施設入居者への訪問診療時間が短い理由

前述したとおり、施設への訪問診療の時間が2~5分と聞くと「もっとしっかり診てほしい」といった声が挙がるのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、実際のところ現場ではタイトなスケジュールで動くことが求められます。

なぜなら、施設の職員は訪問診療中、医療チームに同伴したり患者さんを呼びに行ったりと対応に追われます。そのため時間をオーバーすると「入居者をサポートする職員が不足する」「レクリエーションの時間を削らざるを得ない」等といった問題が生じます。そうなると入居者に迷惑がかかってしまうためです。さらに、患者さんにとっても待ち時間が長いと疲れてしまうという弊害が生じます。これらの理由から、高齢者施設では常に速さが求められます。

一方で、私は施設側に求められる時間よりも、診察内容や患者さんの気持ちに重点を置くことを心がけています。1~2分で診察を終えることもできますが、診られる側からすれば「1~2分で大丈夫だろうか」と不安を抱くことも少なくありません。私は5分程度の診察時間をとることが最も多いです。

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カルテを見るよりも先に「顔」を見る

在宅医療の現状についてお話させていただきましたが先述のとおり、開業する際には現状に合わせるよりも理念やポリシーを固めることが大切です。

長年現場に立ってきたなかで個人・施設を問わず、医師が来ることを楽しみにしてくださっている患者さんは多いように思います。そういったお気持ちに寄り添うため、カルテを見るよりも先にまず顔を見て「この患者さんは今日、私に何を期待しているかな?」と慮るようにしています。

調子がよさそうなら「車椅子から立ってみましょう」と促したり、足腰に不安があるようなら「一緒に足踏みしてみましょう」と誘ったり、そのときの状態を見て診察することを心がけています。

もちろん、カルテの確認は必須です。当日は患者さんを診ることに集中するため、私は事前にカルテチェックは終えておき、重要な箇所は当日分のカルテにコピーを貼るという準備をして臨んでいます。

野末 睦
医師、医療法人 あい友会  理事長