「こんなの子供が乗れない」と販売を断られたことも…400万人の子供に愛される“幼児用二輪車”が日本に浸透したワケ

 近年、子どもたちの間で人気のある乗り物がランニングバイクだ。ペダルがなく、足で蹴って進むのが特徴であり、子どもは遊び感覚でバランス感覚や体の使い方を自然に身につけることができる。こうしたなか、ランニングバイクの中でも特に知名度が高いのが、世界25か国、400万人以上の子どもたちに愛されている「ストライダー(STRIDER)」だ。

 日本では、2009年よりストライダージャパンが販売を開始。今では1300店舗以上の正規販売店を構えるほか、全国各地でレース大会や試乗会などのイベントも盛んに行われている。

 アメリカ発のストライダーをどのように日本へ浸透させ、ファンを作ってきたのか。ストライダージャパンを運営する株式会社Ampus代表取締役の岡島和嗣さんに話を聞いた。

◆「まだ2歳の子どもが二輪車に乗れるなんて」

「まさかまだ2歳の子どもが、二輪車に乗れるとは思っていなかった」

 そう語る岡島さんは、初めてストライダーをアメリカ現地から購入した時の感動が今でも忘れられないという。

「当時、私の長男が2歳だった時に『これで二輪車に乗れる』という触れ込みのストライダーをアメリカから個人輸入して購入しました。初めは本当に半信半疑だったものの。1週間くらいで長男が両足を離し、バランスを取りながら二輪車に乗れるようになったんです。それまでは、三輪車にもろくに乗れない状態だったのに、ストライダーは簡単に乗りこなせるようになったのは、すごく衝撃的だったのを覚えています」

 なぜ、すぐに自転車に乗れるようになったのだろうか。「補助輪付き三輪車に乗せるから、自転車に乗れるまで時間がかかる」とし、次のように説明する。

「三輪車(補助輪付きの自転車も含む)と二輪車では、曲がる動作に対しての操作特性が全く正反対になっています。方向転換する際、前者では左に行こうと思ったら、ハンドルを左に切ればいいのですが、二輪車の場合はハンドルを左に切ったら、実は車体が右に曲がっていくんですよ。つまり、ハンドルを切った方向と逆に車体が傾いていくわけです。子どもの感覚としては、今まで乗り慣れていた三輪車のように、左に曲がろうとハンドルを左に切ると逆方向に曲がっていくので、バランスを崩して転げてしまうんです」

◆転機になった“ムラサキスポーツ”での販売

 ストライダーのような補助輪のない二輪車の特性に慣れておけば、いざ自転車に移行しようと思ったときも、“ペダルで進むか、足で進むか”の違いだけなので、そこまで苦労せずに乗りこなせるようになるという。岡島さんの経営する会社では、アメリカン・コミックス(アメコミ)のキャラクターフィギュアの企画・販売を手がけており、「ストライダーの日本総代理店をやってみたら面白いのでは」という思いから、2009年にストライダージャパンを立ち上げたそうだ。

 最初はネット販売からスタートしたものの、知名度のないストライダーはなかなか購買に結び付かなったという。また、日本で販路を拡大していくためには、実店舗での取り扱いも重要になるため、自転車ショップへのアプローチも試みた。だが、「こんなの子どもが乗れない」という第一印象で断れるケースが多かった。

 転機になったのは、ムラサキスポーツでストライダーの取り扱いが決まった時だった。

「ムラサキスポーツさんで働くスタッフの中に、偶然にもストライダーをネットで買われた方がいまして。その方は、私と同じように『2歳児が二輪車に乗れるのはすごい!』という感想を持たれていました。それがきっかけで話が進み、まずはムラサキスポーツさんの数店舗でテスト販売してみたところ、購入者の方からの評判がすごく良くて、全店舗の導入につながったんです」

◆年間50回以上のイベントにこだわる理由

 その後、口コミで徐々に広がっていき、現在では多くの正規販売店で販売されるように。日本国内では本家アメリカに次ぐ2番目の市場として成長し、子ども用ランニングバイクとしての地位を確立していった。

 加えて、ストライダー関連のイベントもブランド認知やファンの醸成に大きく寄与した。2010年から取り組み始めたイベントは、最初は体育館で開催されていた自転車イベントの一角を借り、30名ほどの小さな規模からスタート。

 その後、エントリー数が増えていくのにつれて、イベントの規模感も次第に大きくなっていく。今年でストライダー日本上陸15周年を迎えるが、週末は何かしらのイベントを開催しており、試乗会やレース、ファンイベントを含めると、その数は年間100回を超える。イベントにこだわる理由について、岡島さんは「イベントでしか味わえない体験価値や届けられない感動がある」と述べる。

「当初は、2歳の幼児が競い合うレースなんて成立しないと思っていました。ですが、試しにやってみたところ、ちゃんと成立したばかりか、子どもたちの達成感に満ちた表情や悔し涙にすごく感銘を受けたんです。それ以来、イベントにも注力するようになって、2010年からは『ストライダーカップ』と銘打って本格的にレースイベントを主催するようになりました。最近ではレース以外にも、子育て世代同士が集まって交流できるストライダーキャンプやストライダー どろん子フェスといったファン向けのコミュニティイベントも開催していますね」

◆レースイベントが家族旅行のきっかけに

 イベント自体は、参加者からのエントリーフィーのみが収益となるため、正直に言って採算が取れるわけではない。それでも、ブランド力の向上やストライダーの認知度アップにつながるからこそ、イベントの継続性を見出せるわけだ。さらに、ストライダーのイベントがあることで、それが家族で週末に出かける良いきっかけにもなっているという。

「なかには、旅行を絡めて各地に遠征しながらレースイベントに参加する家族もいたりと、イベントはストライダーにとって欠かせない『ひとつのコンテンツ』になっているんです。なかでも思い出深かったのは、2011年に群馬県のみなかみで開催した『ストライダーカップ2011 第3戦 群馬みなかみラウンド』ですね。前日に大雨が降って、会場へ行く道が土砂崩れでて通れなくなるなど、トラブルが発生したんですが、イベント当日はほとんどキャンセルがなく無事に開催できて、雨が降る中子どもたちが本当に楽しそうに走ってくれたのが印象的でした」

◆事故のリスクはゼロにできない

 一方、令和元年の消費者庁の発表によれば、ペダルなし二輪遊具に関する7歳以下の事故情報が平成22年12月から平成30年度末までに106件寄せられた。発生場所別では、一般道路が半数近く、公園内も含め坂道で発生している割合も5割以上。さらにブレーキもついていないため、「危ない」という声もSNS上に多く上がっている。

 ストライダーの安全な乗り方やストライダーを楽しむ環境作りについて、岡島さんは「二輪車である以上、転倒は避けられず怪我のリスクはゼロにできない」と状況を認めたうえで「ストライダーは子どもの冒険心や好奇心を満たす自由な乗り物です。だからこそ大人が守るべきルールが重要になってきます。公道を走らせない、ヘルメットを着用させる、保護者が監督する。この3つを怠らなければ重大な事故を防ぐことはできると考えています」と話す。

 今後の展望に据えているのが、「ストライダーがきっかけで、オリンピック選手として活躍する子どもを輩出したい」だと岡島さんは話す。ストライダーで培ったバランス力を生かし、プロライダーを目指してBMXを始めるなど、“ストライダー卒業生”から他のスポーツに励む子どももいるそうだ。

 ストライダーをきっかけに、子育て世代がつながり、コミュニティとして盛り上げていく。さらには、世界に羽ばたくアスリートを生み出すのを目標に置き、楽しいイベントや体験を企画していくという。ストライダージャパンのさらなる発展に期待したい。

<取材・文・撮影(イベント、人物)/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている