「働き損」の額は東京都の場合、年間で15万円を超える水準
――「106万円の壁」撤廃の意義と、メリット&デメリットをわかりやすく説明してください。
川上敬太郎さん 社会保険に入りたいのに収入要件を満たさず入れなかった人にとって、106万円の壁が撤廃されると加入できるようになる点は大きなメリットだと思います。106万円の壁を超えると厚生年金に加入できるので、国民年金(基礎年金)にプラスした年金額が支給されます。
しかしながら、社会保険に加入すれば保険料を支払うことになるため、その分の手取りは減少することになります。たとえば、東京都だとその額は年間で15万円を超える水準です。106万円の壁を超えるなら、それ以上まで収入を増やさないと働き損が発生してしまうのは「つくられた壁」です。簡単なことではありませんが、制度を改正すればなくすことはできます。
ただ、この壁はとても構造が複雑です。かつ、いくつもの壁が山脈のように連なっているので、どれか一つの壁だけを壊すだけでは取り払えません。山脈ごとゴソっと取り払う取り組みが必要です。
――すぐに解決できる簡単な問題ではないわけですね。
川上敬太郎さん 一方で、根本的な壁は年収の壁ではなく、各ご家庭の中で生じている「時間制約の壁」です。
いまは女性ばかりが時間制約の壁に阻まれていますが、男性の育休取得率上昇に象徴されるように、時間制約の壁は男性の前にも現れるようになってきました。
むしろ、性別を問わず誰もが仕事と家庭を両立させるために時間制約の壁を意識しながら働く時代へと移り変わりつつあるのだと思います。
その中で、仕事においてはパフォーマンスを最大化させ、かつ無理なく豊かに生活できる仕組みを社会全体で再構築していく必要があると考えています。
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時間制約のない働き方こそが特殊だったと、受け止め直す必要が
――時間制約の壁を意識しながら働くというのは、どういうことでしょうか。
川上敬太郎さん そもそもご家庭ごとに時間制約の壁がありますが、106万円の壁が撤廃された場合は「週20時間」という、もうひとつの時間制約の壁が意識されることになります。年収という条件よりも、時間制約の存在がより強く認識されていくようになっていくと感じます。
専業主婦家庭では、その裏返しとして夫が仕事専業で働けたわけですが、社会はずっとそんな時間制約のない働き方を標準だと見なしてきました。しかし、時間制約の存在がより強く認識されていく中で、時間制約のない働き方こそが特殊であったのだと受け止め直す必要があると思います。
もちろん、夫婦どちらかが専業主婦・主夫という体制が最適というご家庭もあると思います。最適な夫婦のあり方は、ご家庭によって異なるのは当然です。
ただその一方で、性別を問わず夫婦共に時間制約の壁を意識しながら働くという体制も標準になりつつあることも踏まえて、生活スタイルのあり方を捉え直す時期に来ているのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)