「投資だけでFIREすることは可能」「FIREをすれば、お金の悩みから解放される」……FIREにはこういったイメージがあるでしょう。しかし、本当にそうなのでしょうか? 本記事では29歳でFIREを達成したヒトデ氏の新刊『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)より一部を抜粋し、夢の早期退職を実現させたのに眠れぬ夜を過ごす状態に陥ってしまった38歳会社員男性のエピソードを通じて、「投資だけではFIREできない理由」についてご紹介します。
〈登場人物〉
・佐藤智也…FIREしたいと願う25歳会社員。不思議なネコ小鉄を拾った。
・小鉄…1万回生きたネコ。人間の言葉を話す。これまでの猫生で見てきた飼い主たちのFIREの成功と失敗の記録を共有できる。今回は過去の飼い主である伊藤真司(38歳)の記録を智也に共有。
・伊藤真司…小鉄の元飼い主。
FIRE失敗パターン:伊藤真司(38歳)男性
資産5,000万円、夢のFIRE生活がスタートしたはずだったが…
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ついに、夢のFIRE生活がスタートした。 決して贅沢ができるわけではないけれど、自由な日々。好きな時間に寝て、好きな時間に起きて、好きなことをする。これぞ、僕の求めていた生活だった。
こんな毎日がいつまでも続くと、そのときはそう思っていたのに……。
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「いや、不穏な始まりすぎるでしょ」どう考えてもハッピーエンドにならない始まり方に、思わず突っ込んだ。
「真司さんは、FIREを夢見て積極的に投資を行い、資産が5,000万円に達した38歳のときにFIREを実行に移しました」
「それはすごい」
「でもそこは本題ではありませんので、楽しいFIRE生活の部分はスキップして、問題の部分をご覧ください」
目の前の情景が早送りされていく──。
「FIREをすればお金から解放される」ってホント?
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最高のFIRE生活。その暮らしもそう長くは続かなかった。FIRE開始から1年後、株式市場が大暴落したのだ。
リーマンショック程ではないが、数ヶ月のうちに自分の持っている資産は約20%も目減りした。もちろん、暴落したからって全てが終わりじゃないなんてことは、僕だってわかっている。サラリーマンの友人たちは、「むしろ今月の積み立てでたくさん買えてラッキー」と言っていた。
俺だって、資産形成中だったらそんなふうに思ったさ。でも、今は違う。配当金で生活している自分にとって、元本が減るのは大きなダメージだった。いずれ株価が戻ってくれれば生活も元に戻せるが、それまでは今まで以上の節約が余儀なくされる。
一刻も早く戻って安心させてほしい。しばらく株価が好調の日が続いたものの、再び大きな暴落があった。結局25%のマイナスだ。
もし、こんな調子でいつまで経っても復活しなかったら……?
段々と、眠れない日が増えた。先のことを思うと不安で、なかなか寝付けない。よせばいいのに、眠れない夜は布団の中で証券会社のアプリを起動して、動向を追ってしまう。そんなことをしても、意味がないのはわかっているのに。
FIREをすれば、お金から解放されて、もうお金のことなんて気にしない生活ができると思っていた。でも、それは大きな間違いだということが、ようやくわかった。
だって、FIREは「資産運用」だけが収入の柱になる。つまり、「お金に稼いでもらうことでしかお金を得られない」ライフスタイルだ。それなのに、お金を気にせず生活することなんて、できるはずがなかった。
好調なときは全然気にしていなかったけれど、不調になると気にせずにはいられない。今、誰よりもお金に縛られているのは自分自身だった。
それからしばらく、不安で眠れない夜が続いた……。
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投資だけではFIREできない理由
「悪夢だ……」
床から起き上がれないまま思わずつぶやいた。小鉄が顔を覗き込んでくる。ひげがあたってくすぐったい。
「ギリギリの資産でのFIREは、このように精神的に厳しいものがありますね。他にも結婚して子供ができたりとか、ライフイベントによって大きく出費が変わるケースがあります」
「未来の予測を正確になんてできないものね……」
「もちろん何年も暴落がおきずに、順調にそのまま資産が増えていくケースもあります。しかし、こればかりは神のみぞ知るといったところです」
この発言に、日々勉強している僕は反論したくなった。なぜなら暴落は恐れるものではないと、動画でよく聞いていたからだ。
「でもさ、いつまでも暴落が続く可能性は低いって聞いたよ? この人もそれを知っていれば、じっくり待てたんじゃないかな?」
「確かに、過去に実際にあった事例だと2000年のITバブル崩壊と2001年の同時多発テロの時は45%減少し、6年で回復。2007年の世界金融危機・リーマンショック時は50%減少し、5年で回復しました。ざっくりピーク時より20%以上下落した場合、回復までに要する平均期間が5年と言われています」
「そうだよね! それなら、別に焦らなくてもよかったんじゃないかな? いずれ高確率で回復するんだし」
「それは、こうして後から振り返っているから思えることです。あくまで〝今までそうだった〟という話でしかありません。実際に資産が復活するかなんてわからないし、もしするとしても、それは10年後かもしれません。そんな状態で、ケロッとしていられる方が珍しいです」
確かに、当事者になったら気が気でないかもしれない。しかも、実際に資産が減ってる間はそこから得られる配当金や取り崩す金額も減るわけで、その分生活も窮屈になる。ギリギリで想定していたならなおさらそうだ。
「実際、真司さんもこの状況に耐えかねて結局アルバイトをはじめ、その後再就職をしました。結果的に1年間のFIRE生活がいいリフレッシュになったのと、定期的な収入があるありがたさが身にしみていて、FIRE前よりも楽しく働けているようです」
「それは良かった……のかな? まあでも、真司さんはもっと慎重になればよかったのにね。暴落を想定して、もっと資産を貯めてからFIREするとかさ」
「ここが、非常に難しいところなのです。早くFIREをしてもその生活がダメになってしまっては意味がない。かといって盤石を求めると時間がかかりすぎてしまう。これが〝投資だけではFIREできない〟一番の理由です」
株式会社HF 代表取締役
ヒトデ
※本記事は『1万回生きたネコが教えてくれた 幸せなFIRE』(徳間書店)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。