――。課題が残されている。