2024年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。企業や業界の実態から2024年を振り返る「経済ニュース」部門、第3位の記事はこちら!(集計期間は2024年1月~10月まで。初公開2024年1月20日 記事は取材時の状況、ご注意ください) * * *
化学メーカーで勤務を行う傍ら、経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。
『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社アダストリアの業績について紹介したいと思います。
アダストリアは「GLOBAL WORK」や「niko and …」、「LOWRYS FARM」などのブランドを展開し、アパレル大手として存在感を示してきました。業界ではファーストリテイリング、しまむらに次ぐ3位の規模をほこります。SPA(Speciality store retailer of Private label Apparelの略)、マルチブランド展開を武器に成長してきた同社ですが、近年ではEC強化はもちろんのこと、何故かアパレルとの相性を見出しにくい飲食業態にも進出しているようです。アダストリアの歴史と近年の施策、そして飲食業態進出の狙いについてまとめてみました。
◆紳士服の小売業からマルチブランド展開
株式会社アダストリアは1953年に茨城県水戸市で開業した紳士服の小売店がルーツとします。1973年にはメンズカジュアル分野に進出し、92年からは「LOWRYS FARM(ローリーズファーム)」を通じて女性向け業態にも進出しました。台湾への出店で2003年から海外展開を始め、その翌年には東証一部上場となりました。その後、商品企画や生産体制を内製化し、2010年代からはSPA体制をとります。
2013年には「niko and …(ニコアンド)」、「studio CLIP(スタディオクリップ)」などを展開するトリニティアーツを子会社化して主力ブランドを拡充。その翌年には複数ブランドに分かれていた傘下のECをまとめ、自社EC「.st(ドットエスティ)」の運営を開始しました。
◆アダストリアの主力4ブランドの特徴は?
現社名に変更したのは2015年のことです。直近2023年2月期における全社売上高は2,426億円で、主力4ブランドの特徴と売上高(EC含む)は以下の通りです。同期末時点でアパレル事業では国内外1,435店舗(内海外は95店舗)を展開しています。
グローバルワーク:456億円、20~30代の男女がターゲット、シンプルさが特徴。
ニコアンド:298億円、25~35歳の男女がターゲット、シンプルだがややラフな印象。
ローリーズファーム:214億円、20~30代の女性がメイン層、質素かつシンプルさが特徴。
スタディオクリップ:203億円、30~40代の女性がメイン層、大人の女性をイメージし他ブランドよりやや高価格帯。
◆主力4ブランドはなぜ高い認知度を得られたのか
アダストリアは2010年代に大きく成長しました。2011年2月期に売上高が1,000億円を超え、14年2月期には1,500億円を突破し16年2月期には2,000億円を超えました。トリニティアーツを買収したように、同社はM&Aや自社開発によって複数のブランドを展開するマルチブランド戦略を基本としており、これが武器の一つです。
例えば2010/2期と2020/2期におけるローリーズファームの売上高(国内)はそれぞれ251億円/237億円と減少していますが、この間に他ブランドは拡大しており、全社としては成長し続けました。少数のブランドに特化していれば早々と衰退していたかもしれません。2024年1月現在では30以上のブランドを展開しています。
また、ユニクロのように商品企画や生産、物流や小売まで自社で管理するSPA体制も強みとしています。同社は以前まで企画や生産を他社に外注していましたが、2010年代からは内製化を進め、著しく成長しました。
SPA体制のメリットは小売業を通じて得られる消費者のトレンドを商品企画に迅速に反映できる点にあり、主力4ブランドが高い認知度を得るようになったのも優れた商品開発力が背景にあると考えられます。ただし売上高に対して営業利益は伸び悩んでいるため、SPA本来の強みであるコストコントロール力は十分に発揮できていないようです。
◆2020年代から軟調の兆し。その理由は?
2010年代に著しい成長を遂げたとはいえ、その後は軟調の兆しが見え始めました。2018年2月期に売上高が2,200億円を超えてから横ばいとなり、コロナ禍が追い打ちをかけた形です。2019年2月期から23年2月期までの業績は次の通り推移しています。
【株式会社アダストリア(2019年2月期~2023年2月期)】
売上高:2,227億円→2,224億円→1,839億円→2,016億円→2,426億円
営業利益:71.9億円→128.9億円→7.7億円→65.6億円→115.2億円
国内外店舗数:1,427店→1,392店→1,400店→1,428店→1,509店
成長が止まった主な要因は主力とする国内店舗の売上が伸び悩んでしまったことにあります。国内のアパレル市場全体が既に頭打ちとなっているなか、アダストリアが展開する主力ブランドも駅前商業施設やイオンモールなど至るところで見かけるようになりました。
これ以上出店の余地が見込めず、成長が止まったと考えられます。ちなみに23年2月期はコロナ禍以前を上回っていますが、EC事業の好調のほか、株式会社ゼットン買収による飲食事業への参入(後述)が主な増収要因です。
◆「飲食事業参入」は公園立地が狙い?
今後の方針について見ていきましょう。アダストリアは2024年2月期について、リベンジ消費のほかEC事業の好調もあり売上高は2,700億円を見込んでいます。そして今後は中期経営計画に従い、従来通りのマルチブランド戦略の継続やテレビCMを通じたEC事業の強化を進め、国内外で規模を拡大させるとしています。
しかし、特に気になる施策は飲食事業の強化です。前記の通りアダストリアは2022年2月に飲食事業を手がけるゼットンを買収しました。ゼットンはハワイアンレストラン「アロハテーブル」のほか、公園再生事業の一環で公園内のカフェやBBQ場などを運営しています。
文字通り店舗数を増やして飲食事業を強化することも考えられますが、アダストリアはゼットンが有する行政とのつながりや公園事業を狙ったと筆者は考えています。アパレル事業で国内店舗が伸び悩むなか、新たな打開策として公園立地への出店が進められるかもしれません。シンプルさを特徴とする同社のブランドと公園のイメージは決して遠くない印象があります。新たなシナジーが生まれるかもしれません。
<TEXT/山口伸>
【山口伸】
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。 Twitter:@shin_yamaguchi_