「残業代242万円の支払い」を求める訴えを起こすも、敗訴した教師に聞いた“定額働かせ放題”の酷すぎる実態

 教員不足が叫ばれる昨今だが、学校現場では「教師の自腹」という問題も深刻化している。多忙な日々のなかで自らの財布を開き、授業や部活で足りないものを補う先生たちを直撃。一般企業では考えられない、教師の世界が抱える独特の金銭問題とは?

◆“定額働かせ放題”が高額自腹を生む!

「教師の一番の自腹は残業代」。そう語るのは、埼玉県の元公立小学校教員・田中まさおさん(仮名・65歳)だ。

 後輩の教員が次々と過労や心の病で現場を去っていく現状を変えようと、’18年9月に約242万円(11か月分)の残業代支払いを埼玉県に求める訴えを起こした。

「私が教職に就いた頃は、いくら残業したり自腹を切ったりしても不満には思いませんでしたし、そういう感覚さえなかった。日々、子供たちに教えられるのに幸せを感じていました。ところが近年、校長や教育委員会の権限が強まると、細かなルールで教師の自由は奪われ、絶えず上から降ってくる仕事に忙殺されるようになりました。今の先生は朝7時から夜9時まで働くのが常態化しているんです」

◆実態と乖離した制度に義憤がひろがる

 昨今、話題となっている教員の“定額働かせ放題”の背景には、1971年に制定された教職員給与特措法(給特法)がある。月給の4%分を調整額として上乗せする代わりに残業代は支払われない。

「この4%の根拠は、当時、先生の残業時間が月8時間程度だったからです。現在の労働環境とは大きくかけ離れています。

 しかし、裁判ではドリルや小テストの採点、保護者対応など多くの業務は『自発的行為』で、労働にあたらないとされました。一部、残業代が認められたものの、別の先生が授業を担当する音楽、書写などの“空き時間にできたはずだ”と相殺され、結局、残業代は1円も支払われずじまい。

 多くの国立や私立の先生には残業代は支払われますから、おかしな判決としか言いようがありません」

 ’23年、最高裁は上告の訴えを退けた。しかし5年に及ぶ闘いによって、全国の教員に問題意識が広がり、田中さんは現在、集団訴訟を準備中だ。

「給特法が廃止されない限り、“定額働かせ放題”はなくなりません。優秀な学生が教職を敬遠する傾向が続けば、子供たちや保護者にとっても不幸。これが最後の大仕事です」

 “教師のバトン”を繋いでいけるのは、山積した課題に立ち向かう現場の先生だけだ。

取材・文/週刊SPA!編集部

―[[教師の自腹]残酷な現場ルポ]―