現在、ワイドショーなどでコメンテーターとして活躍中の法学者・山口真由さん。東大首席→財務省官僚→弁護士→ハーバード留学という輝かしい経歴を持ちながらも、「自分を天才とは思わない」という。
「ガリ勉はイケてない」「学生時代の成績なんて社会に出たら役に立たない」という風潮は依然として根強く、それは10年前に出した初の著書『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』が発売された当時から変わっていないと話す山口さん。しかし同時に「だからこそ、いま発信する意味がある」とも語る。
◆「努力しない人はどんな状況でも努力しない」
――山口さんは「努力」についてどう考えていますか? 昔から並々ならぬ努力を重ねてきた山口さんだからこそ、気づくこともあるのではないでしょうか。
山口真由(以下、山口):あるテレビ番組で共演者から「学生時代、勉強ばかりしてつまらないやつだな」と言われ、とても傷ついたことがあるんです。でもその場では番組の雰囲気を壊したくなくて、本当に辛かったのですが受け流しました。同時にこの発言の真意について気づいたことがありました。
それは「人は常に自分の立場が脅かされることを恐れている」ということ。もしも相手が雲の上のような存在であれば「あの人とは住む世界が違うから仕方ない」と諦めがつくかもしれません。ですが、共演者にとって私は同じレベルもしくは自分以下と捉えていたのでしょう。だから、自分が気を抜いているあいだにも努力し続ける人が存在しているという現実を見て、恐れたのだと思います。
一方、厚生労働省の統計によれば、子どもがゲームの時間を減らしても勉強時間が増えないとされています。要するに努力しない人はどんな状況でも努力しないんです。
――山口さんは番組で揶揄されて、その後どうやって乗り越えたのでしょうか?
山口:確かに傷つきましたが、読書によるインプットを続けることが私の最大の強みで、この習慣は一生変わらないと思います。周りに何を言われようと、この習慣を続けることで、40代、50代、60代と新しいキャリアに挑戦できるのではないかと考えています。だから、努力を矮小化する人たちに対してムキになる必要も、時間もないのです。
――周囲の妬みに対抗するのではなく、自分がやるべきことをコツコツと積み上げていくことが大切なのですね。
山口:人の意見に流される必要なんてこれっぽっちもなくて、多様性の時代だからこそ、自分のやりたいようにやればいいのです。ただし、これらを自己主張しすぎるのは嫌なので、番組出演時のように揶揄されても「あ、そうですか?」と軽く受け流すくらいがちょうどいいのかなと思っています。
◆成長志向を持つ人が組織で働きやすくなった
――初の著作が出てから10年が経ち、働き方改革によって労働環境は大きく変わりました。こうした現状を踏まえ、山口さんが考える最適な働き方について教えてください。
山口:働き方が変化した昨今、多くの人が「キャリアの二毛作」を視野に入れて転職を考え、スキルを向上させることで、副業やリモートワークを活用して効率的に時間を使える時代になっています。
つまり現在は自己管理を徹底し、効率的にインプットしながら自分の進むべき道を切り開く能力が求められているんです。本書には、キャリアを切り開くための具体的な方法の数々を記載しました。
――努力の差によって格差が生じる社会が到来するかもしれませんね。もしかしたら、すべての働く人がフリーランスとして活躍する未来もあったりして。
山口:正直、フリーランスという働き方を積極的におすすめしようとは思いません。私の著書『挫折からのキャリア論』(日経BP)にも書きましたが、ハーバード大学への留学から帰国した際の月収は8万円でした。国民健康保険料が前年の収入を基に計算されるため、支払いが本当に大変だったんです…。
昨今、会社に籍を置きながら副業をしたり、趣味を通じてコミュニティに参加することができる時代です。自分の裁量で仕事と趣味の時間を調整し、成長志向を持って努力することも可能な選択肢が増えています。前述のとおり、努力する人が揶揄される風潮は根強く残っていますが、この10年で成長志向を持つ人が組織内で陰口を叩かれることなく活動できるようになってきたと思いますよ。
◆成功するのは“とりあえずやってみる人”
――山口さんのおっしゃる通り、働き方が変わり、個人の努力次第で成長できる時代になったように感じます。では、成長する人と成長しない人にはどのような特徴があるのでしょうか?
山口:スタンフォード大学の教授が提唱する「成長マインドセット」が人気ですが、私もその考え方には共感しています。私自身、「やればできる」と信じて何事にも取り組んでいますから。
――本書でも「苦手なことがあれば、自分の得意な方法で努力するべき」と書いていますね。
山口:そうですね。私も以前クイズ番組に出演しましたが、あまり活躍できず、苦手だと痛感しました。でも、実際に挑戦したからこそ苦手だと認識できたんです。もし挑戦しなければ、自分が得意なのか苦手なのかすらわからないままだったでしょう。だから食わず嫌いで、得意かもしれないことを見逃してしまう人はなかなか成長できないでしょうね。
――ちなみに、自分が苦手だと思っていたことが、実はそうでもなかったといった経験はありますか?
山口:コメンテーターや大学の教授をしていますが、もともと「話すこと」が得意ではないと思っていました。今も「話すのが早すぎる」と言われることがありますが、最初から苦手だと決めつけずに挑戦し続けたおかげで、こうしてテレビでもの仕事をいただけています。不安があっても挑戦してみると、案外うまくいくこともありますので、失敗を恐れずに挑戦するマインドセットが成長には必要だと思いますよ。
◆自分流のモチベーションで楽しく生き抜こう
――本書では「完璧主義が自分を苦しめる」と述べられていますが、SNSの普及で他人と比較しやすくなり、完璧主義が増えているように感じます。そこで、現代社会で完璧にこだわりすぎず目標に向かって努力するためのコツを教えてください。
山口:「自己肯定感を高めるためには、内発的動機づけのモチベーションはよく、外発的動機づけのモチベーションはだめ」と言われることがありますが、私は基本的に「~~しなきゃ」「~~したほうがいい」といった外発的モチベーションで生きています。義務感で動いていると言っても過言ではありませんが、それでも十分に幸せです。テレビ出演の際、トピックについて義務感で調べていますが、結果的に楽しんでいることも普通にあります。
――自分に合ったライフスタイルを見つけることが大切だと?
山口:そうです。SNSで他人と比較して精神的に参ってしまう人もいると聞きますが、私はむしろ他人と比べることを生きがいにしています。今でもエスカレーターで人と並んだ時に「この人より早く上りたい!」と思いますし、レジでも「この人より早く精算してもらいたい」なんて考えていますから(笑)。
また、私には子どもがいますが、どれだけ内発的動機づけを大切にしても、幼稚園や学校などの社会に入れば、運動会や学業の成績などあらゆる競争に晒されるんです。もちろん内発的動機づけも大切ですが、その考えに縛られる必要はないと思うんです。あまりがんじがらめになると辛くなりますしね。
それに、内発的動機づけで動いて自己肯定感を高めた先に何があるんでしょうか。よく瞑想がよいとか言われますが、私の場合、その時間を読書に使う方がよっぽど有意義です。自分に合ったモチベーションの上げ方を見つけて、それに従って生きればいいんですよ。
<取材・文/ 西脇章太(にげば企画)>
【山口真由】
1983年、北海道生まれ。’06年、大学卒業後に財務省入省。法律事務所勤務を経て、ハーバード大学ロースクールに留学。帰国後、東京大学大学院博士課程を修了し、’21年、信州大学特任教授に就任