定年後も働き続ける高齢者が増えています。その理由はさまざま、経済的な理由で仕方なく働く人は少なくありません。なかには、現役時代の収入が高いにもかかわらず、セカンドライフになって経済的に困難な状況に陥るケースもあるようで……。本記事では、亀井さん(仮名)の事例とともに、高齢者の就労の現状と課題について、合同会社エミタメの代表を務めるFPの三原由紀氏が解説します。

定年後の夢、リゾバに邁進した元エリート

亀井さん(仮名/67歳)は専門商社で部長を務めた元エリートです。現役時代の最高月収は90万円程度。38年にわたる会社人生で培ったスキルと経験は、誰もが羨むキャリアの証。しかし、定年退職後に待ち受けていたのは、予想もしなかった人生の急展開でした。

60歳で突然の熟年離婚、財産分与により手元に残ったのは、わずか預貯金1,000万円と分割された月14万円の年金。かつての「勝ち組」と呼ばれた彼の人生は、一転して厳しい経済的現実に直面することになります。

シニア求人を探す日々

65歳までは継続雇用でなんとか暮らせていましたが、年金生活に入ると首都圏での賃貸暮らしは経済的に厳しくなりました。ハローワークで求人を探す日々。警備や介護施設の送迎業務など、デスクワーク一筋だった彼にはピンと来ない仕事ばかり。

そんななか、ネットで求人情報を検索していた彼の目に留まったのが「リゾバ」の文字。リゾートバイトの略です。「この年で求人なんてあるのかな」と半信半疑で調べてみると、60代でも少ないながら求人があることがわかりました。

学生時代のスキー場バイトの懐かしい思い出と、自由を謳歌したいという渇望が、亀井さんを新たな挑戦へと突き動かしました。

「住居と食事が提供されるなら一石二鳥。いや、収入もついてくるから一石三鳥だ!」と確信します。元来、自由奔放な性格で、束縛が嫌いだった亀井さん。「離婚していまや自由を謳歌できる! 全国を移動しながら働けるなんて最高じゃないか」人生最後の冒険に、期待と不安が入り混じりながら、リゾートバイトの世界へ飛び込んでいきます。

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大晦日「おっさん、ちんたらすんな」

勤務先は山間部にあるホテル。配属先は洗い場、調理補助、客室清掃などの裏方業務です。デスクワーク歴43年の亀井さんにとって、フィジカルな仕事は想像以上に過酷でした。また、亀井さんが働き始めたのは、12月の初旬。年末年始はこのホテルが1年で最も忙しい繁忙期です。慣れない環境に心身の疲労もピークに達し、ついに大晦日の午後、失態を犯してしまいます。

「おっさん、ちんたらすんな。チェックインに間に合わねーぞ!」

すれ違いざまに20代のガテン系バイトリーダーから「……チッ!」と聞こえました。「えっ、いま俺、舌打ちされたのか? あんな40も年下の子に?」と亀井さんは動揺を隠せません。単純作業だと甘くみていましたが、教わったことが覚えられず、要求されるスピードについていけないのです。なんとか2ヵ月の契約期間を死に物狂いで乗り切りましたが、「こんな生活を続けるなんて無理だ」と悟ります。

三食しっかり食べられて、家賃光熱費は会社持ち、そのうえで給与が出るなんて最高だと思っていましたが、現実は厳しかったのです。時給換算すると1,200円。2ヵ月働きつづけて手元に残ったのは30万円ほど。頑張った自分を褒めてあげたいですが、これは続けられないと痛感した亀井さんでした。