働く人のキャリアを決めるのは、自分か、会社か。働く人自らがキャリア形成に主体的に取り組む「キャリア自律」の考え方が広がっている。

しかし、聞こえはいいが、「結局、自己責任でやれ!」ということにならないか。自分の将来を真剣に考えている人は少ないなか、どうすればいいのか。

キャリアを決めるのは自分か、会社か~キャリアプランをもつ人の少なさから考えるキャリア自律支援」(2024年12月11日)というリポートの中で、企業の支援を訴えた第一生命経済研究所の福澤涼子さんに話を聞いた。

自分の将来のキャリア、「特に考えていない人」7割

福澤涼子さんはリポートの中で、「キャリア自律」の考え方が重要視される背景には、雇用や職務の安定性の揺らぎがあると指摘している。

背景として、企業が存続していくには、常にビジネスモデルを変革し続ける必要があり、求められる職務やスキルも頻繁に変容せざるをえず、企業が労働者に画一的なキャリア像を提示することが難しくなった。

だからこそ、個人が自らのキャリアを管理し、自己責任で必要なスキルや専門性を自主的に開発するキャリア自律が求められる。また、出産や子育てなどライフステージに応じて働き方を変える人が増えているため、キャリア自律は誰もがその人らしく働くために必要な考え方となっている。

【図表1】は、正社員に自分自身のこれからの職業生活設計をどう考えているかを聞いた厚生労働省の調査結果(2023年)だ。

キャリアプランを「会社で提示してほしい」と考える人は2割にとどまる一方、「自分で考えていきたい」と答えた人は7割に上る。キャリア自律に前向きであることがうかがえる。

しかし、実際はキャリアの将来像が明確になっていない人が多い。【図表2】は、正社員に将来希望する働き方を聞いた厚生労働省の調査だ。

「会社幹部、管理職」「専門職の仕事」といった具体的な希望をもつ人は半数にとどまり、「なりゆきにまかせたい」と「わからない」が半数にのぼった。他の調査(日本生産性本部など)でも、7割以上が「特に考えていない」と回答している。

キャリアプランを描けない人が多い理由の1つに、人事異動が会社主導で行われていることがあげられる。しかし現在、異動に従業員の意見・希望をできるだけ反映させる制度が広がっている。従業員が自ら応募する異動制度(社内公募制/社内FA制度)や、専門家によるキャリアカウンセリングの導入などがそれだ。

福澤涼子さんは、こう訴えている。

「キャリア自律は、働く人の主体性を重んじる考え方だが、誰もが能動的に取り組めるわけではない。特に働きながら育児や介護などに従事する人にとっては、理想のキャリアと家庭との間で葛藤が生じやすく、目標設定が難しい。今後は、一人ひとりがその人らしいキャリア目標を描き、納得感をもって能力開発していけるような企業の支援が求められる」

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「企業の寿命」より、自分の「働く寿命」のほうが長い

J‐CASTニュースBiz編集部は、福澤涼子さんから話を聞いた。

――働く人のキャリアを決めるのは本人か、会社かという問いかけについては、ズバリ、どちらだと考えていますか。

福澤涼子さん 二律背反するものではないと思いますが、どちらかという本人である世の中になってほしいと思っています。

いま働く人は多様化しています。たとえば、大手企業であればいろいろな勤務地に転勤し、それで少しずつキャリアアップしていくような流れがあります。しかしこれは男性中心のキャリアアップで、小さい子どもを育てている女性はそういうケースで簡単に「はい、行きます」とは言いにくいです。

私は2回転職をして、前職でワーキングマザーのキャリアアドバイザーをしてしました。ママたちは子どもの学校のこともあるし、転勤することは難しいことも多いものです。もっとキャリアアップして稼ぎたいと思っても、子育て中だからとキャリア展望の持ちにくい補助的な業務を任されることもあり、それが「マミートラック」です。

一方で、仕事をセーブして子育てに重点を置きたいと考えるワーキングマザーもいて、どちらが正解とも言えないと思います。そのため、本人の希望がより反映される人事だと良いのにと感じてきました。

――それは、もちろん男性も同じですね。

福澤涼子さん より個人が決めていく時代になっていくと思います。かつては、日本の企業は長期の雇用を保障する代わりに、本人のキャリアについては企業が主導権を持ち人事管理をしてきました。

いろいろなポジションを順番に経験する人事異動で、年功序列で給与があがり偉くなっていくキャリア形成でした。ですが、今では長期的な雇用が保障しにくくなっています。

それに、ビジネス変化のスピードが早くなり、事業が生まれて撤退するまでのサイクルも早くなりました。事業が急になくなることが増えると、長期的な計画をもとにキャリア形成を支援することが難しくなっています。従来の画一的なキャリア形成支援では不十分なのです。

――つまり、会社任せではなく、自分でキャリア形成を考えていかないとダメだということですね。

福澤涼子さん そのとおりです。本人の主体性が大事になるのです。それに、私たちが働く期間が延びているなかで、「企業の寿命」より自分の「働く寿命」のほうが長いことだってあるわけでしょう。

だからこそ、就職しているから安心ではなく、いつでも転職できるように自分の市場価値を高めていく必要があります。「エンプロイアビリティ」(雇われる力)が重要になると言われます。企業でのキャリア形成支援では、必ずしも他社でもやっていけるスキルを身に着けさせてくれるわけではありません。

自分自身で労働市場を意識しながら、スキルを身に着けておく必要があり、そのためにも自分で自分のキャリアを形成していくという姿勢や行動が求められるのです。