5:上流階級の女性たちも生活の不安を抱えていた
うみの丘デザイン / PIXTA
――わが身はただ一ところの御もてなしに
人には劣らねど、あまり年つもりなば、
その御心ばへもつひにおとろへなむ
(「若菜下」より)
――自分(紫の上)はただ、夫の六条の院のご待遇こそ
人には劣らないものの、あまり年をとり過ぎれば、
そのお気持ちもしまいには衰えるだろう
そして、最後のキーワードは「経済不安」です。
『源氏』はあらゆる階層のリアルな暮らしぶりを描き出します。例えば貧乏貴族の家では老いた女房(使用人)しか残りません。若手は転職できるけれど、年配者に再就職は難しいという現実です。
ヒロインの紫の上ですら将来に不安を抱えていました。他の妻たち――明石の君は身分は低いが財産は潤沢。女三の宮(おんなさんのみや)は身分も財産もハイレベル。
でも母方の後ろ盾のない紫の上には頼れる実家も子どももいない。二条院という家はありますが、それも夫からもらったもの。収入のない女性の生きづらさがしのばれます。
そんな彼女の願いは出家でしたが、夫に許されぬまま、彼女は息絶えるのです。
取材・文=岡島文乃(ハルメク編集部)
原文はすべて『新編 日本古典文学全集』(小学館刊)より
訳文はすべて『大塚ひかり全訳 源氏物語』(ちくま文庫)より
※この記事は、雑誌「ハルメク」2024年4月号を再編集しています。