終盤を迎えている秋ドラマでは、壮大なスケールのロケと豪華俳優陣で圧倒する『海に眠るダイヤモンド』(TBS系、日曜午後9時~)や『Doctor-X 外科医・大門未知子』シリーズの中園ミホ氏が脚本を務める『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系、木曜午後9時~)などが比較的高い視聴率と話題性をキープしているが、他の作品はいまいち苦戦を強いられている。
そんな低迷している秋ドラマの中で、業界で働くテレビドラマ関係者たちが「期待外れだった」と酷評している作品は何なのか? また「演技がいまいち」「役に合っていない」と感じた俳優は誰なのか? 率直な意見を語ってもらった。
◆期待を大きく裏切って撃沈した『民王R』
まず、キー局でドラマ制作に携わっていた50代の元ドラマプロデューサー・A氏に話を聞いた。
「筆頭は『民王R』(テレビ朝日系、火曜午後9時~)でしょうね。初回こそ平均世帯視聴率7.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調でしたが、2話以降にガタ落ち。その大きな理由は、前作との違いだと思います。
前作は遠藤憲一さん演じる総理大臣・泰山と菅田将暉さん演じる息子の心が入れ替わるという設定でしたが、今回は各話ごとに市民と入れ替わる設定に変更。
さまざまな時事問題を斬っていくストーリー構造は面白いですが、継続して見たいと思わせる惹きの要素が欠落してしまった印象です。
深夜から早い時間帯の放送になった割に出演者のネームバリューが弱くなったのも大きく、良くも悪くも遠藤さんの多彩な演技力だけが目立つドラマになっていますね」
◆二番煎じの作風で冷めてしまった『若草物語』
また、A氏はもう一作、期待外れだった秋ドラマを挙げた。
「若手の実力派女優がそろうので期待していましたが『若草物語 -恋する姉妹と恋せぬ私-』(日本テレビ系、日曜午後10時30分~)にはガッカリさせられました。
女性の結婚観や仕事への向き合い方を描くドラマは頻発しており、そういった作品の二番煎じに過ぎなかった。長濱ねるさん演じる三女の失踪をミステリーっぽく入れていたのも苦肉の策といった印象。
原案となった『若草物語』との共通点やオマージュはあるものの、わざわざ拝借する必要があったのかも疑問です。展開が読めてしまい、冷めてしまう部分も多い一作でした」
◆ボクシングをテーマにした『あのクズを殴ってやりたいんだ』
次に、制作会社に勤務する30代の女性プロデューサー・B氏にも聞いた。
「『あのクズを殴ってやりたいんだ』(TBS系、火曜午後10時~)ですね。働く女性をターゲットにしたラブコメ枠で有名ですが、さすがに毎回同じようなフォーマットで飽きてきたのが本音。
今回は奈緒さん演じる婚約者に逃げられた女性が玉森裕太さん演じるクズ男との出会いをきっかけに、ボクシングに熱中していくというストーリー。
“ボクシング”という新しい設定が加わっているものの、ボクシングである必要性があったのかと疑問が残りました。
確かにリングシーンに力を入れているのは良い演出だと思いましたが、肝心のラブコメ部分には共感性や新しい切り口がなく、王道というよりベタ。
脇を固める岡崎紗絵さんや玉井詩織(ももいろクローバーZ)さんの演技やキャラクターがよいだけに残念な一作でした」
ラブコメにスポ根の要素を掛け合わせて新しさを狙ったが、視聴者や業界人の心も掴めなかったようだ。
◆兄を頼る妹役が板に付いていない
そんなB氏に秋ドラマに出演する演技力に難ありと感じた俳優を聞いてみた。
「『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系、土曜午後10時~)でダブル主演の一角を任されている八木莉可子さんですね。
『舞いあがれ!』(NHK)ではイヤミな恋敵を好演しており評価していましたが、兄を頼る妹を演じる本作ではおどおどした口調やキャラクターが板に付いていない。
漫画的な演出やセリフも合っておらず、本人というよりもキャスティングに問題がある気もします。ヒューマンドラマに出て地道に知名度を付けていったほうがよいのでは……」
◆原作の力に及ばなかった『その着せ替え人形は恋をする』
最後に、若者向けのラブストーリーを得意とする20代の女性脚本家・C氏にも「期待外れだった秋ドラマ」を聞いた。
「漫画原作の『その着せ替え人形は恋をする』(TBS系、火曜午後24時59分~)ですね。
原作やアニメで見られた二人の絶妙なドキドキする距離感やテンポの良いコミカルな会話がそぎ落とされていて、ラブストーリーに重きを置いたせいで、原作の持つ面白さが活かされていないと感じました。
コスチュームもチープで、実写ならではの見せ場もない。原作ファンからすると、期待外れ度が強いドラマかもしれません」
◆経験不足が際立った?
演技力に難ありと感じた俳優については、「『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ系、水曜深夜24時24分~)で主演を務める莉子さん。
初恋相手が同級生と結婚し、突き進めば不倫になることに葛藤する主人公役ですが、どのシーンもセリフのトーンや表情が似ており、緊迫感や心の機微が伝わってこない。
彼女のチャーミングな魅力は発揮されていましたが、主役としては経験不足と言わざるを得ないと思います」
C氏は“Z世代のカリスマ”で華もある存在の莉子に期待しているだけに、本作の役柄はまだ早すぎたのでは……とキャリアを案じていた。
◆評判の高い作品も目立った秋ドラマ
もちろん、今回の評価だけでドラマの良し悪しを断ずるものではない。が、シビアな目線で作品をチェックしているドラマ制作関係者による、忌憚のない意見をストレートに語ってもらった形だ。一方で、冒頭にあげた高視聴率作品以外に、評価の高い秋ドラマもある。
近年、ドラマの評価が高い『3000万』(NHK、土曜午後10時~)、『宙わたる教室』(NHK、火曜午後9時~)といったNHK作品や、趣里の魅力的な演技が光る『モンスター』(フジテレビ系、月曜午後10時~)は、視聴率以上にドラマファンや業界人の支持を得ている。
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ライター/木田トウセイ
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。