与党が過半数割れした2024年10月の衆院選では、「手取りを増やす」ことを訴えてきた国民民主党が大幅に議席を伸ばした。直後に玉木雄一郎衆院議員(代表の役職停止中)の不倫スキャンダルが発覚したものの、政党支持率は堅調だ。

当面の焦点は所得税が非課税になる「年収103万円の壁」の行方だ。

与党が12月20日に決定した税制改正大綱では、123万円まで引き上げる方針が明記されたが、国民民主は引き続き178万円への引き上げを求めており、「延長戦」に突入している。12月24日に予定されていた自民、公明、国民民主3党による協議は、自民党の宮沢洋一税調会長の日程を理由に見送られた。

玉木氏はこの日、J-CASTニュースの取材に応じ、この経緯を「絶対『宮沢逃げるな』という風になる」と非難。現時点で国民民主が25年度の本予算案に賛成する可能性は「ゼロ」だとした。予算が通らなければ政権が倒れるとして、宮沢氏について「倒閣運動しているのと同じ」「まるで野党のような振る舞いになっている」などと指摘した。

25年7月に予定される参院選への対応など、今後の取り組みについて2回にわたって幅広く聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)

キャスティングボート握る目標を選挙1回分早く達成

―― 衆院選では議席が7議席から28議席へと、大幅に伸びました。勝因をどう分析しますか。「手取りを増やす。」がキーメッセージでした。これが奏功したのでしょうか。

玉木: 3つ要素がありました。1つ目は、主張が明確で「手取りを増やす」と言っていたことです。2つ目が、今まで自民党も立憲民主党も踏み込まなかった、現役世代や若い世代に、ある種ターゲティングしたことです。日本記者クラブで行われた党首討論会では、パネルに「若者をつぶすな」と書きました。今のまま行くと、やはり若い人ばかりに負担がいって、いくら働いてもこの国では恵まれないし報われないということを変えたい、ということを明確に打ち出しました。3つ目は、やはりネット戦略。「戦略」というわけでもありませんが、地上波でほとんど取り上げられない政党だった我々は、ネットに行かざるを得ず、先行者メリットができていたというのが実態だと思います。YouTubeの「たまきチャンネル」も、7年も前に始めていたのが結果として良かった、ということですね。

―― 1本目の動画は18年7月。表参道で「見たことあります?」と街頭インタビューする内容でした。あまり知名度は高くない様子でした。

玉木: 今、同じのをやってみたいね~。実は23年の代表選で掲げた中期政策が、少し前倒しで、全部その通り当たっているんですね(編注: 選挙公報の「基本姿勢」の項目に「大型国政選挙ごとに比例票の2割増=次の衆院選で380万票、 次の参院選で460万票を獲得し、 キャスティングボート(決定権)を握る政治勢力に成長させる」とある。24年衆院選の比例票は617万票)。次の次の衆院選ぐらいまでには、共産党さんや公明党さんを超えるぞ。一言でいうと全国で600万票を超える比例票を取れる存在感のある政党になろう。そうなれば、そのときには必ずキャスティングボートを握れるような政治状況になっていて、私達が政策実現力を高めることができる…ということは、実は23年から訴えていました。それが実現したということですが、誤算だったのは、選挙1回分早く実現したということです。

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「売れない『実力派』地下アイドル」だったところに希望があった

―― 「リハック」の番組で、大学生から「売れない実力派地下アイドル」だと指摘されて話題になりました。これが23年5月。1年半の間に急速に支持が拡大したということでしょうか。

玉木: 彼女が言ってくれたのが「売れない地下アイドル」ではなくて「売れない『実力派』地下アイドル」だったところに希望があったんですよね。つまり、当時から大学生、若い人を中心に、「国民民主党や玉木雄一郎さんの政策いいぞ」という、「知る人ぞ知る存在」だったことは間違いありませんでしたし、比較的10~20代の支持は当時から高かった。ネットリテラシーが高くて、我々の政策を積極的に見るような人にとっては、元々響いていたわけです。選挙になると地上波でも取り上げてくれますから、露出も増やしながら議席の大幅増につながっていった、ということです。特に選挙が終わってからの方が、国民民主党の認知度は上がったと思います。「4倍増」になったことで注目されて、「何言ってんだ」と政策をみたら「手取りを増やす」「103万円の壁を引き上げる」と言っていて「いいじゃないか」と……。今回特別に新しいことをやったわけではなく、結党以来同じことを言い続けてきて、多くの国民の皆さんに「見つけていただいた」選挙でした。なので、選挙後は「見つけてくれてありがとう」と言ったんです。

―― AKB48のような大所帯のアイドルグループのメンバーも「私を見つけてくれてありがとう」という言い方をしますね。

玉木: そういう感覚です。日本経済新聞社とテレビ東京の12月20?22日の世論調査では、国民民主党の支持率が14%。立憲が9%で、その1.5倍ぐらい、2桁になっているのは夢のような事態です。我々としてはこれを慢心せずに、止まらずに前に進み続けたいと思っています。その意味では自公には柔軟に、我々国民民主党をはじめとした野党の意見も聞いてもらいたいし、我々も今まで反映されなかった声を政策の形で実現していく責任を負ったと思っています。だからこの「103万円の壁」をめぐる問題は簡単には譲れませんし、178万円を目指して頑張るというのは、変わらぬ方針で貫きたいと思っています。

―― 先ほどの地下アイドルの例え話で言うと、もうメジャーデビューして「地上」に出て、ある程度大きな会場でコンサートをするような感じに……。

玉木: まだまだそんなことはないんですけどね。ここからが勝負だと思いますね。ただ、今回の選挙で特徴的だったのは、1野党が言った政策が、ニュースやワイドショーを通じて、これだけお茶の間を巻き込んで話題になったのは、おそらく初めてだという点です。政治報道といえば「麻生さんと茂木さんが飯食った」みたいな話ばかりで、1票入れても結局変わらない感覚を持たれていましたが、「1票入れたら、ひょっとしたら手取りが増えるかもしれない」「税制が、政策が変わるかもしれない」と、特に若い人に思ってもらったという意味では、非常に意義ある選挙だったと思います。(選挙戦は)「政治とカネ」で一色でしたが、そういうときに正面から経済政策を訴えたところが現役世代に響いたと思っています。

―― 国会審議の風景は変わりましたか。

玉木: 自公だけで物事を決められなくなったのが大きいですよ。我々は「103万」に集中していますが、ちょっと目を転じると、「政策活動費」を廃止する法案が成立しました。最初、自民党は抵抗していましたが、立憲や維新とも一緒に法案を出して成立したわけです。大きな変化です。多様な意見を聞く国会になってきた、というのはプラスに捉えています。