京都の店々に密やかに備わる坪庭は、この街に暮らす人々の美意識を象徴するような場所。京都に出かけたら見に行きたい、小さくも美しい庭を紹介します。
癒やしをもたらす引き算の美学。
―アーツ&サイエンス 姉小路京都―
街中でありながら、落ち着いた空気を漂わせる姉小路通。〈アーツ&サイエンス〉が京都で5番目となる店舗を構えたのは、その静かな通りに受け継がれる町家だ。軽やかに改装された母屋と離れを繋ぐ庭は、手を加えすぎず奇を衒てらわず。伸びやかに育った紅葉はそのままに、石を敷き苔や下草を加えて整えられている。
母屋の床材の色調を抑えたのは、奥に控える木々や苔の存在を印象づけるためだという。1階から庭を見れば、その景色は中庭の屋根で切り取られ、木の幹と苔、石だけでミニマルな眺めに。階段をのぼり2階へと移動することで目に映る光景は枝葉へと変化し、新緑や紅葉が季節を伝えてくれる。母屋、離れ、庭の敷石のどこに立っても、庭が正面となるように仕立てたのは、視点が動き続けるゲストへのもてなしだろうか。
刻々と表情を変えて差し込む光と、吹き抜ける風が街中であることを忘れさせる瞬間。日常に寄り添う上質なひとときからは、ブランドと呼応するメッセージが伝わってくるのだ。
2024年4月開業。ホームコレクションや定番の革小物、セレクトしたプロダクトなどが揃う。離れはギャラリー。
『アーツ&サイエンス 姉小路京都』
京都市中京区丸屋町334‒1
11時〜19時
火休
photo : Yoshiko Watanabe illustration : Junichi Koka edit & text : Mako Yamato
&Premium No. 132 Folk Crafts & Art / 暮らしを楽しむ、手仕事と民芸。
地域に根ざした人々の生活のなかで生まれた民芸や、作り手の思いが込められた手仕事の日用品。歴史と伝統のなかで育まれた技術によって作りだされる、美しい暮らしの道具。その魅力をていねいに感じ取り、いまのライフスタイルに上手に取り入れていくことは、これからのBetter Lifeをより心地よく、温かなものにしてくれるのではないでしょうか。来年は柳宗悦らが提唱した「民藝」という言葉が生まれてから100年を迎える節目の年。私たちを取り巻く社会もテクノロジーも大きく変化していくなか、あらためてその心と楽しみについても見つめ直してみたいと思います。
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