早期退職してタイに移住した57歳男性の後悔「国内で移住先を探したほうがよかったかな」

 以前から日本人の間で旅行先として人気のタイ。近年は物価が上昇しているが、欧米圏に比べればまだまだ安く、インフラ環境も決して悪くない。そのため、移住者や長期滞在の日本人が多いことでも有名だ。

 複数回の短期滞在を経て、23年末から本格的にタイ移住生活を始めた鈴田英彦さん(仮名・57歳)もそのひとり。すでに1億円以上の資産に加え、所有している複数のマンションから家賃収入を得ていた彼は、独身だったこともあって以前から早期退職によるリタイア生活を考えていたそうだ。

◆飲み屋で仲良くなった日本人と連絡先を交換したが……

「最初はバンコクに住んでいましたが、途中でそこから100㎞ほど離れたシラチャーという港町に引っ越しました。近くに大規模な日系工業団地がある関係で日本人が多く住んでおり、街にはたくさんの日本食レストランのほか、イオンやマックスバリューといった日系スーパーもある。

 郊外にはゴルフ場が何か所も存在し、ビーチリゾートで有名なパタヤも車で30分と近い。のんびり過ごすには最適の場所だと思いました」

 鈴田さん自身は1人で過ごすのが好きなタイプだが、人並み程度の社交性は持ち合わせている。現地には日本人が集まる居酒屋やスナックも多く、お店に居合わせた人に声をかけられ、一緒に飲むことも。

 半年ほど前に居酒屋で声をかけてきたひと回り年下のKという人物ともその場限りの付き合いで終わるはずだったが、その2日後に現地のショッピングモールで偶然再会。その縁で連絡先を交換し、一緒に食事や飲みに行くようになったという。

 会話の内容も最初こそ世間話や移住生活などの他愛のない内容だったが、次第に資産運用などのお金に関する話に。それでも当たり障りのない回答に終始していたが、Kからはある事業への出資をしきりと勧められるようになる。

◆勧誘のため同じサービスアパートメントに引っ越してきた

「投資をしている移住者は多いため、そっち系の話になることもあります。でも、出資を持ちかけてきた時点で直観的に怪しいと感じました。

 しかも、その金額というのも200万バーツ(約880万円)以上ですからね。日本人が同じ日本人相手に投資詐欺を働くことがあるという話を聞いていましたし、Kさんの話自体がとにかく胡散臭く感じました。

 出資先はバイオ関連のベンチャーとのことでしたが、『リターンは大きい』とか調子のいいことしか言わなかったため、興味がないという態度を終始取ることにしたんです」

 だが、獲物としてロックオンされてしまったのか、なんとKは同じサービスアパートメントに引っ越してくる。数日程度の短期滞在だったが、まさかの行動に警戒レベルが一気に引き上げられたのは言うまでもない。

◆しつこい勧誘行為にウンザリしてバンコクへ

「私の部屋に来たがっていましたがそれはやんわりと断り、1階のロビーで話をするようにしましたが、相変わらず出資の話ばかり。しかも、簡単に諦めないんですよ。興味があるように振舞ったつもりはなかったのに粘着質というか、あれには困りました」

 しかも、半ば強引に会食をセッティングされ、Kの友人という鈴田さんと同年代くらいの男性と3人で飲むハメになったことも。ここでも2人して出資を勧めてきたため、いい加減頭に来て改めてハッキリと断り、途中で席を立って帰ってきたそうだ。

「その後も電話やLINEが何度かありましたが、すべて無視。それで本当に脈無しだと諦めてくれたのか連絡は来なくなりました。ただ、ああいう連中に住まいを知られていることに不安を覚えたため、今は再びバンコクに戻りました」

◆東南アジアでは日本人が日本人をダマす詐欺被害が横行

 ところが、バンコクでも現地で知り合った移住者仲間にコンドミニアムの購入をしきりに勧められてしまう。

「相手はネットを通じて知り合った長期滞在者のゴルフ仲間です。ラウンドの後は飲みに行くのですが、そこであるコンドミニアムの購入をしきりに勧められました。断ったら諦めてくれましたが、そういう方と付き合いを続けるのは嫌なので今は連絡を絶っています」

 そのため、最近は現地在住の日本人とあまり関わらないようにしているとか。

「駐在員の方はちゃんとした人が多いですが、長期滞在のリタイア生活者には怪しい人が多すぎる。明らかにカタギとは思えない方もチラホラ見かけますしね。これなら沖縄とか国内で移住先を探したほうがよかったかなとちょっと後悔しています」

 実は、東南アジアでは以前から日本人が日本人をダマすという詐欺が横行。異国だと同じ日本人というだけで警戒心を解いてしまいがちだが、そんな彼らを狙っている詐欺犯が多いということを覚えておいたほうがよさそうだ。

<TEXT/トシタカマサ>

【トシタカマサ】

ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。