指示した仕事はコツコツこなすも、それ以上がない。会議では黙っている。自発的な行動をしない。……コミュニケーション下手の部下を持ち、手を焼く上司もいるでしょう。本記事では、小川隆弘、氏の著書『成果が出る1on1 部下が自律する5つのルール』(ごきげんビジネス出版 ブランディング)から一部を抜粋・再編集し、無口な部下との1on1での対話について、解説します。

1on1の対話…製薬企業の営業所長の事例

下記にあるのは、上司と部下における1on1の1シーンです。部下のAさんは転職して1年目で、ふだんのコミュニケーションでも自分から人に話しかけない極めて口数の少ないタイプ。営業担当のなかでも100人中1人か2人しかいないほど無口な人です。そのような印象がある部下と対話している、といった視点で読み進めてください。

1on1の難易度としては非常に高い部下になります。Aさんは自分からほとんど話さないため、上司が彼に話させようと苦慮しています。なお、例文はテーマに入ってからの対話です。

上司「どう最近? 特約店でもあいさつするようになった?」

部下「あっ、はい、なんとか……」

上司「そうみたいだね」

部下「はい、けっこうふつうに話せていると思います」

上司「……」→上司は部下の次の言葉を待っている

部下「……」

20秒ほどの沈黙

上司「うううんと、まず説明会だね」→上司は話題を変えた

部下「あっ、はい」

上司「今期の目標、何回だったっけ?」

部下「えーっと……」

しばらく沈黙

上司「どう?」

部下「えーっと、あのー、4回でしたっけ?」

上司「おっ、いい線いってるね(笑)! 惜しいねー」→上司はあえて話しやすい雰囲気にしている

部下「すいません」

上司「忘れた? じゃあ、いおうか?」

部下「はい、すいません」

上司「Aさんは5回だよ」

部下「あっ、はい……」

しばしの沈黙

上司「今期は何回できてる?」

部下「えーっと……たしか2回です」

上司「どことどこの医院だっけ?」

部下「えっと、長友医院と吉田医院です」

上司「そうか……今後の見込みはどう?」

部下「久保医院は予約が取れてます」

上司「えっ? いい感じだね。どうやったの?」→成功例を言語化してもらっている

部下「特約店さんの依頼で……特約店のBさんが今月はうちの〇〇製品の対策月ということで……Bさんとお願いしてきました」

上司「よくやったね。すごいね」

部下「いえ……Bさんのおかげです……」

上司「というと?」

部下「……」

上司「久保先生は〇〇製品について詳しく知りたかったってことかな?」

部下「えっ? ……多分そうじゃないかと思います」

上司「う、うん? ……」→上司は部下が話すのを待っている

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話を引き出すためには

20秒ほどの沈黙

部下「あのう……Bさんが久保先生に貸しをつくってたからなのか、久保先生が〇〇製品に興味があったからなのか、よくわからないんです」

上司「ふうん。なるほどね……けっこう冷静に見てるね」→上司は感心した表情

部下「あっ、はい」

上司「……で?」

部下「……先生への貸しと〇〇製品への興味と両方ではないかと……」

上司「うん」

部下「特約店さんの意向もあったと思います」

上司「というと?」

部下「うちの特約店担当者のCさんのおかげかと……特約店の支店長にもお願いされてましたから……」

上司「Aさんは謙虚だね。Cさんの力と〇〇製品の製品力を、この際上手に活用していくのも、きみの力だと思うよ。我が社の営業は日本中どこでも、Cさんのような存在がいるよ。条件は同じ。同期もみんな同じ土俵のなかだよ」→上司はAさんに自信をつけさせようとしている

部下「はい……ありがとうございます……」

上司「Bさんは多くのメーカーや競合製品があるにもかかわらず、Aさんと〇〇製品を選択したってことだよね」

部下「まあ……はい」

上司「Bさんなりの理由があったんじゃないのかなあ?」

部下「……」

20秒ほどの沈黙

上司「まっ、よかったね! 説明会が取れて、どんな気分?」

部下「はい! ……えーっと、あのう、よかったです」

上司「うん」

部下「あのう、説明会の回数は、あと2回ですよね」

上司「あっ、うん」

部下「あのー、いま2軒交渉中です」

上司「いいねえ。がんばってるね!」

部下「いえ、まだお願いしたばかりで、……まだ決まったわけではないので……」

上司「どう今後の見込みは?」

部下「はい、なんとか……あと3か月ありますので、5回できるようにがんばります」

上司「6回やったら、どうなるか覚えてる?」

部下「はい……その項目で行動評価が4点になったと思います」

上司「よく覚えてるね!」

以上、対話シーンを見ていただきました。

あえての「沈黙」

上記の対話で上司はAさんから話を引き出そうと、いろいろと工夫しています。意図的に沈黙し、Aさんから言葉が出るのを待っているのです。同時に定性評価をティーチングしています。

1on1の経験が浅い時期は、上司も沈黙を避けたくなるのがふつうです。しかし一般的には、部下は上司以上に沈黙を避けたいと考えていることでしょう。上司があえて沈黙することで、部下の経験学習や内省がさらに深まる場合もあります。上司に沈黙するスキルが身につくと強力な武器となるのです。まずは沈黙に慣れ、できれば活用しましょう。