オルタナティブ投資とは上場株式や債券といった伝統的資産とは異なる資産への投資のことで、年々市場規模が大きくなっています。本記事ではオルタナティブ投資に焦点を当て「大きく負けない運用」を実践する本庄正人氏(キャピタル アセットマネジメント株式会社)が詳しく解説します。

なぜオルタナティブ投資なのか?

「お金」にまつわる新聞記事、雑誌のコメント、SNS等を眺めていますと、かなりの頻度で「資産運用」や「積み立て投資」という見出し語に出合います。運用益が非課税となるNISAが定着し、今年からは新たに「成長枠」も年間240万円の枠が設けられて、20歳台、30歳台のいわゆる資産形成層が積極的に利用を開始した様子が伺えます。

筆者は投信運用を生業としている者ですが、三菱UFJアセットマネジメント社のホームページによりますとS&P500に連動するeMAXIS Slimの資産残高が2024年10月28日時点で5兆7,696億円となり、業界(国内公募追加型株式投信(除くETF))および同社ファンドの歴史で過去最大【注1】の純資産総額を記録したとの特別ページが掲載されていました。

同業者が成功することはご同慶の至りです。米国のS&P500指数は2024年10月に入ってからも史上最高値を更新していますし、投資対象は米国の企業でUSドル建ての指数ですが、2021年からの為替相場ではドル高円安が趨勢として定着してきましたので、毎月積み立てコースを利用している投資家も単発で買いを入れている投資家も、S&P500指数連動の投信では順調に資産を増やしていらっしゃると推測します。

(広告の後にも続きます)

分散の効用

「投資における分散」を論じるときに、分かり易い喩えとして「すべての卵を同じバスケットには入れない。」という逸話を読まれた方は多いことと思います。自分が持っている資産全体を見て、その配分が望ましい割合になっているかどうかを確認することは重要です。

せめて1年間に1度くらいは、また株式など変動する金融資産に投資している方たちは大きく市場が動いた時などにも、個別資産の時価とその集合体である全体の資産配分(不動産や年金を含む)をチェックするのが望ましいと思います。

要はご自身の資産全体をポートフォリオとして認識し直してみることが必要だと存じます。加えて住宅ローンをはじめとする負債残高、将来の教育費用、老後資金など(将来の)負債として捉えておくべき「お金」についても把握しておく必要はありますね。

さて資産の分散ですが、米国の著名大学の資産運用についてご紹介いたしたく思います。

資産運用において「時間」は重要です。大学や年金等のアセット・オーナーと個人とでは資産運用に費やすことのできる時間については実は似た点があり、本当の意味での「長期運用」が可能であると思われます。その基金が続く限り、あるいは個人が生きている限り資産の組み換えや組入銘柄の選択、変更が可能です。投資した案件について忍耐力を以て成果が現れるまで待つことができます。時間を味方にできるわけです。

あるいは自分の意思決定に自信が持てない場合は、その資産を売却するか保有を継続して様子を見るという態度がとれます。米国の有名大学は、その殆どが私学で、財政運営については専門の基金(エンダウメント)が設けられています。授業料等、学生が負担するものを除いて大学全体の運営に必要な資金はこの基金が拠出しています(総額の約1/3から1/2は基金からの拠出に依存)。

基金の資産は巨額であるものも多く、その運用は多くの年金基金や他の財団と同様にきわめて厳格にモニタリングされ、リターンのデータ、採用された運用会社をはじめ、透明性の高い報告がなされています。

著名なイェール大学基金の場合では、今年度(2024年6月30日現在)までの実績は、過去20年間年率で10.3%の収益を上げ、大学基金平均を年間3.0%上回ったとのことです(エンダウメントの間でも競争があるのです)。また、時価ベースの残高は414億ドルに達しています。

【図表1](左)出所:Harvard Management Companyのホームページ(右)出所:GPIFホームページを基にキャピタルアセットマネジメントが作成

上の図表1はハーバード大学基金の資産配分と本邦GPIFの資産配分を示したものです。ハーバード、イェール等の大学基金は非上場株式とヘッジファンドの組入比率が全体の7割程度となっていますが、GPIFではその組入れはほぼゼロです。日本国民の年金資産はほぼ100%伝統的資産で占められているのに対して、米国の有名大学では、その大部分がいわゆるオルタナティブ性資産で占められています。

このことは表面的な違いだけではなく、運用目標の設定(リスク水準とリターン目標)、リスク許容度、投資可能な市場の違い等様々な要因があろうとは思いますが、その他の米国年金基金も含めて比較検討に値する差異であろうと思われます。