ドナルド・トランプ氏が再びアメリカ大統領になることが決定しました。当選前から移民問題や遺産税減税の継続に言及していましたが、トランプ氏が就任後にどのような政策を取るのか注目されるところです。国際税務のプロフェッショナルが日米の税金問題をわかりやすく解説します。
ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領選に勝利しました。アメリカメディアは返り咲いて再度大統領になるのは132年ぶりで「Historic Comeback」だという一方、犯罪人が大統領になるのは歴史上初めてとのことです。これによって「Make America Hate Again」と叫ぶ人も大勢います。
しかし日本だけでなく世界の歴史を見ても「勝てば官軍」であり、政界ほどこの言葉がよく映し出される世界はないのではないでしょうか。
接戦といわれていた今回の大統領選挙ですが、蓋を開けてみると、意外とあっさりトランプ氏に軍配が上がりました。本来、民主党の支持層である労働階級やマイノリティがトランプ氏の支持に回り、これが民主党にとって大きな誤算であったと、アメリカメディアは報じています。特に、黒人やヒスパニック系の男性有権者の多くがトランプ氏を支持したようです。
民主党候補のカマラ・ハリス氏は副大統領時代にこれといった実績を上げられなかったのもトランプ氏にとっては功を奏したといわれています。
トランプ氏の就任で大きく取り沙汰されているのが移民問題です。
トランプ氏は、何百、何千万人もの不法移民を即刻国外退去させるといっています。これが本当に行われるならば、明らかに米国労働市場はひっ迫し、インフレ要因となることが懸念されます。農業から建設現場に至るまで不法移民に依存しているアメリカにとって、実際、農作業に従事している人々の多くが移民の人々である点は見逃せないでしょう。それらの労働を不法移民から取り上げるとすると、今後大きな問題になると考えられます。
税金面では2017年に大幅な減税(Tax Cuts ad Jobs Act)が実施されました。この税法は日本の租税特別措置法でいう時限立法です。2025年に多くの税項目が期限切れとなります。
トランプ氏は減税政策を維持したいとしています。もしこの減税策を維持するのなら、今後10年間で5兆ドル(750兆円)の財政赤字になる計算です。
さらにトランプ氏は法人税率の引き下げや、Social Security(生活保護)とチップ収入を非課税にするともいっており、これにより4兆ドル(600兆円)の赤字になると試算されています。チップを払うのは面倒だと感じる日本人は多いかもしれませんが、アメリカ独特の文化です。アメリカでは請求書のあとにチップの額を記入し、合計を記入しクレジットカードを渡します。
ウォールストリートジャーナルによれば、直近の財政赤字は1.8兆ドル(270兆円)となっています。トランプ氏が大統領に就任した8年前と比べ、財政赤字は3倍に膨張しています。アメリカメディアでは、これではインフレ懸念は拭えず、長期金利の高止まりが予想されると指摘しています。
トランプ氏の勝利を受け、アメリカでは株式市場は高騰、長期金利は上昇、為替もドル高となっています。この背景には今後のトランプ氏の経済政策や先に触れた移民政策が絡んでいるものと考えられています。
ウォールストリートジャーナルは、中国嫌いのトランプ氏はまずは中国に対する関税を60%以上課し、その他の国には10~20%の関税を課すと予測しています。これが本当に実施されれば、1930年代以来の高関税率となります。これにより国内インフレが高まり、ドル高円安は避けられない状況となるでしょう。
今回の選挙ではインフレにより生活に困窮する有権者や大量の不法移民流入に嫌気をさした有権者がトランプ氏に票を投じていますので、これらの問題にどう取り組むのか注視が必要です。また彼は過去に国境に壁を作りその費用はメキシコ政府に支払わせると述べていましたが、賄ったのは米国民の税金でした。
今回のトランプ氏は、再び、いうは易く行うは難いという結果になるのか、いよいよトランプ劇場の第二幕が始まろうとしています。
そして気になるのは日本政府の対応ですが、いまだまったく見えてきません。トランプ大統領はある意味単純なところもあるので、彼の唯一の趣味であるゴルフにうまく付き合える者が彼を操れるのかもしれません。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾