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●広島市の北西に位置する西日本きっての豪雪地帯・安芸太田町。中国山地の山々が間近に迫る安芸太田町の誇る名所が「三段峡」。自然豊かなこの地で人気のお好み焼き店で、謎のやきそばを味わってきた!


山間ののどかな田園地帯に暖簾をかかげるお好み焼き店『星の郷 あまんど』。好天時の夜には美しい星空が望める

 広島空港から高速道路を走ること約1時間。西日本きっての豪雪地帯として知られる安芸太田町へ到着です。周囲は山々に囲まれ、斜面には田畑が広がっています。近くには棚田の名所も。今回、この安芸太田町にやってきた目的は、地元の名物やきそばを食べること。


『星の郷 あまんど』の外観

 なんでも安芸太田町には、「漬物やきそば」なるご当地グルメが名物のお好み焼き店があるとの噂。周囲はのどかな田園地帯。果たしてこんな場所に店があるのか? と少々心配になってきた矢先に『星の郷 あまんど』と書かれた看板とのぼりを発見しました。これこれ、ここに来たかったんです!

名物女将が焼き上げるお好み焼きと漬物やきそばの味わいとは?


この地でお好み焼きを焼き続けて約30年という、店主の増田初美さん。軽妙なトークも楽しく、地元では知られた名物女将

古民家風の店内の引き戸を開くと「いらっしゃーい!」と元気な声。眼の前には大きな鉄板が設えられ、その前で女将さんがお客さんと会話しながら手際よくお好み焼を焼いています。噂の漬物やきそばを注文しようとすると「お好み焼きも美味しいよ!」とひと言。その勢いと圧に押され、思わずお好み焼きも注文。


本場広島の味が存分に満喫できる「お好み焼き そばorうどん入り」700円

 女将のマシンガントークと見事なコテさばきに見とれているうちに、あっという間にお好み焼が完成しました。「皿は要らんよね」とヘラだけ渡された筆者。慣れない手つきで鉄板上のお好み焼きを切り分けてヘラごと口にします。「ウマっ!」と思わず出たその声に女将がにんまり。


鉄板の上でヘラを使って直接食べるスタイル

 薄い生地の下に焼きそばと野菜がふんだんに入っている、いわゆる広島風お好み焼きで、ソースや青のりの香りが食欲をソソります。あまりの旨さに箸ならぬヘラが止まりませんが、とにかくすごいボリューム。一向にお好み焼きが減る気配はありません。その間にも女将は容赦なく漬物焼きそばを作る準備を始めます。


この日は白菜の浅漬けを使用

 まずは女将がキャベツをはじめとする山盛りの野菜を鉄板に広げ、豚肉やソーセージとともに焼いていきます。さらにやきそばをほぐしながら焼き、野菜や肉と合体。次に鉄板で焼いた白菜の浅漬けを入れ、塩・胡椒、ソースなどの調味料で味付け。並行して焼いておいた目玉焼きをトッピングすれば完成。それにしても、こちらもまた量がハンパありません。


漬物の食感と味わいが絶妙な「漬物やきそば」750円

 目の前で湯気を立てながらドデンと置かれた漬物やきそば、お好み焼きとはソースが違うようで意外なほどあっさりしています。麺の焼き加減も絶妙で、野菜や肉がよく絡んでいます。その中で白菜の浅漬けの食感と風味がキラリと光ります。うーん、旨い!お腹はとうに満腹なハズなのに一気に平らげてしまいました。


目玉焼きを割るとさらにまろやかになって旨い漬物やきそば[食楽web]

 なぜ漬物? と女将に訊いたところ、豪雪地帯である安芸太田町エリアは、かつて冬場に生鮮野菜を入手するのが困難だったため、漬物を作り置きする習慣があったとのこと。ただ冬場は漬物が寒さで凍ってしまうため、焼いて食べていたそうで、それをヒントに地元の方々がご当地焼きそばとして考案したんだそうです。

 ちなみに、この日は白菜の浅漬けでしたが「あまんど」では、大根やカブなど日によって漬物の内容が変わるそう。なるほど、漬物やきそばは雪深い安芸太田町ならではの食文化に根ざしたご当地グルメだったんですね。次に訪れた際は、別の漬物やきそばも試してみたいと思いました。

●SHOP INFO
店名:星の郷 あまんど
住:広島県山県郡安芸太田町上筒賀878
TEL:0826-32-2280
営:11:00~14:00、17:00~19:00
休:月曜

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お腹の保養の次は目の保養へ。「三段峡」の渓谷美に圧倒される


三段峡の正面口。売店や旅館などが並ぶ

 のっけから、女将と漬物やきそばのインパクトにノックダウンされた筆者。満腹になったお腹をさすりつつ15分ほど車を走らせると、三段峡の入口に到着しました。入口には他の観光地同様、お土産店などが軒を連ねています。


全長16kmの三段峡。遊歩道は整備されているが、途中通行止めなどの可能性もあるので事前の確認は必須

 三段峡は全長16kmに及ぶ西日本最大級の渓谷で、太田川の支流である柴木川による長年の侵食から、深い渓谷が形成されています。その渓谷美から国の特別名勝にも指定されているほど。最奥の聖湖口まで遊歩道が整備されていますが、1日で三段峡の全てを巡るのはとても無理。そのスケールに圧倒されつつも、待ち合わせていたガイドの方と合流して、上流を目指しさっそく散策スタートです。


紅葉の見頃は10月後半から11月。見事な渓谷美が楽しめる

 心地よい渓流の音を聞きながら、鬱蒼と茂った木々の間に延びる遊歩道を進みます。訪れた時期がちょうど紅葉シーズン真っ盛りなこともあり、随所にもみじをはじめ紅や黄色に染まった見事な紅葉が目を楽しませてくれます。マイナスイオンのおかげか、空気も実に美味しい!


遊歩道を進むとすぐ現れる巨大な石「狼石」

遊歩道を進むとすぐに、巨大な石が行く手を阻みました。案内を見ると「狼石」との表示が。石の横を通ると不思議にも「サー」っという音が聞こえます。狼の遠吠え? とも聞こえなくもないこの音の正体は、川のせせらぎの反響音。自然のいたずらに感心しつつ、さらに奥へ。

 しばらく歩いていると遊歩道の脇にある少し広めのスペースに目がとまりました。「これは炭焼小屋の跡」だとガイドの方。実は良質な砂鉄が採れるこの地方では、かつて“たたら製鉄”が盛んで、随所に炭焼小屋があったのだとか。こんな山深い場所でも、人々の営みがあったのですね。


支流な谷が折り重なりながら柴木川へと流れ落ちる「姉妹滝」

 この辺りから道幅が狭くなり、アップダウンが少し激しくなってきました。ほどなくして目の前に線を描くようにしなやかに流れ落ちる「姉妹滝」が眼前に。ここは水量により滝の本数が変わるという三段峡の名所の1つ。周囲の紅葉が美しいアクセントとなり実に見事な景観です。


まるで兜のような形状をした「兜石」。その先も洞門となっている庄兵衛岩や夫婦淵など見どころが数多い

 目の前に広がる美しい景観に目を奪われながら歩くこと数十分。少し開けた場所に到着した我々の目に入ってきたのが、渓流の中にドンとたたずむ大きな石。その独特の形状から「兜石」と言われているそうです。周囲には巨大な栃の木が生い茂り、まさに大自然のただ中といった風情。この橡の実を使った「栃餅」もお土産として販売されているとガイドさん。


橡の実をもち米と一緒に蒸した昔ながらの三段峡名物「栃餅」200円

 行く手にはどんな絶景が待ち受けているのか、さらなる期待感を漂わせていたところ、「日も傾いてきたのでそろそろ帰りましょうか」とガイドさんから非情な声が。何とこれまでの行程は三段峡全体のわずか1/10以下とのこと! まだ見ぬ絶景に後ろ髪を引かれつつも、さらなる前進を断念。帰路についたのでした。


SUPやカヤックなどのアクティビティも楽しめる

 無事に三段峡入口付近まで戻ってきたところ、長渕と呼ばれている清流では、SUPを楽しんでいる人の姿が! ガイドさん曰く、三段峡ではさまざまなアクティビティも楽しめるとのこと。峡谷散策にアクティビティ、1日や2日で三段峡の魅力をすべて満喫し尽くすのは難しいことを痛感しつつ、再訪を誓ったのでした。

●DATA
三段峡
https://cs-akiota.or.jp/sandankyo/