在宅診療医の野末睦氏は、終末期医療を行う在宅診療医として活躍するには、初期研修を終えてすぐに携わることを勧めていません。初期研修を終えて6年程は、他の科で経験を積むのが好ましいと考えています。在宅診療は医師のセカンドキャリア、もしくはサード以降のキャリアとして携わるのが好ましいと考える理由、今後の展望について解説します。

終末期医療には専門的な医療スキルが求められる

医療の専門科目として、患者が小児なら小児科、女性なら婦人科、妊婦なら産婦人科があります。同じように終末期医療もまた、総合診療ではなく専門医療として位置づけられるべきであると考えます。なぜなら専門スキルが必要な医療だからです。

終末期における専門スキルは2種類に大別されます。1つ目は医療スキルです。たとえば、在宅診療における鎮痛剤の使い方や、寝たきりになると引き起こされる褥瘡(じょくそう。別名、床ずれ)の治療。神経難病における治療や腹膜透析の検討判断。その他、食事がとりづらい患者さんに個人宅でどのように食事をとっていただくか、といった摂食嚥下の問題。食事がとれなくなると引き起こされる口の中の乾きや汚れ対する、症例に合わせた口腔ケアの提供等です。どれ1つをとっても、回復期や慢性期の患者さんとは異なる応が求められます。

加えて、リハビリに関する知見が必要となります。倦怠感や疲労感、体を動かせないことによって生じる痛み……といった、痛み止めでは足りない症状に対して適切なリハビリを行うことを緩和リハビリテーションといいます。緩和リハビリテーションは薬よりも効果的な場合があるため、それらの知識に基づいた治療・ケアが欠かせません。

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在宅診療医に求められるコミュニケーションスキル

終末期における専門スキルの2つ目は、患者さんやご家族と接する際のコミュニケーションスキルです。人生の最期に向かって過ごすという場面は極めて濃度が高く、特殊といえます。専門的な知識や経験をもつことが大切です。さらに、死生観や人生の価値観は時代とともに変わりゆくため、アップデートし続ける姿勢が必要です。

この記事を読んで「在宅医療に参入したい」と考えている先生たちは、これまで医療に対して積極的に頑張ってこられた方々でしょう。これまでの経験を存分に活かしてほしいと思うと同時に、終末期医療に携わる在宅診療医として新たに学んでいかなければならないことを理解してほしいと思います。ここを理解することで将来患者さんに提供できることが大きく変わってくるのです。