延命治療はしてほしくない。そうした意思を持つ高齢者に対してどのような治療や措置を行うべきなのか。
日本救急医学会など関係する14学会はこのほど「高齢者救急問題の現状とその対応策についての提言2024」(※)と題したガイドラインをまとめ、12月20日、福岡資麿厚生労働大臣に申し入れるとともに、東京都内で記者会見を開いた。
同学会などが高齢者救急について提言を行うのは初めて。
※https://jxiv.jst.go.jp/index.php/jxiv/preprint/view/998/
救急医療のひっ迫につながることもある
全国の65歳以上の男女を対象に内閣府が行った「高齢者の健康に関する意識調査」(平成24年)において、延命治療に対する考え方の回答率は「自然にまかせてほしい」が91.1%。「あらゆる医療をしてほしい」の回答率4.7%を大きく上回った。
しかし、今回の提言(書)と記者会見では、現状として「自然にまかせてほしい」と考える人に治療が施されるケースもあるという実態と、その課題が浮き彫りにされた。
提言は冒頭、日本の65歳以上の高齢者人口の割合が2022年に29%、うち75歳以上は15.6%に達し、「超高齢化社会」が進行していることを挙げた。
そうした状況の下、心停止となった際に心肺蘇生を行わない「DNAR(do not attempt resuscitation)」の意思を明らかにしている人などが、高度な救急医療を提供できる数の限られた病院に救急搬送されることが少なくないとし、「ご本人の意に沿わない医療行為が行われたり、救急医療のひっ迫につながることもある」と問題提起する。
緊急医療のひっ迫は、新型コロナウイルス感染症禍で顕著となり、急患の患者が治療を受けられないといったことも問題となった。コロナの感染症分類が5類となったことも機に、提言の提出が準備されてきた。
提言ではまた、救急搬送件数が年々増加し、現場・病院までの救急車の到着時間が延伸していることや、救急搬送人員の62.1%を高齢者が占めていることも伝えている。
結果として本人が望まない最期を迎える
提言は、市民、高齢者医療・ケアスタッフ、病院、消防職員、厚労省など関係する8者に宛てるかたちでまとめられた。
このうち「市民」への提言では、「どのような生き方を望むか、どのような医療やケアを受けたいか」などを日頃から家族やかかりつけ医と繰り返し話し合っておくよう求めた。
たとえば、本人が「DNAR」の意思を持っているにもかかわらず、急変した場合に家族らがあわてて救急車を呼んでしまうことが少なくない。こうした時に、救急隊による心臓マッサージ(胸骨圧迫)の結果、骨折や出血した上に蘇生できない場合もあり、「結果としてご本人の望まない最期を迎えることがある」という。
こうしたことから、普段から緊急時の連絡先を確認し合い、また、急変時などには「#7119」(救急相談ダイヤル)や「Q助」(救急受診WEBアプリ)を活用することをすすめている。
また、「急性期~慢性期病院」に宛てた提言では、もっとも大切なこととして、「患者さんご本人の意思の尊重」を挙げ、「患者さんが今後どのような人生を望むのか」を(医療現場の)多職種で確認・支援することを求めた。
さらに、「消防職員」に対しては、「傷病者の『DNAR』が判明した際の体制整備」を要望。現場に駆け付けても、傷病者の意思に沿って、かかりつけ医の指示の下に、「救急隊が心肺蘇生を中止できる、あるいは不搬送が可能となる」体制を整えることを求めた。
「決して救急医療を差し控えるためではない」
会見では、提言にあたり、日本救急医学会をはじめとする14学会、さらに日本弁護士連合会なども加わった19団体による「高齢者救急問題を検討する懇話会」で問題点などが話し合われてきたことなど、これまでの経緯や現状、対策が語られた。
会見に出席した日本救急医学会の大友康裕代表理事は、「(高齢者救急は)増加の一途をたどり、救急医療におけるウエイトも年々増しているが、高齢者救急には複雑な事情がある。適切な診療を行うよう努力したつもりであっても、結果的に患者さんや家族から『望んでいた治療と違う』『こういうことはしてほしくなかった』とお叱りを受けることも多々ある」と語った。
懇話会の委員長を務めた同学会高齢者救急委員会前委員長の真弓俊彦氏は、「提言は、決して高齢者の方への救急医療を差し控えるためのものではない。軽症、中等度(症状)の方の救急搬送は非常に増えているが、それを抑制しようというためのものでもない。高齢者の方が満足して(人生の)最期を迎えられるような世の中にしていきたい、という願いを込めた」と述べた。
「お正月に家族でディスカッションしていただきたい」
昨年他界した筆者の母は幸い最期まで意思疎通がかない、眠るように息を引き取った。しかし、延命治療などについて語り合うことはなかった。生前に、最期をどう迎えるかを語り合うことに抵抗感があるのは否めない。
真弓委員長は、「(救急搬送時などに)本人の意思確認ができないことが少なからずあるが、どういう最期を迎えたいと思っていたかを家族に聞いてもほとんどの方がそうしたことは話したことがない、と答えられる」と話す。
日頃の話し合いによって本人の考えが家族内で共有されていればこそ、その意思を尊重することができる。本人の誕生日や、敬老の日(9月第3月曜日)などのほか、「お正月(年末年始)の家族が集まったときも話し合いを持ついいタイミング。高齢の家族がいる方は、ぜひ今後の人生のあり方についてディスカッションしていただきたい」(大友代表理事)。