成年後見制度とは、認知症などにより判断能力が低下した人に援助者を選任し、財産管理や契約を補助する制度ですが、現状では多くのトラブルが報告されています。例えば、「料金が高い」という理由で後見人が被後見人の引っ越し希望を却下するケースや、後見報酬が不透明なまま高額に設定されている問題が後を絶ちません。本記事では、後見制度の問題に取り組む「後見の杜」代表の宮内康二氏の著書『認知症になっても自分の財産を守る方法 法定後見制度のトラブルに巻き込まれないために! 』(講談社)より、こうした問題の背景と現状、被後見人や家族が抱える苦悩について、具体的なデータや実例を交えながら解説します。
後見期間は平均で5年3ヵ月、報酬総額は661万5,000万円……
「夫が亡くなり、遺産が入ったので子どもの家の近くにできた老人ホームに引っ越したい。しかし、後見人が料金を理由にダメと言って引っ越しできない」という、この手の話はよくあります。
結論から言うと後見人の態度はアウトです。なぜなら、どこに住むかを決める権利は本人のみが持つものであり、後見人がとやかく言える範疇を超えているからです。後見人は、希望に沿って新しい施設との契約を締結し、費用を払い、お世話になった施設の退所手続きを粛々とするほかにないのです。
添付の漫画で、後見人は「料金が高いからダメ」とも言っていますが、その心は、被後見人の預貯金が減ると後見人の報酬も減るからという利己的な都合に過ぎません。
成年後見制度の被害者が集う「後見制度と家族の会」の調査によると、平均して、後見期間は5年3ヵ月、報酬総額は661万5,000万円、月あたり10万5,000円の後見報酬が取られ続けていました。9ヵ月で801万円 (月89万円) 取られたケース(ク)や、44ヵ月(3年8ヵ月)で2,500万円(月56万8,000円)取られたケース(ケ)もありました(添付の表を参照)。
金額の多寡も問題ですが、すべてのケースで、家族や被後見人自身が、後見人の報酬がいくらか聞いても教えてくれなかったそうです。金額を決定している家庭裁判所に報酬額を聞いてもすべて拒否されたとのこと。本人(被後見人)が亡くなるまで、後見人と裁判所以外の誰も、後見人の報酬額を知ることができないのが法定後見制度なのです。
後見人報酬の見直しが国の会議で行われています。利用者の「高い」という声に反し、弁護士会などは「後見人報酬をもっと上げるよう」主張しており、さらなる高騰が懸念されます。
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後見をやめたい家族……吸い続ける後見人
法定後見制度を利用している人の多くが後悔しています。理由は、「家族が後見人になれなかった」「見ず知らずの後見人に虐げられる」「どこに行っても相談にのってもらえず八方ふさがり」などですが、その後にあらわれる症状は、「眠れなくなった」「食事がのどを通らない」「体重減少」「うつ」「誰も信用できなくなった」「こんなことなら死んでしまいたい」など重篤です。見ず知らずの人に財産を管理されるというのはそれほどのストレスになるのです。
海外でも同じような現象が見られます。スイスの報道機関であるSWIによると、後見人をつけられたくないとドイツに逃亡した家族がいます。後見人をつけられ、家族がバラバラにされるくらいなら死んだ方がましと考え、家族に手をかけ、その後刑務所で自死した人もいます。
アメリカの『パーフェクト・ケア』という映画では、裁判所が決めた偽善的後見人が、高齢者たちを「金のなる木」と呼び、暴利をむさぼる様子が描かれています。日本でも、『親のお金は誰のモノ』という映画で後見人問題が取り上げられ、『れむ』(小学館)という漫画では、国が作った成年後見制度が人のつながりを裂いていく様子が赤裸々に描かれています。後見される側からすれば、後見人は一度くらいついたら離れないヒル、すっぽん、吸血鬼にしか見えないのでしょう。
宮内 康二
一般社団法人 後見の杜 代表