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●こだわりの酒屋とそこからお酒を仕入れる飲食店、2つの視点から紐解くお酒、料理の魅力に迫ります
川崎においしいお酒を扱う酒屋があります。蔵元の情熱とこだわりを深く理解し、酒一滴一滴に込められた物語を感じ取る。味と風味を熟知し、来店する地元の人や飲食店の好みに合わせたお酒を提供する酒屋、『地酒や たけくま酒店』。川崎の日本酒を扱う飲食店界隈では有名な、こだわりの酒屋です。
“こだわりの酒屋はおいしいお酒を知っている、おいしい飲食店はこだわりの酒屋からお酒を仕入れているはず”という仮説から『地酒や たけくま酒店』の2号店となる元住吉店店長・佐藤温志さんに相談して実現した、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を発掘する本企画。
第5回は佐藤さんと、東急東横線武蔵小杉駅南口より徒歩7分、ペルー料理『REY peruvian cuisine』からお届けします。
紹介するお酒は日本酒「富久長 海風土 Seafood 純米」(今田酒造本店 広島県)と「東力士 熟露枯(うろこ) 山廃純米」(島崎酒造 栃木県)。
今回のテーマは「ペルー料理と日本酒のペアリング」。ペルーと日本、酒屋と飲食店、そして蔵元が数奇な運命で繋がった、そんな話になりました。
*年末2024/12/30に島崎酒造の店頭販売を元住吉店で行います!年越し酒を是非!筆者は毎年「東力士」で年を越しています。
「東力士店頭販売会」蔵元がご来店 11時~18時頃まで(在庫なくなり次第終了です)
武蔵小杉に誕生したペルー料理レストラン『REY peruvian cuisine』
法政通りに佇む。なんと入り口の扉はシェフのDIYによるもの
『REY peruvian cuisine』はペルーにルーツを持つシェフ・川崎ハルオさんと奥様の留美さんが営むペルー料理レストランです。歴史的にスペイン、アフリカ、中国、日本、ペルーなど、様々な国の食文化が融合し発展したペルー料理。ペルーは「美食の国」として有名です。
“地域と繋がって地域を盛り上げたい”“川崎市や地域の人達と繋がってペルー料理を広めていきたい”という想いでお店をオープンしたのが2023年。シェフはペルーで修行した経験を活かし、本場の味をベースに、川崎市の食材を使いながら日本人にも親しみやすい優しい味わいにアレンジしています。
オープン前、ペルー料理に日本酒を合わせたかったシェフと奥様は地域の酒屋『地酒や たけくま酒店 元住吉店』を訪れ、相談したといいます。結果、「『REY peruvian cuisine』でしか味わえないペアリングを提供する」ことを実現しました。
佐藤さん:まだお店がオープンする前に留美さんが来てくれて、ペルー料理と日本酒を合わせたいとを相談してくれました。正直合わせたこともなかったのですが……これは面白そうだ!と。オープンされてからはペルー料理とはどんなものか、中でもどの料理に合わせたいのかとか、お話を聞きながら、実際に食べながらお酒を提案させていただきました。
馴染みやすい味わいだったので、合う日本酒はあるはずだと。また、お二人は料理を出す時に必ずストーリーを添えてくれます。日本酒も同じようにストーリーがあるので、それも含めて取り入れてくれました。
今回ペアリングするのはペルーを代表する郷土料理「鮮魚のセビチェ」と「海風土」、「牛ハツのアンティクーチョ」と「東力士 熟露枯」。
「海風土」と「セビチェ」のペアリングは、『REY』の日本酒ペアリングの軸となっているとお二人は言います。
「セビチェ」は2023年に、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」は2024年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。これは、無形文化遺産ペアリングといえるのではないでしょうか!?
という訳で、まずは、「鮮魚のセビチェ」から。
セビチェと日本酒「海風土」が紡ぐ物語
「鮮魚のセビチェ」 この日は真鯛、シルクスイート、ペルー産トウモロコシ「チョクロ」、乾燥トウモロコシ「カンチータ」、川崎産「香辛子」、ペルー産の唐辛子
セビチェはペルーの海岸沿いで親しまれている代表的な料理で、白身魚などの魚介類を酸味のある柑橘果汁でマリネしたもの。
『REY』では新鮮な絞り立てのレモンにこだわり、キーライムというフルーティーで酸味の強いメキシカンライムをミックスしながら絶妙なバランスのマリネ液を作り上げています。
最も重要なのは酸味と香草とペルーの唐辛子との調和だといいます。『REY』では酸味をしっかり感じさせながら、最後まで飲み干せるような優しい味わいに仕上げています。おすすめの食べ方はマリネ液も一緒に食べること。食材の旨みも栄養も余す所なく味わえます。マリネ液は、ペルーでは「レチェ・デ・ティグレ(虎のミルク)」として親しまれているそうです。
元々ペルーは100年以上前に日本の移民がたくさん渡っていて、日本の食文化の影響も受けているそうです。セビチェも昔はマリネ液に漬け込んで保存食の要素もあったのだが、日本の刺身の食文化に影響を受け、近年は新鮮な魚の素材を味わうスタイルに変化しているといいます。
『REY peruvian cuisine』と「海風土」との出会い
左から奥様の留美さん、シェフのハルオさん、佐藤さん
奥様:セビチェに日本酒を合わせたいと思っていて、佐藤さんに相談しました。そして、紹介していただいたのが「海風土」だったんです。
ラベルもかわいいし、佐藤さんのお話を聞いたら試したくなって、その日に買って、すぐシェフにセビチェを作ってもらって一緒に飲んだら…。
もう、バッチリだったんですよね。他のと飲み比べてもやっぱり断トツで「海風土」との相性が良かったんです。『REY』の味付けにピッタリだって。
佐藤さん:ここにたどり着くのは早かったですね笑。初めて店にいらした時、他に1点紹介したくらいでもう選んでくれました。味わう前にお酒の造りのこと、女性の蔵元杜氏であることなどの背景が気に入ってくれたようです。
すぐにペアリングしてくれて絶賛の返事もいただいて。オープンされてから僕も実際に合わせてみて、こんなにも調和するのかと驚きました。日本酒の米らしい甘みと白麹由来のクエン酸、セビチェに使われる穀物の甘みと柑橘の酸、それぞれが交互にあらわれて、これは食べてみないとわからないです笑。
セビチェの背景を知るほど「海風土」と重なる部分が多かったのも、何か運命めいたものを感じます。そもそもは現・蔵元杜氏である今田美穂さんが蔵に戻ってから「瀬戸内海の幸に合う日本酒を造りたい」という想いから生まれ、甘みと酸味がバランスよく冷酒で飲んでほしい、特に牡蠣に合わせてほしいというコンセプトのお酒です。蔵のある広島市安芸津町は瀬戸内海に面した土地で、魚介が豊富なペルーの環境とも近いんじゃないかと想像します。海を越えてなお、味わいだけでなく土地の環境が同調してますね。
シェフ:せっかく日本でペルー料理を出すんだったら日本酒とペアリングしようと思った時に出会ったのが「海風土」です。
ほのかな甘味だけじゃなくて、乳酸を感じさせるような、ふんわりとした酸味と香りを持っているのでセビチェも引き立つし、お酒も引き立つ。海産物が持っている強い磯の香りをまろやかに包み込んでくれる、非常にマッチしたお酒だなと思って、めちゃくちゃ気に入っています。
「鮮魚のセビチェ」と「富久長 海風土 Seafood 純米」(今田酒造本店 広島県)をペアリング
真鯛の旨み、もっちりしたお餅のような風味の日本ではジャイアントコーンと呼ばれる「チョクロ」とカリッとした香ばしい風味「カンチータ」が楽しい食感を演出。シルクスイートの甘み、マリネ液の酸味、唐辛子の辛味、様々な味わいがミックスされて複雑なおいしさが口いっぱいに広がる。
そこに、「海風土」を合わせる。「鮮魚のセビチェ」の酸味と旨み、「海風土」の酸味と旨みが交互にやってくるような、不思議なおいしい体験。佐藤さんが「食べてみないとわからないです笑」と言った意味を実感しました。
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アンティクーチョと「東力士 熟露枯(うろこ)」のペアリングが生むおいしい世界
「牛ハツのアンティクーチョ」 下に敷いてあるのはキャッサバ芋のフライ、奥にあるのはアヒ・アマリージョという黄色の唐辛子のソース
「アンティクーチョ(串焼き料理)」は、ペルーのソウルフードとして多くの人に愛されています。このアンティクーチョの起源を辿ると、スペインの侵略時代、奴隷として連れてこられたアフリカ系の人々の創意工夫に行き着きます。
当時、ヨーロッパの上流階級が肉の上等な部位だけを食べる一方、残された内臓部分をどうにか美味しく食べようと考えたのがアフリカ系の人々だったそうです。ペルーの唐辛子やスパイス、そして保存目的のマリネ技術を駆使して生まれたのがアンティクーチョ。その味は、ペルーの食文化に深く根付くと共に、屋台料理として発展し、今ではステーキよりもアンティクーチョの方が美味しい!という人も増えているそうです。
唐辛子と日本酒が織りなすマリアージュ
シェフ:アヒパンカというそれ自体が燻製ですごく力強い味と旨味がある唐辛子があるんです。そこにクミンなどのスパイスを加えて牛ハツを漬け込んで、最後鉄板で焼く料理なんですけど。複雑な、特にスモーキーさとスパイシーさが混ざっている料理なので、それに負けない日本酒はないかと佐藤さんに相談したんです。
佐藤さん:去年の秋でしたね。食材も旨味が濃かったりお酒も熟成して深い味わいになってくるので、季節酒ではありませんが定番の約2年熟成酒「熟露枯」を提案しました。
いくつか熟成酒を留美さんにテイスティングしてもらった中で一番手応えがありました。
加えて「海風土」に負けないインパクトやストーリーをともなうお酒ということで。
肉を焼いた時に褐色づいて香ばしさと旨みが引き出されることと、日本酒が熟成することで飴色になり香りが変わり旨味も増幅することは同じ変化です。焦がした料理と熟露枯は合いますよ。熟露枯は温度変化が楽しいお酒でもあります。
冷酒で酸が立って引き締まり、燗でまろやかになりゆるゆると、緩急のあるお酒です。季節柄、温かい料理に温かいお酒を合わせるのも良いですからね。
シェフ:飲んでみて、アンティクーチョに合わせるならば「熟露枯」で間違いない。古酒なので日本酒というより少しだけブランデーに近くなっていくような味わいを感じました。それに対してちょっと土の香りを混ぜた方が美味しくなるかもと、ひらめいたんです。新しく2種類のごぼうのソースを作って合わせると、それもバッチリでした。
料理にお酒を合わせるだけでなく、お酒からインスピレーションを受けて料理を作ることもあるんですよ。
「牛ハツのアンティクーチョ」と「東力士 熟露枯」のペアリング
ペルーの乾燥唐辛子「アヒパンカ」のスモーキーな風味とコク、複雑なスパイス、そして牛ハツの旨味に、「熟露枯」のほろ苦さと熟成感が絶妙にマッチ。
「アヒ・アマリージョ」という黄色の唐辛子を使って作ったソースを付けるとより奥深い旨みを感じます。
話は「東力士」の蔵元「島崎酒造」の話に
佐藤さん:「熟露枯」を『REY』さんで使っていただいた後に、お二人から蔵見学に行きたいと申し出がありました。ストーリー、臨場感を大事にする方々なのでご紹介したいなと思ったんです。蔵元の島崎健一さんにお話ししたところ快諾していただきました。その時に、2012年にペルー大使館でペルー料理とのペアリングをしたことがあるとおっしゃってて、これまた図らずも親和性のあるペアリングだったんだなと嬉しくなりました。
シェフ:すでにペルー料理とペアリングしていたなんて驚きですよね。また、島崎酒造さんは洞窟で熟成しているんですよね。外国人観光客が知ったら絶対に観光スポットになりますよ。
佐藤さん:もともと戦車工場になるはずだった洞窟ですが、完成前に終戦したんです。長らくほったらかしだったようですが、1999年から島崎酒造が借り入れて日本酒の貯蔵に利用しています。洞窟内は特殊な環境で、昼夜や季節の温度変化がお酒に複雑な効果を生み出すそうです。そのせいなのか、こちらの熟成酒は年数の割に若く感じるんですよ。
シェフ:佐藤さんからは、「熟露枯」を使うなら開栓して1年ほど低温で置いても美味しく変化しますよと教えてもらいました。
佐藤さん:これね、開栓から1年経ってる「熟露枯」です。最初に留美さんがテイスティングした時のものです。
持参した袋からお酒を取り出す佐藤さん。どうやら自家熟成で“勝手に育ったお酒”のようです。
一同:香りが全然違います! 旨味もこっちの方がまろやかにまとまってる…
と話が止まらないので、今回の一杯サービスのお酒を佐藤さんに紹介してもらうことにします。
「東力士 極雫 純米生原酒 FIRST DROP」
佐藤さん:「熟露枯」と同じ島崎酒造のメインブランド、「東力士」のできたての新酒です。もろみを袋に詰めて吊るし、圧縮のストレスをかけず自重で滴り落ちる雫だけを集めた贅沢なお酒です。手間と時間をかけて多くは大吟醸クラスのお酒で見られる手法ですが、島崎酒造は純米酒でもやってしまうんです。フルーティな香りとなめらかでジュワッとした口当たりは「熟露枯」とは真逆のフレッシュさで、蔵の振り幅を楽しんでいただけますよ。
奥様:(ひと口飲んで)これ、きゅうりのソースと合うんじゃないかしら?
料理と合わせてお酒を飲む楽しみを知ってほしいので、お店にはペルー料理に合う日本酒やワイン、ピスコを組み合わせたREYオリジナルペアリングメニューを用意しています。「セビチェ」には「海風土」、「牛ハツのアンティクーチョ」には「熟露枯」など、それぞれにおいしい発見や楽しみ方ができるのも、飲食店ならではだと思うんです。ペルー料理と日本酒をペアリングしているお店はまだ少ないと思いますし。
まとめ
『地酒や たけくま酒店』と『REY peruvian cuisine』のおいしい関係、いかがでしたでしょうか。無形文化遺産のペアリングとなった今回。ご紹介した蔵元、今田酒造本店も島崎酒造も世界に向けた日本酒の発信に力を入れていて、これからまた日本酒を飲む人が増えたり、思いもよらない組み合わせを発見するなど新しい展開を見せてくれると期待せざるを得ません。
引き続き、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を追いかけます。
次回はどんなお酒とどんな飲食店が登場するか?お楽しみに。
*みなさんの好きなお酒の銘柄を教えてください。好きなお酒の思い出、エピソードなどもあると思います。是非、『好きなお酒の銘柄』を下記のフォームにお寄せください。
●『好きなお酒の銘柄』書き込みフォーム
https://forms.gle/ayiCm2vadPRo9A4x9
無くなり次第終了!「極雫 純米生原酒 FIRST DROP」一杯サービス企画
『REY peruvian cuisine』のご協力のもと、お店で「食楽webのinstagram」をフォロー、フォローしている画面を見せると「東力士 極雫 純米生原酒 FIRST DROP」一杯サービス!
無くなり次第終了です!
●SHOP INFO
清潔感のある心地よい店内
REY peruvian cuisine
住:神奈川県川崎市中原区今井南町 19-2
営:12:00〜14:30 (ラストオーダー 13:30)、18:00〜22:30 (ラストオーダー 20:30)
休:ホームページをご覧ください
https://www.instagram.com/reyperuviancuisine/
*営業時間などは店舗SNSなどでご確認ください
●SHOP INFO
地酒や たけくま酒店
本店
住:神奈川県川崎市幸区紺屋町92
TEL:044-522-0022
元住吉店
住:神奈川県川崎市中原区木月3丁目10-17
TEL:044789-5561
(企画・取材◎ヨネダ商店)