“札幌ドーム時代”の収益とは雲泥の差が…野球の試合がない日でも「エスコンフィールド」に人が集まる“明確な理由”

いま、最もアツいテーマパークのトピックが「ボールパーク」だ。

これは、野球場のスタジアムにグラウンド以外のさまざまな施設が併設された場所のこと。多くの場合はフードコートや公園、ショッピング施設などが付帯している。もとはといえば、アメリカで野球に関心が無い人でも球場へと足を運んでもらうために、バーベキュー場や遊園地などを併設したのがはじまりだ。

日本における代表的なボールパークは、北海道日本ハムファイターズの球場「エスコンフィールド」だろう。苫小牧市は「野球観戦だけでなく、試合がない日でも、買い物や食事、レジャーを楽しむことができる賑わいや交流を創出するエリアで構成される空間です」と説明している。いわば、「野球」を核とした「テーマパーク」のような空間が、「ボールパーク」だといってよいだろう。

ちなみに、米国での本来の意味での「ボールパーク」は天然芝・低いフェンス・狭いファウルゾーンなどの特徴を有する専用野球球場という意味だった。そこに、上述したような施設が併設され始め、現在の日本では「野球場+α」の場所がそう呼ばれている。

◆増える「ボールパーク」

ボールパークは近年、日本で増えている。その先駆けは、「楽天生命パーク宮城」である。2000年代中盤から、野球場だけでなく、公園としても整備され、野球場だけでない設備が付帯するきっかけとなった。2009年には、MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島(広島市民球場)が誕生。2016年に「広島ボールパークタウン」もグランドオープンし、結婚式場、分譲マンションなどが球場を囲んでいる。

そして、日本における現時点でのボールパークの到達点ともいえるのが、先ほども触れた「エスコンフィールド」だ。北海道日本ハムファイターズの球場で、札幌市の隣・北広島市にある。35000人の収容人数を誇る球場に加え、フードコートやホテル、温泉とサウナにショッピングモールなどが併設され、まさに野球場を核としたテーマパークのようになっている。大規模な開発だけに竣工までの道のりは長く、2016年から2023年の完成まで、足かけ7年にわたるプロジェクトとなった。

◆「野球好き」以外も足を運べる場所に

ここまでして、ボールパークを建設する背景には、球団にとって大きな増収が見込まれることがある。実際、エスコンフィールドを含む「北海道ボールパークFビレッジ」の運営元である「ファイターズスポーツ&エンターテイメント」の2023年度の売り上げは、251億円となっていて、まだ球場が札幌ドームにあった2019年の157億円から大幅に増加している。試合のない日でも平日4500人、休日は1万人近くの動員を集めているから驚きだ。

これまでの球場が「野球好き」だけを対象にしていたのに対し、その客層を大きく広げることから、この増収が達成されているのだろう。その意味では、今後も「ボールパーク化」は不可避の方向かもしれない。

しかし、このエスコンフィールド、いったいその人気の理由はどこにあるのだろうか。そう思った筆者は実際に足を運んでみた。

◆エスコンフィールドのスゴさはどこにあるのか?

ということで「エスコンフィールド」にやってきた。

巨大な駐車場に車を停め、中に入るといきなり見えてくるのが巨大なグラウンドだ。ボールパークと命名される球場の特徴の一つは、観客席とグラウンドが近いことだが、確かにこんな距離でのグラウンド、見たことないかも。

その迫力に圧倒されながらも目につくのは、球場をぐるりと囲むように作られたフードコートやショッピング施設。特に飲食店は、「ミスター・ドーナツ」のようなチェーン店から、北海道ならではの「ルスツ羊蹄ぶた」など幅広く、グルメを物色しているだけでも楽しくなる。また、ヤッホーブルーイングのレストラン「そらとしば」では、屋上テラスから野球を観戦することもできる。

それ以外にも、バッティングセンターや野球博物館、またファイターズグッズを多く取り扱うショップなど、さまざまなコンテンツが盛りだくさんである。私が訪れた日は試合がない日であったが、それでも多くの人がいたし、確かに野球観戦以外でやれることがとても多い。

ボールパークができた当初は、「野球場に別の施設がくっつく」のがその形だったと思うが、エスコンフィールドを見て思うのは「ショッピングモールの一つのコンテンツとして野球場がある」ことだ。ショッピングモールの中には、だいたい真ん中に大きな広場がある。そこで週末になるとイベントをやったり、抽選会をやっていたりする。ボールパークの場合、その広場がまるっと野球場になっている、というイメージだ。

◆「野球を好きにする」仕掛けこそが…

ボールパークの狙いが、「野球観戦以外の需要も掘り起こす」ことは先ほども述べた通り。実際、こうした球場以外のコンテンツの存在により、家族やカップルでもここにくる理由になりそうだ。さらに、これは私自身がそうなのだが、野球に興味が無い人でも、この空間自体に惹かれて結果的に野球に興味を持つ、という流れも生まれるのではないかと感じた。例えば、「そらとしば」のテラスで野球を観戦する、なんてのは楽しそうだな、と思うし、ここにはサウナに入りながら野球観戦できる場所もある。そこにサウナーがやってきて、野球観戦にはまる……なんてこともありそうだ。

つまり、野球以外の需要だけでなく、「野球を好きにする」仕掛けも満載なのが、エスコンフィールドの本当のスゴさなのだ。

◆「一つの街」になっていくボールパーク

エスコンフィールドがさらに面白いのは、そこが「一つの街」になっていることだ。

そもそもここは開発されるとき、それまでの町名が変更され「Fヴィレッジ」という新しい名前になった。ボールパークは都市開発にもなりつつある。

実際、球場の外に出てみると、そこは人口の池などがあり、その周りにはショッピングモールをはじめとして、KUBOTAの農業体験施設やマンションなどがある。その姿は、まだ不完全ながらも、確かに「一つの街」の輪郭を持ち始めている。

ボールパークの「街」化は、どんどんと進んでいる。例えば、今年の10月に誕生した「長崎スタジアムシティ」。サッカーチーム、V・ファーレン長崎のホームスタジアムであるだけでなく、ショッピング施設やホテル、さらには学習塾のような日常生活に必要な設備までが揃っている。また、長崎大学のキャンパスも中には入っており、エスコンフィールドよりも、より「街」としての機能が拡充されている。

ちなみにアメリカのディズニー社は現在、「コティーノ」と呼ばれるディズニーの世界を体現したかのような住宅街の販売を始めつつある。ある一つの「テーマ」に沿って、それを体感できる場所を作っていくテーマパークの究極系は「一つの街を作ること」である。

その意味では、ボールパークというテーマパークも、「一つの街」を日本各地で作り始めているのかもしれない。

<TEXT/谷頭和希>

【谷頭和希】

ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)