アパートやマンションに住んでいると、厄介なトラブルやピンチに巻き込まれることがある。特に都会ともなると近所付き合いや交流が希薄なため、コミュニケーションをとる機会がなく、近隣住民とふとしたことで揉めることも少なくない。
今回は、東京都内にあるペット禁止の賃貸アパートに住んでいた20代男性が遭遇した、迷惑なペット連れの隣人女性とのトラブルの一部始終を紹介する。
◆ペット禁止のアパートで隣室から猫の鳴き声が……
3年前、関西の大学を卒業し新卒入社で東京勤務になった営業マン・佐々木祐一さん(仮名・25歳)。東京の土地勘もなく初任給も少なかったため、特に理由もなく練馬区・某駅から徒歩10分ほどの場所にある家賃6万円の木造アパートに住むことに。
家賃の安いワンルームとはいえ、風呂やトイレは修繕やリノベーションがされており、「一人暮らしをするなら十分か……」と思い、快適に暮らしていた佐々木さん。近所付き合いなどは一切なく、隣にどんな人が住んでいるかは把握しようともしていなかったという。
しかし、ようやく仕事にも慣れてきた7月頃、網戸越しから「ニャー、ニャー」と猫の鳴き声が聞こえてきて違和感を覚える。というのも、佐々木さんが住む部屋は2階。猫が外からベランダに忍び込んできたとは考えづらかったからだ。
「ベランダに出て耳を澄ませると、その鳴き声は左の部屋から聞こえてきました。しかも鳴き声が何通りかあって1匹ではなく複数はいるだろうと察しました」
佐々木さんが住むアパートは『ペット禁止』と大家から厳重に言われていた。それにも関わらず、隣人は猫を飼っているのだろうか……。
しかし、わざわざ大家に報告することは面倒だし、隣人の恨みを買ってしまうと今後住みづらくなる。そう考えた佐々木さんは何もなかったことにして生活を続けていたという。
◆猫を抱く隣人と遭遇!「1万円あげるから黙っていて」
それからもたまに窓を開けると猫の鳴き声が聞こえることはあったが、スルーしていた佐々木さん。しかし、ある夜のことだった。コンビニにお酒を買いに出かけたとき、玄関先でボロボロのパジャマを着たおばさんと遭遇したのだ。
しかも彼女は小さい猫を2匹抱いており、佐々木さんが住む左の部屋に入ろうとしているところだった。
「まずいモノを見てしまったなと一瞬焦りましたが、気づいていないふりをして通り過ぎようとしました。でも、次の瞬間にそのおばさんに腕を掴まれました……」
あまりにも突然の出来事に驚いた佐々木さん。するとシワとシミが目立つ推定60歳ぐらいのおばさんが、おもむろにポケットからクシャクシャになった1万円札を渡してきたという。
「お願い。これあげるから猫のこと、黙っておいて」と耳元でささやくおばさんに恐怖を感じる佐々木さん。
「困ります……」と断ろうとしたものの「大家に言うつもりでしょ? これで許してよ」とさらに語気を強めるおばさん。その異様な圧にどうしようもなくなった佐々木さんは「言いませんので」と言い、1万円札を返そうとするが「ダメ!約束破られたら困るから」と、返そうとしていた手を振り払い、部屋へ入っていったという。
「とにかく恐怖しかなかったです。口止めや1万円札を渡してきたことはもちろん、バキバキの視線と佇まいが“やばい人”のオーラだったので……。絶対に大家には言わないし、家を出るときは隣人がいるかどうかに細心の注意をはらおうと決めましたね」
◆エスカレートする猫おばさんの行動
それからその一件のことは誰にも話さず、おばさんにも遭遇しないように暮らしていた佐々木さん。相変わらず隣室から猫の鳴き声が聞こえてくる日々が続いていた。しかし、それだけでは収まらなかった――。
ベランダから「ほら、おしっこ!」というおばさんの声が聞こえ、猫にトイレをさせるような様子が伺い知れたのだ。
「さすがに嫌でした。洗濯物を干すときにかなりの悪臭がして……。どう考えてもトイレの匂い消しを使っていなかったと思います」
我慢の限界に達してきた佐々木さんだが、脳裏におばさんと遭遇したときの恐怖体験を思い出す。大家にチクってしまえばすぐに解決しそうだが、おばさんに何をされるか分からない。佐々木さんの中に再び躊躇の感情が芽生えて「やっぱりやめておこう……」と思ったそうだ。
◆おばさんとバッタリ再会して暴力沙汰に……
それから耐え忍ぶ生活をしていた佐々木さんだが最悪の事態が起きる。会社の歓迎会で珍しく帰宅が深夜になった日のことだった。
ほろ酔いのまま廊下を歩いていると、階段からおばさんが上がってきたそうだ。「最悪だ」と思っていると、おばさんは怒りに満ちた表情で佐々木さんに迫ってくる。次の瞬間、おばさんに腕を掴まれて顔を長い爪で何度も引っかかれたそうだ。
「その姿はもはや妖怪のようでした。頬から血が出てしまいひるんでいると、僕の頭を握り拳で何度も殴ってきました。酔っていたこともあり、思わず強く押し返すとおばさんは倒れこんで号泣し始めました」
おばさんは「大家にバラしたでしょ!うちにクレームが入ったのよ、嘘つき!」と泣きながら怒鳴り、再び起き上がって佐々木さんに迫ってきたという。すると、おばさんの絶叫を聞いて2階の住民が止めに入ってくれたそうだ。
しかし、興奮が収まらないおばさんは「嘘つき!」「嘘つき!」と佐々木さんに怒鳴り散らす。「僕は何を言っていません」と言い返すが「1万円返せ!」と悪態をつき続ける。ついには大家もやってきておばさんを確保したことでようやく事態は収拾したという。
◆クレームを入れたのは誰だったのか
「クレームを入れたのは向かいのアパートに住む人でした。大家が同じだったので、ベランダで猫を撫でている姿を見かけて報告していたそうです」
顔に傷を負った佐々木さんだが「事件にはしたくない」と思い、大家が警察を呼ぼうとするのを止める。おばさんはひたすら泣き続け、部屋に戻っていったという。大家の話では、数年前にも猫をこっそりと飼っており、厳重注意を受けていたそうだ。
「都会にはとんでもない隣人が潜んでいることを痛感する出来事でした。そして、そんなトラブルメーカーをいつまでも住まわせている大家にも不信感が芽生えました」
このアパートに住み続けることが怖くなった佐々木さんは、更新前にも関わらずすぐさま引っ越しを決意。閑静なエリアのマンションに引っ越したという。新しい住居でも隣人と顔を合わせたことはないが、今のところトラブルは起きていないそうだ。
部屋選びは立地や間取り、家賃だけでなく、どんな隣人が住んでいるかにも気をつけてもよいかもしれない――。
<文/木田トウセイ>
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。