Aさんが標的になった「理不尽すぎる」背景
この園にはもう少し背景があった。園児への「虐待」の隠蔽である。
主任や正社員の保育士が、なかなか言うことを聞かない一部の園児を明かりを消した部屋に閉じ込めて、「教育」する習慣が常態化していた。
この保育園は、100人ほどの園児を抱える大規模保育園なので、保育士一人が見なければならない園児の数が多く、一人一人に手をかけていられない。そこで、「手のかかる」園児を物理的に拘束し、恐怖を与えて大人しくさせていたのだ。
主に閉じ込められていた園児は年長児で、自分が受けた被害を保護者に話すことができたため、虐待があったのではないかと保護者会で追及された。
園長は保護者に対して、「暗い部屋でプラネタリウムをしていた」と噓の説明をして乗り切ろうとしたが、さすがにそれでは収まらず、最終的には加害者の保育士たちを系列の別の保育園に人事異動させることで、問題をなし崩し的に終わらせた。
園長は、この対応について、「職員を守らなくてはいけない」と話していたが、Aさんは本当に守らなければいけないのは子どもの方なのではと思い、園長たちの発言に同調せず、懐疑的な素振りを隠さなかった。そうした態度も、園長や他の保育士がAさんを疎むことに拍車をかけていたようだ。
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「言い返さなきゃよかったね」…Aさんに訪れた“胸くそ”な結末
同僚からのいじめに疲弊していたAさんにとどめを刺したのが、この年の秋に行われた園長との面談だった。園長から、来年度のAさんの雇用契約について、「更新はしません。半年前に言ったから、あとは他を探してね」と雇い止めを通告されたのだ。
他の非正規職員は契約更新されており、園の経営が悪化した様子も見当たらない。理由を尋ねると、「みんながAさんの苦情を言っているから」だという。そして、面談の終盤、園長はこう口走った。「言い返さなきゃよかったね」。Bさんのからかいのことなのか、園児への虐待のことなのか。いずれにしても、波風を立てるような保育士はいらないと言われたも同然だった。
園長は、Aさんを追い出して、園に「平穏」を取り戻したいだけだった。過去にも園長は、自分が「気に入らない」保育士を突然辞めさせたことがあった。
Aさんは園長に対して、「改めるべきことは、改めます」と不本意ながら頭を下げた。
改めるべきはAさんではなく、非正規職員や園児を軽視し、保育園を「無事に」運営することしか考えていない園長の方なのだが、Aさんは従順に振る舞うことを選ぶしかなかった。
坂倉昇平
ハラスメント対策専門家