高齢の親や家族と離れて暮らしている場合、万が一のときのことを考えると不安に駆られることも……。そんなときに頼りになるのが「近くの他人」という存在。人付き合いは面倒な部分もありますが、実家の近所の人に挨拶していくだけでいざというときに頼りになります。次の帰省時に実践できる小さな恩返しについてケアマネジャーの田中克典氏の著書『親への小さな恩返し100リスト』(主婦と生活社)より解説します。

帰省土産はお隣にも。声がけをお願いする

昔なじみのお隣さん、親が毎朝通う太極拳の仲間、ママ友以来の親友……など、近所に住み、親が日常的に交流している人たちは、親のセーフティネット。

「あら? 山田さん、今朝は太極拳に来ていないわね。どうしたのかしら」と家を訪問してくれたり、腰を痛めて動けないときは、「ゴミ、ついでに私が出しておくね」とゴミ集積場まで運んでくれたり、地震のあと「無事だった?」と声をかけあったり。

いざというとき、頼りになるのは、まさに「遠くの親戚より、近くの他人」です

帰省の際には、こうした人たちに挨拶をしておくのが、子の役目。

特に親が懇意にしているご近所さんや友だちには、手土産を持って、「いつも母(父)がお世話になっています。最近ちょっと足が悪くて早く歩けないので、地震や何かあったときは声をかけてやってください」などとお願いしておきます。そのためにも親の交友関係を把握することが大切。

わからなければ、親に聞きましょう。また、その人たちの電話番号など連絡先を子も共有し、いざというとき、連絡を取り合えるようにしておくと安心です。

親が住む地域の自治会長や民生委員にも挨拶をして面識を作っておくことをおすすめします。民生委員は高齢者や障碍者などの生活や福祉に関する相談にのり、状況に応じて情報提供や生活支援をしてくれる心強い存在。

自治体から民生委員に高齢者世帯のリストが渡され、各家を訪問してくれますが、帰省のときには、こちらから連絡して、顔を合わせておき、子の連絡先を伝えておきましょう。

いざ親のことで困ったり、助けが必要なとき、相談しやすいと思います。もし親が住む地区の担当の民生委員がわからない場合は、役所に問い合わせれば教えてもらえます。

自分の子どもが「親をよろしくお願いします」と周りに言ってくれることは、親の立場からすれば、うれしいもの。「いい息子(娘)さんだね」なんて言われれば、なおうれしいはずです

子どもが親を思う姿は、周りから見ても微笑ましいですから、自然に協力してあげようという気持ちになるものです。子のちょっとした心遣いが、親の緊急時に大いに役立つのです。

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親の友人や、その子ども同士でつながる

帰省の際には、親の友人やご近所さんにも手土産を持って挨拶しましょう、とお伝えしました。それには、親の交友関係を把握し、連絡先を聞いておくことが必要です。昔はみなさん、手書きの住所録や電話帳を作っていたものですが、年をとると、連絡先の管理も難しくなります。

高齢者は施設に入ったり、子どもの家で世話になったり、固定電話を解約したりと、住所や電話番号が変わる人も多いため、いざ連絡をとろうと電話をかけたら、「この番号は現在使われておりません」とメッセージが流れた、ということも。

ですので、一度きちんと、親の住所を更新してください。親から交友関係を聞き取り、改めて住所録を作りましょう。手書き、もしくはパソコンで作成してもいいですが、必ず紙に印刷して親に渡してください。少々手間がかかりますが、これは大事な恩返しです。

その際に、疎遠になっている友人には、電話番号の確認を兼ねて、子から電話をかけ、「◯◯の娘です。母が声を聞きたいと言っておりますので~」と仲立ちして、話す機会を作ってあげるのも、子の心遣い。それがきっかけで再会し、交友関係が復活することにつながります。

親が特に親しくしている近所の人とは、子もLINEなどでつながっておきましょう。親の身に何か起きたらすぐ知らせてもらう、あるいは、親と連絡がとれないときに様子を見に行ってもらう。そういう関係性を作っておくと安心です。

親の友人の子どもともつながっておくと、さらに心強いでしょう。もともと親の友人の子どもと顔見知りだったり、子ども同士も友だちだったりすれば、容易につながることができると思います。

そうじゃない場合は、帰省の際に、「あなたのお母さんには、いつもうちの母がお世話になっています」と挨拶して面識を作っておき、連絡先を交換しましょう。家族ぐるみでつながっておけば、子ども同士で情報交換ができますし、帰省のときに双方の親子一緒に食事するなど交流をより深められます。

田中克典

ケアマネジャー