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●年間700杯以上を食べ歩く“ラーメン官僚”こと田中一明氏が、日本全国のローカル・ラーメンの最新事情&行く価値のある名店をご紹介します。
徳島県は、東部・南部・西部と大きく3つのエリアに分けられる。県庁所在地は東部にある徳島市。県の総人口(約68万人)の約37%にあたる約25万人が同市に集中。人口規模は徳島県の中では断トツの1位だ。次いで人口が多いのが南部エリアの阿南市(約6.9万人)、その後を、東部エリアの鳴門市(約5.4万人)が追う状況となっている。
エリア別にみると、人気店・有名店の過半は、徳島市、鳴門市など東部の人口集積地に集中。南部や西部に実力店が存在しないわけではないが、その数は必ずしも多くはない
そして徳島県のラーメン事情だが、何と言ってもご当地ラーメン「徳島ラーメン」が有名。徳島ラーメンは、大きく「茶系」「黄系」「白系」の3系統に分けられる。
・「茶系」…濃厚豚骨出汁×甘辛い濃口醤油やたまり醤油
・「黄系」…鶏ガラと香味野菜から採った出汁×薄口醤油
・「白系」…豚骨出汁×薄口醤油や白醤油
徳島ラーメンの人気の火付け役となった『いのたに』をはじめ、『王王軒』、『春陽軒』、『東大』など全国レベルの知名度を有する実力店が提供するラーメンは「茶系」が多い。それゆえ、一般的に徳島ラーメンといえば「甘辛い味わいの豚骨醤油ラーメン」というイメージが先行しがちだが、現地に赴けば、「茶系」以外の実力店も多数存在することが分かる。例えば、「黄系」の『中華そばかわい』、『支那そば よあけ』や「白系」の『岡本中華』などがそれに当たる。
また、ここ数年で、徳島ラーメン以外の「非ご当地ラーメン」を提供する店舗も急増中。特に、鳴門市は、「非ご当地ラーメン」を提供する複数の人気店がしのぎを削り合う、県内有数のラーメン激戦区と化している。
以上を踏まえ、徳島県のラーメン事情をまとめると、以下の3点に要約される。
1.「茶系」「黄系」「白系」の3種類に大別される「徳島ラーメン」が根付いている。
2.近年、「徳島ラーメン」以外のラーメンを出す実力店が増えてきている。
3.有名実力店の多くは東部エリアに集中する。
以下、最近訪問した徳島県のラーメン店の中で、特に印象に残った店舗をご紹介していこう。
いま徳島市で最強に熱い店 『中華そば がっつ』
「中華そば」
まずは、県庁所在地である徳島市から、おススメ店を1軒ご紹介する。それが2022年8月22日にオープンした、『中華そば がっつ』。この店が今、とんでもなく熱い。
店舗の場所は、JR佐古駅の出口から徒歩1分。ほぼ駅前の至便な立地だ。ちなみに佐古駅は、徳島市の鉄道路線の玄関口である徳島駅のすぐ隣の駅。そんな意味合いにおいてもアクセシビリティの高さは申し分のないところだろう。
同店が提供するのは、「中華そば」、「中華そば肉入り」、「味噌ラーメン」、「赤からラーメン」の4種類。
メニューリストに明記されているが、「中華そば」には、徳島ラーメンの定番「豚バラ肉」が盛り付けられ、「中華そば肉入り」には、豚バラ肉でなく「豚バラチャーシュー」が盛り付けられる。
同店のチャーシューは数量に限りがあり、完売次第、豚バラ肉が代わりにトッピングされる。これは店主の修業元『中華そば 美渓(みたに)』の方式を踏襲したもの
つまり、基本の「中華そば」と「同肉入り」とで、トッピングの種類が変わる珍しい仕様であり、複数名で来店するのであれば、「中華そば」と「中華そば肉入り」の双方をオーダーし、食べ較べを楽しむのも一興だと思う。それでも、「どちらか1杯を選べ」と言われれば、徳島ラーメンらしさがより満喫できる「中華そば」を推したい。
さて、同店では、数年前に惜しまれながら閉店した『中華そば 美渓(みたに)』の味を受け継いだ1杯を提供。『美渓』と言えば、徳島東部エリアの内陸にある勝浦町に店舗を構え、月に数日しか店を開けず、かつ、営業時間も極めて短いという凄まじいハードルの高さから、地元の方々でも訪問が困難な“幻の店”と呼ばれていた伝説的名店。
この名店の味が、アクセシビリティ良好な『がっつ』で気軽に堪能できるというのだから、徳島ラーメンシーンが同店の誕生を熱烈に歓迎したのも宜(むべ)なるかなといったところだ。
そんな同店の「中華そば」のスープは、豚骨・鶏ガラ等の動物系素材から採った出汁に、濃厚醤油ダレを合わせた「茶系」。しかしながら、その味わいは、一般的な「茶系」のスープとは明らかに一線を画し、端的に言って傑出している。ニンニクをガツンと利かせ、醬油ベースであるにもかかわらず、まるで味噌が溶け込んでいるかのごとく、この上なく風味芳醇なのだ。
トッピングの豚バラ肉も高水準で、肉に内包されているリッチな甘みに、思わず頬が落ちそうになった。この1杯を食さずして、徳島ラーメンシーンの「今」は語れないだろう。
●SHOP INFO
店名:中華そば がっつ
住:徳島県徳島市佐古二番町18-10
TEL:088-676-3749
営:11:00〜20:00
休:水(営業時間・定休日は変更の場合あり)
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ラーメン激戦区・鳴門市の名店 『とりとたい 鳴門店』
ここ数年間で一気に県内有数のラーメン激戦区と化した鳴門市に、とっておきの優良店がある。2022年11月にオープンした、『とりとたい 鳴門店』だ。ロケーションは、JR鳴門駅から徒歩15分程度、「小鳴門橋」のたもとにある(駐車場は18台分)。森の中のカフェを彷彿とさせる、およそラーメン店らしからぬスタイリッシュな内外観が特徴だ。
店の真ん中に設置された製麺室
さて、同店においては、「とりとたいラーメン」、「鶏白湯」、「味噌鶏白湯」、「シビカラ鶏白湯」など、数種類のラーメンが提供されているが、一番人気はもちろん、メニュー名に屋号を冠した「とりとたいラーメン」。その名の通り、鶏と鯛のブレンドスープを用いた一杯だ。
「とりとたいラーメン」のビジュアルは、近年、近畿地方の「鶏白湯ラーメン」の店で頻繁に見かける、ブレンダーでスープを泡立たせた、いわゆるエスプーマ系。特に西日本においては“泡系鶏白湯”と称される、それほど珍しくないタイプだ。
しかしながら、これが鶏出汁に魚介出汁を合わせた「MIXスープ」となれば、話が変わってくる。中でも、鯛出汁を合わせたスープを泡立たせて提供する一杯は、泡系の本場・近畿地方でもめったにお目にかかれない。
華やかな香りとビビッドなうま味を兼ね備えた鯛出汁が、泡立たせることによって絶妙な塩梅ではんなりと和らぎ、鶏出汁のコク・滋味と仲睦まじく手を結ぶ。鶏単体、鯛単体だけでは到達し得ないワンランク上のうま味を体現することに成功したスープは、まさに試行錯誤の集大成と言うほかない。
お店の真ん中に鎮座する製麺室で丹念に打ち込む自家製平打ち麺のすすり心地も秀逸で、スープとの相性も、この上なく良好。「ダイブめしセット」を注文すれば、麺をすすり終えた後のスープを用いた「極上リゾット」も堪能できる。
食べ始めから食べ終わりまでワクワク感が持続する、類まれな良杯だ。
●SHOP INFO
店名:とりとたい 鳴門店
住:徳島県鳴門市撫養町大桑島字濘岩浜48‐60
TEL:088-624-8185
営:平日11:00〜15:30、17:00〜20:00(19:30LO)
土日祝11:00〜20:00(19:30LO)※麺がなくなり次第終了
休:無休
アクセス:JR鳴門駅から徒歩15分(駐車場18台)