“身長180センチ”ウクライナ人女性の日本での暮らし。日本では「ヒールを履かない」理由とは

2024年5月から6月にかけて、X(旧:Twitter)上で「#デカ女ブーム」というワードが突如流行し、連日トレンド入りする事態になった。これまでも“界隈”で一定の人気を集めてきた高身長の女性たちだが、その日常生活とは一体どのようなものなのか?

今回話を聞いたのは、身長180センチのネトーチカ(アニャ)さんだ。ウクライナ出身の美女コスプレイヤーとして話題を振りまく彼女に、当事者目線で実生活での「あるある」や、ならではの「悩み」などを語ってもらった。

◆「粗悪なブラウン管テレビ」でセーラームーンを観ていた

――ロシアによるウクライナ侵攻を逃れ、2020年8月に24歳で来日されてきたネトーチカさんですが、日本のオタク文化にはどのように親しんできたんでしょうか。

ネトーチカ:日本の漫画やアニメは私が生まれる前から世界的な人気があって、私は5歳の頃にウクライナで放送されていたアニメ「美少女戦士セーラームーン」を観ていました。当時は緑色か黒色の画面しかほとんど映らないソ連製の粗悪なブラウン管テレビでしたが。

――「セーラームーン」が最初にハマった日本アニメなんですね。

ネトーチカ:「セーラームーン」が日本の作品と知ったのは少し後のことです。中学・高校と理系のコースに進むと、周りがみんなオタクで日本アニメをめちゃくちゃ観ていたので、私も自然と日本アニメに親しまざるを得なくなり、気づいたら生粋のオタクになっていました。

◆ABCマートで繰り広げられている大きな靴の争奪戦

――ウクライナも理系はオタクが多いんですね。でも当時はまさか日本でコスプレ活動するとは想像もしていなかったでしょうね。

ネトーチカ:そうですね。コスプレしているクラスメイトも高校でいましたが、ウクライナでコスプレするのはとても大変で、衣装を自作するにしても非常にお金が掛かります。

――東京だとユザワヤみたいな大きな手芸用品店が充実していますけれども。

ネトーチカ:私はウクライナ南部のオデッサ出身ですが、そうした日本のコスプレしやすい土壌や環境は世界でも特殊だと思います。

――日本の高身長女性はZARAや海外のECサイトで普段着を買う人が多いみたいなんです。ネトーチカさんは服や靴をどこで揃えていますか。

ネトーチカ:そもそもヨーロッパではジーンズにTシャツ・パーカーくらいで、日本人ほどファッションに気を使わないので、まずはそこに合わせるのが大変でした。それで原宿系のカワイイに憧れたんですが、サイズが全然ないし、きっと自分には似合わないなと思い、諦めました。袖も足りないし、肩幅も小さいし、胸のサイズとかも考えると確かにZARAくらいしか選択肢がないですね。靴はABCマートで大きいサイズを探して買っています。外国人同士が大きい靴を奪い合っていて、ABCマートも売り切れが多いので大変です。

◆小学生の頃のあだ名は「エッフェルタワー」

――2024年のデータでは、ウクライナの平均身長は男性180センチ、女性166センチとのことですが、ご家族も身長は高いですか。

ネトーチカ:父は195センチ、母は160cmです。姉は168センチなので身長が特に高いのは私と父親だけですね。私は同世代のウクライナ人女性の平均身長より5センチ高いぐらいの感覚です。

――学生時代に「高身長ならではの苦労」はあまりなかったですか。

ネトーチカ:ウクライナの学校は背の高い順に前から並ぶんですけど、30人のクラスで私は前から5番目くらいでした。小学校の頃に160センチあったので、中学生くらいまでは「キリン」とか「エッフェルタワー」とか意地悪も言われていました。体育の授業は嫌いで、よくサボっていましたね。

◆日本では「ヒールを履かない」

――日本の高身長女性も体育の授業での苦労は多いようです。

ネトーチカ:評価さえ気にしなければ、ウクライナの学校では簡単に体育の授業をサボれます。高身長なので「バレーボールの授業に出ろ」とよく言われていましたけど、自分のところにボールが来るのが嫌でした。あと、先生に電球を替えるようによく頼まれる役でめんどくさかったです。

――「高身長×スラブ系」のネトーチカさんは、日本という国では2重の意味で目立つ存在。生きづらさは感じますか。

ネトーチカ:ウクライナではヒールを履いていたんですが、日本では履かないようにしています。もともと私はかなりシャイな性格で目立つのが好きじゃないので。SNSで有名になる前は高身長であることにデメリットしか感じていませんでした。日本では私と同じくらいの身長の女性が全然いないし、街中で外国人がいると「うわ、デカ」「ガイジンやん」って思います。

――ネトーチカさんも見た目は外国人ですけど(笑)。

ネトーチカ:来日して2年以上経つので、マインドは日本人にかなり染まってきました。

◆ウクライナでも「身長の低い男性は高身長の女性が苦手」

――ウクライナで高身長女性はモテますか?

ネトーチカ:ウクライナでも、身長の低い男性は高身長の女性が苦手な傾向があります。強くて、かっこいい、男性らしいところをアピールするのにハンデを感じてしまうというか。

――ご自身は男性の身長や顔立ちって、どれくらい重視しますか。

ネトーチカ:日本人は顔や体型をとても重視しますが、スラブの文化圏では顔やスタイルで交際する男性を選ぶことはありません。とはいえ身長差が15cmぐらいあると、ハグしにくいみたいなことはあるかもしれませんけど。やっぱり将来の家庭生活を思い描ける人かどうかで選ぶことがウクライナは多いです。私個人はユーモアのセンス、笑いのツボを大切にしています。強くて守ってもらえそうな男性なら身長はあまり関係ないです。

◆日本で頑張っていたら「#デカ女」ブームが!

――いくらオタクとはいえ、やはり文化や地理的に近い国なども避難先としては考えたんでしょうか。今回も通訳を介しての取材ですけど、日本人はあまり英語できないですし……。

ネトーチカ:開戦直後、地元オデッサから一番近い隣国のモルドバへ避難したんですが、私には合わなかったですね。それから一旦ウクライナへ帰国してからは、日本に避難することだけ考えていました。当時、日本は大学の留学資格を取りやすくして避難するウクライナ人を受け入れていたので、研究生として7〜8ヶ月ほど日本の大学に籍を置いていました。

――あ、そうだったんですか。ちなみにウクライナの大学ではどんな勉強を?

ネトーチカ:建築の勉強をしていました。ただ、大学卒業後、ウクライナでも働いていたので、日本でも仕事をしたいという気持ちが強く、ウクライナ支援に力を入れて取り組む企業に就職しました。今も同じ建築系の会社で働いています。

――日本で頑張っていたら「#デカ女」ブームがやってきたと……。SNSは日本でよく見ていたんですか?

ネトーチカ:オタクで友達もいないからSNSはよく見ていましたね。「#デカ女」の投稿が盛り上がっているのを見つけて、ちょうど上野駅の天井に頭ぶつけた体験があったので、「あそこで写真を撮ったらおもしろいかもと。その画像を上げたポストが初めてのバズです。

◆日本人のキャラをコスプレするのは難しい…

――コスプレ活動はどのタイミングで始めたんですか?

ネトーチカ:去年9月、東京ゲームショウで『ニーアオートマタ』の2Bのコスプレを初めてやってみたんですが、狙った感じのコスプレにならず全然ダメでした。今より10キロぐらい太っていたし、最初はみんながコスプレ用のメイクをしているとは知らず、普段のメイクでコスプレしたら、全く思い描いたイメージにはなりませんでした。

――身長も含めた自身のビジュアルを最初は強み・武器として意識していなかったんですね。

ネトーチカ:上野駅での写真がバズった際に「八尺様(「2ちゃんねる」オカルト板に投稿された高身長女性の妖怪、ルーツは諸説)とかやってみたら?」といった声をSNSでもらい、そこで初めて高身長が自分のアドバンテージだと気づきましたね。試行錯誤の結果、彫りの深い顔立ちの私が日本人のキャラをやるのは難しいということもわかりました。

<取材・文/伊藤綾>

【伊藤綾】

1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii